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コーヒーにスプーン一杯のミステリーを

オリジナル小説ブログです。目指しているのは死体の転がっていないミステリー(たまに転がりますが)。掌編から長編まで、人の心を見つめながら物語を紡いでいます。カテゴリから入ると、小説を始めから読むことができます。巨石紀行や物語談義などの雑記もお楽しみください(^^)

 

【scriviamo!参加作品】 【奇跡を売る店】 龍王の翡翠 

八少女夕さん企画【scriviamo!】参加作品です。

ブログ『scribo ergo sum』の管理人さん、八少女夕さんは、素晴らしい「物書き」さんです。
流れるような読みやすい文章の中に、奥深いものが潜んでいる。そんな豊かな物語の世界に私たちを引き込んでくださる魔法使いかもしれません。その情景描写は素晴らしく、読後しばらく目を閉じて、じっくりと物語世界を楽しみたくなります。……なんて解説はもう不要でしょうね(*^_^*)
しかも! 精力的に作品を発表される傍ら、交流を積極的に奨められる夕さん。scriviamo!は、私たちの作品に夕さんが返歌を下さるという(しかもあり得ないスピードで!)、信じられない企画です。
やはり夕さんはスーパーマン、じゃなくてスーパーウーマンですね!

小説で参加するのも何だか自分の中ではありきたりだし、ちょっとイラストでも描いてみようかと思ったけれど、見事に座礁し、岩場であっぷあっぷするお魚さんのようになりながら、何とか発表に至りました。
が! もう今回ほど「産みの苦しみ」に喘いだことはありませんでした。
絶対に『龍王様の呪い』だと思われます。
お前、そんな簡単に龍王と『龍の媾合(みとあたい)』に手を出すな、と……

ごめんなさい、龍王様。本当に反省しています。
でも、この物語は、私が初めて拝読した夕さんの作品で、深く感銘を受けたものでしたので……
官能的というので夕さんが別館に仕舞っておられるのですけれど、この『龍の媾合』のイメージはかなり強烈で、素晴らしく神秘的で、創作とは思えない迫力がありました。

イメージしりとりは以下の通り。
『樋水龍神縁起』→龍王様→樋水川→翡翠→出雲大社の翡翠の勾玉→新潟・糸魚川の翡翠→→貴石→『奇跡を売る店』

こうして、【奇跡を売る店】の蓮と凌雲が登場しました。
夕さんのところからお借りしたのは、登場人物ではなく、樋水川や龍王の池のイメージと『龍の媾合(みとあたい)』という神秘的なできごと……これについては『Dum Spiro Spero』のこの回が分かりやすいでしょうか?→こんな感じ?

そして、『古事記』に書かれた、出雲と糸魚川を結ぶ伝説(検証ではあれこれ疑わしい点もあるようですが)。
こちらの翡翠の勾玉は、奥出雲の龍王のもの、あるいは龍王に嫁いだ姫のもの。『古事記』の伝説どおりではありませんが、奥出雲の樋水川に翡翠と共に嫁いだ越の国の奴奈川姫(布川)をイメージして、へたっぴぃなイラストを描きました。
このイラストから書き起こし物語、というよりも、ワンエピソード。
よろしければ、少し『翡翠(樋水)』の世界を覗いてみてくださいませ。

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【奇跡を売る店】シリーズを初めて読まれる方にも分かりにくくないように、登場人物たちを少し説明しすぎているかもしれません。ご容赦ください。と言っても、今まで1作しか作品はありません^^; (『サンタクロース殺人事件』)
釈迦堂蓮:釈迦堂探偵事務所の留守番探偵、ゲイバー(ショウパブ)のホールをしながら、事情があって6歳の女の子を育てている。
大和凌雲:京都・大原の庵に住む仏師。蓮の元家庭教師。
玉櫛:『奇跡屋』という貴石を売る店の怪しい婆さん。玉櫛はその昔、売れっ子芸妓だったころの名前。
和子(にこ):蓮が育ていてる6歳の女の子。心臓の病気がある。蓮とはほとんど口も利かない。





 古い木枠が、冷たく荒い風に慄き、がたがたと鳴き震えている。薄く固い敷布団の下、板敷きの底からも、風の唸りが伝わってくる。土と冷たい床の間に、暗く何もない無限の宇宙空間がある。
 風の音と、地面の下に流れる水の気配。水は時に溢れだすように大きく渦巻き、時には凪いで静かに息をひそめている。

 京都の町を大きく外れた大原は、四神相の守りの外側だ。邪ならずとも、あらゆる気が、守りを失った瞬間にはあの街の内側へ襲い掛からんと待ち構えて、潜んでいる。
 それでも凌雲の庵の中だけは、清浄な空気が満ちていて、邪な気はここに入り込むことを拒まれている、はずだった。
 それなのに、今宵、部屋の隅には誰かが息をひそめて、じっと相手の隙を窺っている。

 蓮は眠っていた。そのはずだった。だが、身体がじっとりと熱を上げていくのが、眠りながらでもはっきりと分かった。
 どこまでも澄んだ霊気を漂わせる、静かな深い森。蓮は見知らぬその地を歩いている。神社らしき建物が見える。夢なのか幻なのか、それにしては足の裏には、草や木の湿気をしっとりと含んだ確かな地面を感じる。木々の奥へ引き込まれるように進んでいくと、これまでに見たことのない、光に包まれた池があった。

 池は蒼く、また碧だった。池の縁まで歩み寄って覗き込んでみると、遥かに深く透明度が高い。その底から、星のような淡い光が昇ってくる。光の中に何かが蠢いている。黄金に輝いて、ゆらゆらとゆらめいている。ゆらめくごとに、水面に届いた光は虹色となり、黄金の砂が月に吸い取られるように輝いて、空へ立ち上って行った。

 その時、蓮は水底からじっと自分を見つめる目に射抜かれた。
 激しい突風が身体を貫いた。何かが明らかに蓮の身体を通り抜けていったのだ。
 身体中の細胞が痛みに呻き始めた。脳の中身の温度は、一気に沸点に達した。細胞と細胞を繋ぐ全てのブリッジが悲鳴を上げて軋んでいる。軋みは身体を巡る神経のネットワークによって指や爪、髪の先にまでも伝播する。身体中が熱い。内側から細胞が沸騰して壊れるのではないかと思った。

 直ぐに身体が何かに縛り付けられたように硬直し、血管の内側を巡る血液までが熱を帯び始めた。血液が激流となり、内側から血管壁を痛めつけながら身体を走り抜ける。
 一体何が起こっているのか分からないまま、ふつふつと欲情が立ち上ってくる。
 蓮にとっては何よりも恐ろしいことだった。

「蓮」
 呼びかけられた時、蓮は思わず相手の腕を引き寄せていた。
 突然の激情だった。頭で拒否する行為を、身体が勝手に求めようとする。その反発する力で身体が千切れそうになった。頭の中は激烈に痛んだ。割れる、というよりも爆竹が破裂し、その破片が内側から骨に幾片も突き刺さったような痛みだった。
 身体の中心に熱が集まってくる。誰でもいい。誰かこの熱を受け止め、このまま共に狂って欲しいと願う。

「どうしたんだ」
 耳に滑り込んできた声は、身体の神経の全てを突っ走った。蓮は引き寄せた相手を、同じ頭の中の別の意志に支配され反発する強い力で突き飛ばした。
「俺に触るな!」
 自分の声で我に返った。

 凌雲は不意打ちを食らったようだが、蓮の力が思ったほどに強くなかったのか、倒れはしなかった。いや、実際には蓮の身体がまともに動いていなかったのだ。蓮の手首を掴んだままの凌雲は、しばらくの間、驚いたように蓮の顔を見つめ、それからそっと背後を振り返った。



 仏師である凌雲の庵に蓮が訪ねるのは、月に大体一度ほどだった。
 大概は凌雲への、あるいは凌雲からの頼まれものを届けに行くだけで、夕方までには帰途につく。泊まるのは正月の三日間だけと決めていたのだが、まだ正月が明けて間もない今日、やむを得ない事情で泊まることになった。

 蓮は、昼間は失踪した叔父・釈迦堂魁の探偵事務所で留守番探偵として暇を持て余しながら退屈という仕事をこなし、夜になると四条大橋の近くにあるショウパブのホール係として、昼間とは打って変わって相当に忙しく働いている。
 その間に、保育園に預けている被保護者、六歳の和子(にこ)を送って行ったり迎えに行ったりで、住まいである西陣と四条河原町を一日に二往復していた。
 交通手段は専ら自転車だ。

 大原まで行く時も、バスよりも自転車が好ましい。いつもは和子を乗せるためにママチャリなのだが、大原に行く時だけはマウンテンバイクを動かしてやる。
 その日は古本を数冊、それから何やら書簡の束のようなものを届けに来た。
 古本と書簡の持ち主は、『奇跡屋』という胡散臭い名前の貴石を売る店の婆さんだった。釈迦堂探偵事務所は『奇跡屋』の二階にあり、古い町屋の入口を共有している。

「何を調べているんだ?」
 束ねられた書簡と和綴じの古本には年号がふってある。明治、大正、昭和の百年以上をまたぐ期間のものだ。
 凌雲はいつもの作務衣姿で玄関兼用の土間に立ったまま、書簡を確認していた。
 凌雲は背の高い外国人だが、日本画や浮世絵、仏像の修復師としてその名を知られている。さらに仏師としての号を持ち、今ではすっかり日本人以上に作務衣姿が板についている。

 凌雲はふと手を止め、そのどこまでも暗く深い青灰色の瞳で蓮を見つめた。
「お前は、呪いの何とか、って話を信じるか?」
「呪い?」
「たとえば、有名な『ホープ・ダイヤモンド』。九世紀にインドで発見されて、ルイ十四世がこのダイヤを所有したことによりフランス王家は衰退への道を転がり始めたとか、その後の所有者が次々と不慮の死を遂げたり離婚したりしたのだとか。今は元の大きさよりも随分小さくなって、博物館に収蔵されている」

「ただの都市伝説だろう? 大体、そのダイヤを持っていなくても、死ぬことも離婚することもあるだろうに」
「ダイヤを売名行為に使ったという噂もあったな。シャーロック・ホームズは『ただの炭素の塊』と言ったが」
「それで、日本にも似たような話があったとでも? どうせ、婆さんが妙な噂話を振り撒いているんだろう」
「どうだろう。だが、玉櫛さんは、神のものは神に返せと言われたんだ」
「神のもの?」

 そんなやり取りの後、土間と続きの板敷の間に上がり、囲炉裏を挟んで向かい合って凌雲の淹れたお茶を飲み、和子のことや、蓮が居候している寺の人たちの近況を言葉少なに話し、帰ろうと思ったら、突然氷のように冷たい大雨に襲われた。

 この辺りは、少し日が暮れると真っ暗になる。そこに襲い来た冬の大雨は、朝の天気予報からは大きく外れていた。もちろん、蓮は大雨の中を帰る手段を用意していなかった。
 そのうちに止むだろうと二人で軒下に立ち、しばらく空を見上げていたが、空なのか、ひっくり返った川なのか、暗闇の中ではもう分からない。蓮は帰ることを諦めた。

 正月にはそれなりに準備をしている凌雲だが、普段の食事はつましいものだった。近所の老人たちから貰う野菜や米、それに干した魚、味噌汁の中には豆腐と葱。それでも蓮にとっては何よりのごちそうだった。

 板間の部屋の暗い隅に、見たことのない五十センチメートルくらいの高さの木彫りの像が置いてあることに気が付いたのは、食事を終えて、囲炉裏の火を落としている時だった。
 蓮が問いかけるように凌雲を見たのは、木彫りの背後に緑の光のようなものが立っているような気がしたからだ。
 だが、蓮は言葉を呑み込んだ。何か抗しがたい力が、その内側から湧き上がっていたからだ。触れることも、語ることもならぬという強い力が、ぞの像の内側で渦を巻いている。

 朽ちかけた像の元の形はよく分からなかった。まるでもう一度ただの枯れ木に戻ろうとしている途中のように見えた。名もなく、意味もなく、ただ自然のままに生まれ出た場所にあった時のように。
 蓮が隣の間で眠りについた時も、凌雲はまだ石屋の婆から受け取った資料を調べていた。



 凌雲は蓮の腕をしっかりと抱きとるようにしたまま、部屋の隅を見つめていた。
 もう鑿の痕もはっきりとは分からないほどに朽ちているその木彫りの像は、凌雲がある人から預かったものだった。

 その像の本当の名前を誰も知らない。何故なら、この像はもともとどんな形で何を表したものなのか、あるいは始めから実は形を成していなかったのかさえ、分からないのだ。作者も作られた時期もはっきりしない。
 その上、凌雲にこれを預けた人は、すでにこの世の人ではなかった。政財界に顔がきく人物だったが、像を手に入れて間もなく、突然自宅で亡くなっているところを発見された。

 その老人は遺言を残すつもりだっただろうか。それとも、永遠に手元に置きたいと願っていただろうか。遺族は、この像を受け取ることを拒否した。そんな薄気味悪いものを持っていたなどとは知らなかった、噂では持ち主に不運をもたらす呪いの像だというのだから、と。

 老人は凌雲に、この像を壊さずに中に入っている何かを取り出せないかと言ってきたのだ。手で触れるだけでも崩れてしまいそうな像を揺り動かすと、確かに微かな音が聞こえていた。
 老人の死に途方に暮れて、その人を紹介してくれた『奇跡屋』の玉櫛に相談した。
「あんたに預けて死んだんだ。それはもうあんたが好きにしたらいいのさ」
 ただし、と玉櫛は言った。
「扱いを間違えたら大変なことになるよ」

 実際には、その時、玉櫛も事情を知らなかったのだろう。
 後になって資料を揃えたという連絡が来て、今日、蓮が古本や書簡の束を言付かって大原まで持って来てくれたのだ。

 噂では、所有者を次々と不幸に陥れてきたという像。
 書簡や報告書らしいものには、この像にまつわる秘話が綴られていた。持ち主の多くが突然色恋や博打に狂って不慮の死を遂げたり、事業に失敗したりしているのだという。もとの形は、まるで龍が何かに、多分人に、巻きついているような姿をしていたという記述もある。また、かつて『龍の媾合(みとあたい)』と呼ばれていたこともある、と。

 宝は生まれた場所を離れ、人々の欲望を吸い上げ、この世を彷徨い歩いている。吸い上げた欲望が、所有者の心に邪な矢を放つ。衝動は時に人を死へと導く。本来ならば神が持つべきものが、間違えて人の手に渡ってしまった。人は神から宝を奪い、神の目から隠すために像の中に閉じ込めた。

 凌雲がまだその像を振り返っているうちに、するり、と蓮が凌雲の腕を離れた。まるで何かに操られたかのように、気配も少なく立ち上がり、像に近付いていく。
 凌雲は像から緑色の光が立ち上がっているのを見た。光が絡まりながら湧き出している。

 その時、蓮はいきなり像を掴み上げたかと思うと、そのまま土間に叩きつけた。
 朽ちかけていた木は、自らの運命を知っていたように、あるいはそれを始めから望んでいたかのように、ほとんど抵抗なく粉々の木屑となった。
 凌雲もまた、その像の運命を知っていたような気がした。

 朽ちた木の中で蠢いていたものが、今長い時を経てようやく光を取り戻そうとしているのだ。
 凌雲は静かに蓮の傍へ歩み寄り、足元に転がった小さな石を拾い上げた。
 蓮の目には正気が戻っていた。
「大丈夫か?」
 蓮はうなずいた。そして、凌雲が作務衣の裾で埃を拭った石を見つめた。

「翡翠?」
 微かな壁際の灯りの下でも、その内なる光は特別であることがよく分かった。勾玉の形に整えられた翡翠は、ゆらゆらと揺らめきながら、悠久の時を生きていた。
「蓮、お前、何日か仕事を休んで、俺に付き合ってくれないか?」
「なぜ?」
「この石があるべき場所、奥出雲の川の神に返したいんだ」

 いつの間にか、雨は止んでいた。



「それから?」
 和子の質問は三歳の子どものように他愛ない時もあるし、やはり六歳かと思われるような年齢相応のものであることもあり、また、まるで大人のような物わかりの良さを感じさせるときもある。
 身体も心もでこぼこに伸びている、そんな歪みと、それでも前に向かおうとする強い命の力を感じさせた。

 重い心臓の病気で、生まれて間もなく手術を受け、それからまた数か月で二度目の手術、そして一歳になる前と二歳になる前と、合計四度の命に関わるような手術を受けてきた。その度に、健常の子どもであれば坂道をまっすぐに上がるような体力や精神の発達を阻害され、何度も心の成長のやり直しを余儀なくされてきたのだ。同じ年の子どもと上手くやって行けという方がどうかしていると、いつも玉櫛は思っていた。

 玉櫛、いやそれは、昔の艶やかな時代の名前だ。今はただ石屋の婆と呼ばれることの方が多い。
 この世の中は、とにかくも、社会の仕組みや技術の発達の中でどんどん弱者を作り出す癖に、その弱者を庇う優しさを失っていっている。

 和子は今日、保育園の後、『奇跡屋』にやって来た。いつも迎えに来るはずの蓮は玉櫛の使いで大原の凌雲のところに行っているので、和子のことは、蓮と和子が居候をしている寺の奥さんが迎えに来るはずだった。

 和子には両親はいない。どちらも生きてはいるが、和子の傍にはいないのだ。捨てられた和子を、当時主治医をしていた蓮が引き取った。蓮は和子を引き取った時、医者を辞めている。だから和子にとって頼りになる大人は、今は蓮だけだ。
 だが、和子はどうしても蓮とはまともに口をきこうとしない。蓮もまた、和子にどのように接したらいいのか分からないようだ。

 和子の膝にある本は、『古事記』だ。もちろん、和子にほとんど漢字ばかりの文字が読めるわけはない。だが、和子は比較的正確に言葉を反芻することはできる。
 玉櫛は和子に『古事記』に書かれたある伝説を話してやっている。

 出雲の大国主命は、越の国に奴奈川姫(ヌナカワヒメ)という賢く美しい姫がいるという噂を聞き、求婚するために越の国に訪ねてゆく。奴奈川姫は大国主命と歌を贈答したが、すぐには求婚に応じず、一日後に受け入れ、結婚したという。
「二人の間には子どもが生まれた。諏訪の国の神・建御名方命(タケミナカタノミコト)だ」
「へんな名前」
「神様の名前だからね」

「にこもへんな名前だって言われる」
「お前の親はバカだったと思うが、娘にはいい名前をつけた。ちっとも変じゃないね。名前は『呪(しゅ)』だ。人をその人であらしめる魔法のようなものだよ」
 和子はふ~ん、という顔をして、また膝に置いた本を見る。玉櫛は和子が分かっていてもいなくても、大人に対するように話しかける。

「この結婚話は、出雲族と奴奈川族との同盟をあらわすものだと言われる。遠くにある二つの国が仲良くしたんだよ。結婚後、奴奈川姫は大国主命と能登国、つまりに全く別の場所に行って住んだが、仲が悪くなって別れてしまった。お前んちの母親と父親と同じだ」
「ふ~ん」

「夫である大国主命には嫉妬深い嫁がいた。奴奈川姫はふるさとに逃げ帰って、悲しみのあまり、皆の前から姿を消した。いなくなってしまったんだよ」
『天津神社並奴奈川神社』の伝説では、越の国に戻った姫は自殺したともいう。

「もっともこの話は別の姫さまの話をいっしょくたにして間違えているって説もある。かぐや姫がお城の舞踏会に行ってガラスの靴を落としてきました、ってなわけだ」
 石屋の婆さんは、店の中をするすると歩き、古びた棚いっぱいに並んでいる石の中から一つを持ってきた。

「ごらん。これは越の国の糸魚川という川で採れた石、翡翠だ。翡翠は今から四千年以上も前、縄文時代の宝だった。糸魚川にはその頃の翡翠工場の遺跡が見つかっている。だが、大和朝廷の時代には糸魚川も翡翠も歴史書から姿を消しているのさ。翡翠が採れなくなったのか、翡翠はもう宝ではなくなったのか定かじゃない。糸魚川の翡翠のことが再発見されて取り沙汰されたのはずっと後、昭和になってからだ。だが、出雲大社本殿の裏の真名井遺跡から、最高品質の翡翠の勾玉が、銅戈とともに見つかった。本当はどこで作られたものか、分かっていないが、今では糸魚川の翡翠だと言われている。少なくとも、出雲と糸魚川には深いつながりがあったんだろうね」

 玉櫛が光に石をかざすと、石はあらゆる種類の緑色の光を跳ね返した。
「人間はね、昔のことをどうやっても知ることはできない。だが、馬鹿な人間は、今のことだって知ろうとはしない。難しいことじゃないさ。ただ想うだけでいい。想いには光の羽根がある。この石たちと同じように。想いは知識を呼ぶ。知識は人を少しだけ賢明にする。賢明になれば、愚かなことに惑わない。だが、想いのないガラクタのような知識はだめだ」  

 和子は何のことか分かっているのかいないのか、じっと翡翠を見ている。石屋の婆はいつも和子にこうして話しかける。和子の目には疑問がない。
「翡翠は神の石だ。遠い国から出雲の神様のところへ嫁いできた。神様というのは川のことだ。奴奈川姫というのは、遠い国の川の神様だったんだよ。この翡翠は川の賜物だ。だから姫神様の石なんだよ。神のものは神に、人のものは人に返すべきなんだ」

「故郷に帰るの? それともお嫁に行ったお家に帰るの?」
「石が決めるさ。にこ、お前もだよ。蓮はできそこないの医者で、男としても最低のことをしてしまったが、ひとつだけ正しい選択をした。にこ、お前を選んだことさ。だからお前も、今はそんな切羽詰ったことにはなっていなくても、いつか、選ぶ時が来たら正しいものを選べるように、心を決めておくんだね」

 石屋の婆、いや玉櫛は、和子の胸を指差した。
 幼くして幾度も厳しい場面を乗り越えなければならない宿命を抱え、もしかするとこれからも多くの試練が待ち構えているかもしれない和子の心臓の上で、和子の石、蓮が磨いたラピスラズリの入った小さなお守り袋が、和子の鼓動を受け取るように蒼く静かに震えていた。





お粗末さまでした。
蓮は性的な衝動について、ものすごく罪悪感をもっておりますので、このような体験については半ばパニックだったと思います。本物の『龍の媾合』は9年に1度の神秘的な出来事(夕さんは怪奇現象と説明しておられました^^;)で樋水村でしか体験できません(変な解説……)。でも、姫の翡翠の勾玉には樋水川の霊力の一部が閉じ込められていたようで……
というのをイメージしました^^;

もうひとつのテーマは……「神のものは神に」という聖書の言葉。
宗教は違っても同じで、この短い言葉の中には色々なことが籠められていると思うのです。
石も、和子の命も……神のもの。あるいは蓮の重荷も神のものかも。
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Category: 奇跡を売る店・短編集

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コメント


うおっ

ええと、なんか過分なお褒め言葉に、ぎょっとしています。いやぁ、わたし全然スーパーなんかじゃないですよ〜。数とスピードはともかく、質をもっと上げたい……。

それはそれとして、ううむ。「龍の媾合」に込めた思い入れに反応していただけたとは、感激ですね。あれ、西洋の信仰だと忌まわしい物と封じられているものが同時に神事であるという、インドのシャクティ信仰などをイメージして出てきたものなのです。ただ、準備なしにいきなり体験したら、そりゃビビるでしょう。真樹もビビっていましたし。

「樋水龍神縁起」の本編ではご存知のように青翡翠の勾玉が出てきます。これ、「奴奈川比売が大国主命への輿入れの際に持ってきた」という眉唾な伝説があったものを上代朝廷に贈られ、皇子の病を癒した功で瑠璃媛に下賜されたというものなのですが、瑠璃媛の死後は春昌の生まれ変わりが掘り返しては埋め、掘り返しては埋め、最後に無事に樋水龍王神社に戻っています。(最初の伝説は眉唾ですが、二柱となった瑠璃媛と春昌の結びつきの象徴になっているので、樋水龍王神社としては神宝ですね)だから、こちらに出てきた翡翠とは別の翡翠ですね、きっと。こっちのほうが、かなり本物っぽい。ふさわしいエピソードに満ちていて興味深いです。

せっかくなので、このお二人が樋水龍王神社を訪ねてくるというところのお話をお返ししようと思うのですが、キャラまたは時代のご指定はありますでしょうか?

ちょうど今あたりだと朗(1967年生まれ)とゆりがいます。真樹は2012年の生まれですので、瑠水が妹神代になるのは2046年前後になります。タヌキ宮司(1958年生まれ)でよければこの間ずっといます。竹流の時代だと、前任者だな。時代は無視してキャラでという場合は誰でもいいですし。真と稔が共演しているくらいだし(笑)

そうそう。翡翠と樋水の語呂合わせ、わかっていただけて嬉しいです。斐伊川の古名(肥河)をもじって川の名前をつけようと決めた時に、翡翠と掛詞にすることを思いついたのですよ。

あ、あと龍王はバトンでキャラ崩壊していますので、何をやっても怒らないと思いますよ〜。パスタやほうれん草も茹でている氣さくな神様(?)ですし。

ああ、なんか無駄にコメが長い割に、全然まとまりません。
何はともあれ、素敵な作品、ありがとうございました。

八少女 夕 #9yMhI49k | URL | 2014/01/31 06:23 [edit]


夕さん、ありがとうございます(^^)

しまった! 本当だぁ。そうそう、翡翠の勾玉を春昌の生まれ変わりが掘り返しては埋め掘り返しては埋めて、どこかの博物館だったかにあって、最後に無事に樋水龍王神社に戻った、っていうのは覚えていたのですが、あれも「奴奈川比売が大国主命への輿入れの際に持ってきたという眉唾な伝説」のものだったんですね!
おぉ、そこのところは読み飛ばしていた、というよりも、忘れていました(・_・;)
しまった、エピソードを被らせてしまいましたね……すみません^^;
「龍の媾合」に夢中で、注意力が落ちていました……

でも、きっと、兄弟石だったに違いない。いや、姫様の石だから、姉妹石か。
会話に出てきたホープダイヤモンドも、もともと112.50カラットのものを、ルイ14世がハート形にカットして
69.03カラットになって、いつの間にかさらに小さくなって現在は44.52カラット。どこかに片割れがあるに違いないと言われているし……
奴奈川比売がいくつかに割って、ひとつは朝廷へ、もうひとつが龍王様を鎮めるために樋水川に捧げられて、……あるいは他にもあったかも……
なんてことが、玉櫛からもらった書簡や本に書いてあったに違いない!
……ということにしました(*^_^*)

そうなんですよね。確かにちょっと官能的な「怪奇現象」(この表現が妙にお気に入り(^^))なのですが、愛と痛みは裏表にあるものという感覚が私にもすごくしっくりきて、ちょっと辛そうな体験だけど、まさに「愛」のエネルギーみたいなものを感じる、そのエピソードが素晴らしいと思っていたのです。
でも、確かに不意打ちでまともに喰らうと、壊れちゃうかも(・_・;)
というので、蓮にはちょっと痛い体験でしたが、多分、これは勾玉の見せた疑似体験なので、大したことはなかろう、と。真樹の体験よりは大したことのないものだったと思われます。
でも、蓮は後ろめたいことがあるから、ビビったのかも^^;

> せっかくなので、このお二人が樋水龍王神社を訪ねてくるというところのお話をお返ししようと思うのですが、キャラまたは時代のご指定はありますでしょうか?
おぉ、嬉しいです。
この二人はまさに今辺りの人の設定なので、ぴったりの朗とゆり……がいいですね。
タヌキ宮司でももちろんいいけれど……朗が……(なぜこだわる^^;?) 

> 真と稔が共演しているくらいだし(笑)
しまった! 確かにそんなことが……本当なら、真のひ孫くらいの時代に相当するんですね!
多分、あれは【幻の猫】が見せた幻????
もしかしたら、未来の子孫が体験することを疑似体験したのかも!(あたふた……^^;)

> あ、あと龍王はバトンでキャラ崩壊していますので、何をやっても怒らないと思いますよ〜。パスタやほうれん草も茹でている氣さくな神様(?)ですし。
そうでしたね^^; でもやっぱり何だか、「神様」って感じで…・・ほんと、申し訳ありません……

> ああ、なんか無駄にコメが長い割に、全然まとまりません。
いえ、私の方も、何だか纏まらない話を書いてしまいました
。あれこれ、言いたいこととか、夕さんのエピソードにからめたいことがいっぱいあって、それこそ中編くらいの長さになりそうだったので、かなり端折ったら、まとまりが無くなってしまった……(・_・;)
どんな返歌を頂けるのか、とても楽しみです(*^_^*)
なにはともあれ、こちらこそ、ありがとうございました。結構苦しんだけれど、その分楽しめました(*^_^*)

彩洋→夕さん #nLQskDKw | URL | 2014/02/01 00:18 [edit]


再登場すみません

あのですね。

本日通勤中に、お話を思いついてしまったのですが、それで行くと朗もゆりも出せなくなっちゃうんです。メインキャラは次郎(関大樹)で時期は詳しく追求すると2016年頃(摩利子が最後に語っていた年あたり)になっちゃいますが、よろしいでしょうか。で、ご希望の朗とのコラボは、またそのうちに、京都辺りで(笠宮神社にいる頃など)

で、翡翠の設定大丈夫です。奴奈川比売ゆかりの勾玉、合計で五つあることになります。実は、本編にもさりげなくもう一つ別の翡翠の勾玉が登場しています。考えずに書いていたのですが、色もぴったりでした。

この週末に仕上げますので、少々お待ちくださいませ。

八少女 夕 #9yMhI49k | URL | 2014/02/01 03:41 [edit]


夕さん、ありがとうございます(^^)

わあ。何度もすみません m(__)m
はい、もちろん、次郎さん、いいですね。何だかあれこれありましたが、彼はなかなか奇特な方ですものね……放っておいたらどうなっているか分からない真樹と瑠水も最後にくっつけてくれたし。
というよりも、どんな打球が飛んでくるのか、そのほうが楽しみです(*^_^*)
『大道芸人たち』と比べて手の出しにくい、遊びにくいところへ手を出しちゃってすみません^^;
でも、夕さんなら何とかしてくださるだろうと^^;

> で、翡翠の設定大丈夫です。奴奈川比売ゆかりの勾玉、合計で五つあることになります。実は、本編にもさりげなくもう一つ別の翡翠の勾玉が登場しています。考えずに書いていたのですが、色もぴったりでした。
おぉ。よかった。適当に書いてすみませんが、きっとこちらも夕さんが始末をつけて下さると……(超他力本願^^;)
> この週末に仕上げますので、少々お待ちくださいませ。
いえいえいえ、もうほんと、ごゆっくりで。
わざわざご連絡ありがとうございました(*^_^*)

彩洋→夕さん #nLQskDKw | URL | 2014/02/01 08:09 [edit]


とても神秘的で深いお話だったと思います。
夕さんの「樋水龍神縁起」は、まださわりの部分しか読んでいないので申し訳ない気持ちなのですが。冒頭の、蓮の中に飛び込んできたあの感覚、夕さんの物語に出てくる現象、幻惑なんですね。
その感覚、情景、戸惑いと興奮、すごく伝わります。
あの翡翠の仕業だったのでしょうね。
仏像はその翡翠を隠す器だったのかな?
玉櫛と和子の会話も、温かくて深くて、いいですよね。
こんな人たちに囲まれて成長していく和子、いったいどんな女性に成長するのでしょう。
でも今は、まだあどけなさも残る少女と、蓮たちの関係を見守りたいなあ、なんて思います。

lime #GCA3nAmE | URL | 2014/02/01 12:47 [edit]


こんばんは~

『樋水龍神縁起』を読んでいないので、サキにはちょっとわかりにくい部分もあったのですが、前半の蓮の描写などを含めてとても面白かったです。
置いてあった木彫りの像の影響で邪気が流れ込む、大原は四神相の守りの外側、なるほどそういう視点を使って俯瞰で見るように京都を眺めるととても興味深いです。
2人はその像に入っていた翡翠の気持ちのままに動かされているのでしょうか?
神のものは神に返す。
奥出雲の川の神の元に戻って行くのでしょう。
玉櫛ばあさんの話に踊らされていると言われればそうなのかもしれませんし、サキはそう考えようとするのですが、それだけではとても理解できないような不思議な前半でした。
それに夕食もとても美味しそうでした。真っ暗になる大原の庵で、こういうつつましい夕食、食べてみたいです。ある意味、最高の贅沢かもしれません。

後半、和子の様子がとてもいいです。玉櫛ばあさんの話がどこまで分っているのか不明ですが2人の会話は読んでいて楽しいです。
自分としてはまったく意識をしていないんでしょうけど、何度も死線をくぐり向けてきた和子の態度にはそれとなく重みがあるように感じます。のほほんと生きてきた大人には欠けている何かを和子は持っているのかもしれません。
不思議な子です。とても好きです。
あの玉櫛ばあさんが大人に対するように話しかけるのは、そういう何かを認めているからなのかなと思っています。
でも玉櫛ばあさんにはこんなに受け答えをする和子が蓮にはほとんど口をきかないのはなぜなんだろう?何を意識しているのかな?
普通の人よりもリスクの高い試練を乗り越える必要のある自分の体を、和子はどう感じているんだろう?
和子はこの試練とも呼べる自分の人生を当たり前と感じるだけの精神を持っているのだと思いますね。あ、持たざるを得ないのかもしれませんね。
とても深いお話しでした。
サキは感動しました。「

山西 サキ #0t8Ai07g | URL | 2014/02/01 19:01 [edit]


limeさん、ありがとうございます(^^)

> とても神秘的で深いお話だったと思います。
> 夕さんの「樋水龍神縁起」は、まださわりの部分しか読んでいないので申し訳ない気持ちなのですが。冒頭の、蓮の中に飛び込んできたあの感覚、夕さんの物語に出てくる現象、幻惑なんですね。
はい、本当に、分かりにくくてすみません(T_T)
私がもっと魅力的に伝えられたら良かったのですけれど、この尺ではなかなか伝えにくくて、やっぱり夕さんのお話をじっくり読んでいただくしかないような気もしますが……
その雰囲気だけでも伝わっていたら嬉しいなぁと思います。
蓮が体験したのは、樋水村で起こる「怪奇現象」とは桁も違う、たかだか石に閉じ込められたパワーの成せる技だったようですから、中身は大したことがなさそうです。きっと、凌雲は何も感じなかった(何か神秘的なものは感じても)と思うので、結局は蓮の未熟さ・業に反応したのかもしれませんが……
「神のものは神へ」……資源のことや、世界自然遺産の中へ人間が大挙して押しかけることへの疑問やら、色んな気持ちが絡まっています。
自分が絡まっているので、伝わりにくいんですよね。やっぱり反省です。

> 仏像はその翡翠を隠す器だったのかな?
もう崩れかかっていて、パワーを封じる力が無くなっていたようです。
そう、結界を張っていたのですね。これは実は、ローマにあるベルニーニの像「アポロンとダフネ」にイメージを重ねていたのですけれど……こちらは龍王に巻き付かれちゃって……な姫君をイメージしておりました。
いやいや、お子ちゃまには聞かせられない……

> 玉櫛と和子の会話も、温かくて深くて、いいですよね。
> こんな人たちに囲まれて成長していく和子、いったいどんな女性に成長するのでしょう。
> でも今は、まだあどけなさも残る少女と、蓮たちの関係を見守りたいなあ、なんて思います。
ありがとうございます。和子はちゃんと大きくなれるのかなぁ。それはとても疑問ではありますが、少なくとも普通の人間が体験するよりもきついことをこの6歳までに味わっちゃっています。玉櫛は、あえて、和子に分かろうが分かるまいが、ひとりの人間として扱っているのだろうと思います。和子は分かるところだけで、ちゃんと反応できている。
それにしても、ひどい環境だなぁ……確かに。
ちゃらんぽらんな遊び人風男(舟)とか謎の外国人仏師(凌雲)とか、どう見ても怪しい石屋の婆(玉櫛)とか医者崩れのショウパブのホール係とか……大丈夫か、和子!
……見守ってやってください^^;
コメントありがとうございました。私の力不足で、あんまり反響はないだろうと思っていたので、嬉しいです。

彩洋→limeさん #nLQskDKw | URL | 2014/02/02 09:39 [edit]


素敵なお話でした♪

こんにちは、彩洋さんヽ(^0^)ノ

毎度、週一のご訪問になってしまってごめんなさいです!
小説の他に最近の記事を読ませていただくと、とても多忙のご様子。それなのに、これだけ質の高い作品を発表しながら、有り難くもご丁寧な交流を続けてくださる彩洋さんのご努力に感銘しましたよ~・゜・(ノД`)・゜・

ただ、本当に無理はなさらないでくださいね。
週末限定になりつつありますが、こちらに伺わせていただいて新しく掲載されている小説やエッセイを何よりの楽しみに感じております。そんな彩洋さんブログのファンの方は多くいらっしゃると思いますので、どうか少しずつでも長く活動を続けていっていただきたいと、老婆心ながら(笑)心から願うしだいでした。

さて、今回読ませていただいた「龍王の翡翠」ですが、いつも感じるイメージを沸き立たせる文章の力をより強く感じた作品だったと思います。
元になった題材を知らなくても、そこに描かれていたであろう濃厚で神秘的な世界感は充分に伝わってきましたよ。
さらには、翡翠を絡めて描き出された蓮と凌雲、玉櫛と和子の個性を語るエピソードが心にしっとり染みる感じがしてとても良かったです。豊かな情感がないと、こういう短編は書けないですよね。珠玉、という言葉がぴったりの、印象に残る作品だったと思います。

それでは、「奇跡を売る店」シリーズの次回作もまた楽しみに待たせていただきますね。
今回も彩洋さんならではの美しい物語世界に酔わせていただきました。読ませていただき、本当にありがとうございました(*^_^*)

三宅千鶴 #- | URL | 2014/02/02 13:44 [edit]


サキさん、ありがとうございます(^^)

わぁ、本当に丁寧なコメントを頂き、ありがとうございます!
そうなんですよ。他のシリーズに比べると何故か『樋水龍神縁起』はを皆さんが取り上げていらっしゃらないので(でも、『大道芸人たち』が魅力的なのはとてもよくわかるんですよね)、敢えてチャレンジしてみました。
あの世界の不思議なイメージ、結構好きなのですよね。うちの『清明の雪』とかにも通じるものがあって、ちょっとファンタジーのような、でも現実世界もちゃんと絡んでいて、反映しあっているような、その二重性がとても素敵だと思うのです。

京都の町を書く時、どうしてもあの地図が頭の中にあります。
住んでいる時もやっぱり地図は頭の中にあったかも。あの街は本当に平安京として「造られた町」の形をしていて、その成り立ち自体に興味深いものがあります。
だって、京都の人にとっては、戦後って「応仁の乱の後」だという笑い話があるくらいですから……
凌雲を大原に住まわせたのは、彼が人のいる場所を離れたいから、というのもあるのですけれど、四神相の守りの外側にいても彼という人は邪なるものを払い除ける純なものを持っている、恐ろしいくらいに高潔で真っ白だから彼には何の影響もない、ということを表すためでもありました。蓮は彼のところにいたら、大概は大丈夫なはずなのに、この翡翠のパワーは半端なかったようですね。蓮には、自分の性的な意味での潔白さに自信がない人ですから(間違いを犯したので)、余計に。
あの朽ちた像は、昔は翡翠の本来のパワーを封じ込める結界の役割をしていたのですけれど、だんだん朽ちてきて結界を張れなくなってきて……そのあおりをくらう人が出てきた、というイメージでした。
どこに帰るのか……あとは夕さんに丸投げです^^;
きっとこの翡翠の力は、玉櫛婆さんにもどうすることもできないのではないかしら。

> それに夕食もとても美味しそうでした。真っ暗になる大原の庵で、こういうつつましい夕食、食べてみたいです。ある意味、最高の贅沢かもしれません。
わ~い! 夕食のシーン、食い付いてくださって、無茶苦茶嬉しいです。
秘かに、食事シーン、大好きです。『清明の雪』も妙にご飯シーン(寺の中がメイン、あとは料亭)が多いのですが、この「食べ物を並べるだけでおいしそう」っての、いつも試みているのです。
池波正太郎先生が大好きで、池波先生の小説の中に出てくる1行、2行ほどの食事のシーンに憧れているんです(^^)

> 後半、和子の様子がとてもいいです。玉櫛ばあさんの話がどこまで分っているのか不明ですが2人の会話は読んでいて楽しいです。
ありがとうございます。和子は多分、言葉を本当に理解しているのが1割、何となくわかるのが2割。後の7割は全く言葉としては理解していないと思います。
でも、この子は「分かっている」「感じている」ような気がします。言葉ではないかもしれませんが。
この子には、私がこれまで接してきた多くの子どもたちが溶け込んでいるように思います。
そして、玉櫛ばあさんは、和子の命の尊厳を感じているのだと思います。玉櫛さんも、内容は違うかもしれないけれど、あれこれ荒波を乗り越えてきているから、なんだろうな。自分の言葉の中にこめた真実は、和子には言葉以外の何かで伝わっていると確信しているのだと思います。
だから、サキさんが書いてくださったコメントは、まさに私の書こうとしていた……というよりも、これから書こうとしていることのダイジェスト!です。
和子(のような運命の子ども)は一体どう思っているのだろう、そして、和子を捨てて行ったと言われている母親も、なんです。どれほどつらかっただろう……思い入れはものすごくありまして。
命の限りを(感覚として)知らざるを得なかった幼い子供と、その子供を愛するがゆえにその命の限りを見るのが辛くてたまらない人と。親なんだから強くなければならない、頑張れ、とは無責任には言えない。今、日本はそういう心の重荷を抱えた人に対して、どんどん優しくない社会になってきているのだと思います。
その中で、和子は、身体とは裏腹に最も強靭な魂を抱いているかもしれません。
深く感じていただいて、こちらこそ感動です。ありがとうございます。

> でも玉櫛ばあさんにはこんなに受け答えをする和子が蓮にはほとんど口をきかないのはなぜなんだろう?何を意識しているのかな?
う~ん。何でしょうね。でも表に出る表現が、心の通りだとは限らないので……
これは次回、和子と蓮の物語で語りたいと思います。

サキさん、本当に、沢山ありがとうございます(*^_^*)

彩洋→サキさん #nLQskDKw | URL | 2014/02/02 21:22 [edit]


千鶴さん、ありがとうございます(^^)

いえいえ、週一でも忘れずに来ていただいて、本当にありがとうございます。
こちらこそ、のろのろ訪問ですみません。この季節、書類の山とあれこれ準備することが多くて、なかなか職場から帰れません^^; ついつい帰ってきたら眠くて……状態の上、あれこれ気になることが多すぎて、落ち着きません。
ブログは息抜きのような感じなので、本当に更新内容もあれこれ滞っておりまして……それなのに、いつも本当にありがとうございます。自分のペースで、あんまり焦らずに続けて行けたらと思いますけれど…・・う~ん、結構熱しやすく冷めやすいかも^^;

そして今回は『龍王の翡翠』、読んでくださいましてありがとうございます。
今回は、いつもなら長編になりそうなのを、いかにシーンで切り取るかというので、あれこれ試行錯誤していたのですけれど、やっぱり中途半端になっちゃいました。そもそもテーマが大きすぎて……この尺にはおさまらなかったという。
でも、不思議感が伝わったら嬉しいなぁと思っておりました。ありがとうございます。
こういうのを書いてみると、二次創作している人たちって、本当に大変だなぁと思いました。
後半の玉櫛と和子の会話はおまけでもあるのですけれど、ここに和子が年齢に不釣り合いな『古事記』の本を広げているというのは、ちょっと和子のイメージが表現できたらいいなぁと思って書いていました。
大人以上に大変な経験をしていて、きっと体以上に心が歳を取っているのかもと思ったりして。でも、理解力はそんなに高くない。あれこれアンバランスなのがこういう病気の子どもさん、なのかもしれないと思っています。

次作、いつになるのか分かりませんが、また読んでいただけたら嬉しいです。
でも、次作は、この【奇跡を売る店】シリーズの要になりそうなものなので、ちょっと先になるかもしれません。できれば、一気に書き上げてアップしたいのですけれど。そんな時間あるかなぁ^^;
いつもありがとうございます(*^_^*)

彩洋→千鶴さん #nLQskDKw | URL | 2014/02/03 06:14 [edit]


意外に早くこの面々と再開できて嬉しいです。

幻想的なお話。そして、都市伝説、好きです。
説明のつかない不思議さ。
へえー、で終わっちゃうんだけど、なんともいえない後味の残る感じ。
良いです。

神のものは神へ。
地球のものは地球へ、につながるような気がします。
うまく共存できればなあと漠然と想っています。

あちらこちらのブログさん同士でつながる企画物って、楽しそうですね。
そして、凄いですねぇ。遠い目だー

けい #- | URL | 2014/02/04 15:48 [edit]


けいさん、ありがとうございます(^^)

わ、そうですね! 予定外に早く再登場しちゃいました(^^)
夕さんの企画がなかったら、来年くらいまで出てこないはずだったのですが……
相変わらず、絶好調の玉櫛ばあさん始め、微妙に濃い系のキャラ達。
書いていて気を使わないことが魅力だったのに、今回はなぜか、妙に気を遣いました(^^)
「呪いの○○伝説」ってのはほんと、眉唾なのですけれど、思えばこの手のお話の延長がインディ・ジョーンズとかパイレーツ・オブ・カリビアン、なのですねぇ。現実と幻想のはざま。でも、私の書いているものは、その中でもかなり現実に近いのですけれど、夕さんの世界の幻想にちょっと近づけてみました。
後味……まさにそうですよね!
「へえ~」で終わるんだけど、後でその場所に行ったらビビッていたりして^^;

> 神のものは神へ。
> 地球のものは地球へ、につながるような気がします。
> うまく共存できればなあと漠然と想っています。
あぁ、本当にそうですね。エネルギー問題ひとつとってみても、地球に返さなければならないもの、という観点からみると、また違って見えるものもあるのかも……
小さな石ひとつにも……人の思い(良いものも悪いものも)を映していますね。
特に高価なものは、欲望と絡んで、いろんな変遷を遂げていく。
今回の翡翠は、人には触れられないものがあるはずだ、という気持ちで書いていました。
神に返す、そのタイミングを間違えないようにしなくちゃ……

> あちらこちらのブログさん同士でつながる企画物って、楽しそうですね。
> そして、凄いですねぇ。遠い目だー
いや、これはもう、夕さんがすごいだけです。
今回の私は……撃沈です^_^;
コメント有難うございました!

彩洋→けいさん #nLQskDKw | URL | 2014/02/05 00:21 [edit]

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