03 «1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.29.30.» 05

コーヒーにスプーン一杯のミステリーを

オリジナル小説ブログです。目指しているのは死体の転がっていないミステリー(たまに転がりますが)。掌編から長編まで、人の心を見つめながら物語を紡いでいます。カテゴリから入ると、小説を始めから読むことができます。巨石紀行や物語談義などの雑記もお楽しみください(^^)

 

【8888Hitリクエスト第2弾】センス~闇の声~(前篇) 


さて、遅くなりましたが8888Hitリクエスト第2弾『センス~闇の声~』 をお届けいたします。
こちらは『憩』のけいさんからのリクエスト。頂いたお題は、以前に書いた【センス】という掌編のようなイメージの作品とのことでした。
でも、自由に書いてね、と言って下さったので、しばらく悩んでみました。

結果的には、あれこれ欲張ってしまいました。

まず、けいさんのところのキャラを借りる。借りるのはあの伝説のバンド(って、もう伝説?)『スクランプシャス』の関係者。(【夢叶】より)
そしてついでに、うちのバンドも紹介してしまおう。バンドのヴォーカリストは、相川真の曾孫で、名前もそのまま真と言います。真II世です。
え? II世はマコト? ……いや、それは……(ねこだし)
ついでに『センス』は寓話だったのですが、寓話みたいなのをもうひとつ、劇中劇風に作っちゃおう。
寓話の内容は? 先日観た『容疑者Xの献身』にも出ていた『ガウス加速器』(あのエピソードが本編の内容とどういう繋がりがあるのかはよく分からないのですが……単なる、湯川の人物紹介?)

さて、2つのバンドを出して不自然じゃないタイミングに時代を合わせると、なんと2040年代です。
田島君はアラカン。サザンのようにまだ一線で歌い続けている設定。
うちのバンドはまだ日本で再デビュー(最初のデビューはロンドン)してこれからというところだったのですが……

舞台は、以前から気になっていた暗闇カフェ。どのくらい暗いのか、行ったことがないのでよく分かりませんが、料理や飲み物が見えないほどではないんでしょうね……
暗がりの中では、光の中とはまた違う何かを感じることができる。
まさに『センス』の世界、です。

面白さにはあまり自信はありませんが、色々なメッセージを込めてみました。
タイトルの『闇の声』は悪いイメージではなく、優しい闇をイメージしています。
ちょっと長めなので、前後編でお贈りいたします。

けいさん、お待たせいたしました。
そして、快く、彼女をこちらに登場させてくださって、ありがとうございます(*^_^*)


【センス~闇の声~】(前篇)


その古い町には不可思議なものを求める人々が足を踏み入れる。
医者に見放された病を治す薬、自分の顔をすっかり変えてしまう白粉、振り向いてくれない異性を惹きつける媚薬、未発見の宝を手に入れるための秘密の地図、どんな獰猛な動物をも手懐ける杖、そんなものたちだ。

石畳の通りを真っ直ぐに進み、赤い梟の絵が描かれた小さな看板の角を曲がると、細い路地に入る。
路地の奥深くに入ると、通りは徐々に細く暗くなってゆき、靴音はますます大きく響くようになる。
心にやましいことがある者は、自分の靴音に重なる追跡者の気配に恐怖するだろう。

もしも恐怖するようであればあなたはその扉を見つけることはできない。
ちょっとした好奇心と刹那的な恨みの熱に浮かされた者だけが、ほんのちょっとした気の迷いで求めてはならないものを求めて、その扉に行きつくことができる。
あなたが運命を選んだのではなく、運命の扉の方が気紛れであなたを選んだのだ。

扉には店の名前が小さく記されている。
ニュートンのゆりかご、と書かれた真鍮の飾り文字。
その下には黒ずんだ銀の球が五つ、行儀よく並んで浮き出ている。
球のひとつが少しだけ離れている。
あなたの視線が始めの小さなエネルギーとなり、球が動き始める。

エネルギーは保存される。
あなたがその扉に手を掛けるまでは、球は一定の動きを繰り返す。
右端の球が2番目の球に当たる。
すると左端の球だけが、右端の球が動いた分だけ弧を描いて左へ動く。
左端の球が戻って来て、隣の球に当たる。
すると次には、右端の球だけが、左端の球が動いた分だけ弧を描いて右へ動く。

だがあなたが扉に手を掛けた途端、2番目の球の様相が変化する。
右端の球は、不自然なほどに強い力で隣の球に引きつけられてぴたりと止まった。
その強いエネルギーに弾かれるように左端の球が射出され、それが鍵であったかのように扉が開く。

女は、ほんの少しだけ楽になりたくて、心の内の哀しみや重苦しいものを吐き出すためにやって来た。
扉の向こうには、真っ黒な長い髪に氷のように透き通る肌を持つ若い男が座っている。
その目は、海の一番深い場所でしか見ることのない色だ。光を宿さない目に、蝋燭の炎が揺らめく。
女は心を奪われる。

「私から愛する人を奪った者がいるの。私は苦しくて悲しくて、何かに腹を立てているのだけれど、それが何なのか分からないの」
女はほんの少し、誰かに話を聞いて欲しかったのだ。
理不尽だがやむを得ないことなど、この世に溢れていることを知っていたから。誰かを呪ったり恨んだりすることが筋違いだということも、知っていたから。

だが、女は知らなかった。
黒髪に暗い目の若い男は、女の持つ小さな憎しみや哀しみのエネルギーを吸い付ける強力な磁石だった。
磁石に吸い付けられた女の小さな哀しみや行く宛てのない怒りは、男の身体でエネルギーを置き換えられ、強大な力となって吹き出し、女から愛しいものを奪った者に突き刺さる。
ここにまた、誰かの小さな哀しみと怒りの連鎖が始まる。

あなたはただ少しの勇気があればいい。扉を開ける勇気を。
その後に起こることは、あなたの小さな憎しみの結果だが、あなたの罪はただこの扉を開けたことだけ。誰かに哀しみを打ち明けたいと願ったことだけだ。
だから、安心するがいい。その罪はとても小さくて誰にも気が付かれることはない。
あなたは、自分が支払った代価にも気が付かないはずだ。
支払うべき代価は、ほんの少し魂を削られることだけだから。


「つまりこれはガウスの加速器をもじった寓話なんだ。で、ここからヒントを得て倉田巌が脚本を書き起こした」
「ガウスの加速器?」
「つまり、ニュートンのゆりかご、日本で言うカチカチ玉の二番目の球をネオジム磁石に変える。そうすると、磁石の吸着力がエネルギーに変わって、反対の端の球をものすごい勢いで弾き飛ばすことができる。ガウス銃とも言われる射出エネルギー、小さな動きが強大になるんだ。そもそも憎しみ程度の小さなエネルギーで実際に誰かを傷つけることはできないが、そこに磁石がひとつあれば大きな力になる」
「つまりその、この女性が訪ねた魔法使いみたいな若い男は、人の憎しみや哀しみの増幅装置だというわけですよね」

 闇の中に灯された蝋燭の火で文字を読むのは、随分と疲れる。
 彼女は右のこめかみを薬指で軽く押さえて、小さくため息をついた。
「スクランプシャスにはこの系統の音楽はないかな……」
「君たちは冒険しないよね」
 向かいに座る男はダークブラウンのタートルネックに、淡いハシバミ色のウールのジャケット、まともな勤め人といういでたちではない。もっともその服の色合いは、彼女がこの店に入る前に確認したもので、脳が記憶している色だ。
 実際には今、彼女の目には男の輪郭さえはっきりと映っていない。

 言葉の調子は決して不誠実ではなかった。それでも彼女は少しだけむっとしていた。
「そんなことはないですけど」
 冒険、という言葉がプラスに使われているのなら、スクランプシャスほど、田島祥吾ほど、冒険をしてきたバンドはいないと信じている。だからこそ、日本だけではなく世界中にファンがいる。

「いや、冒険ってのはさ、つまり路線を変えることがないって意味だ。もちろん、君たちの音楽を愛しているファンを敢えて裏切る必要はないし、それはそれで重要な事なんだけれどね、けれど汚れ役ってのはやらないバンドだ」
「これが正しいって信じてやって来ています。祥吾さんの音楽、私たちの言葉は、人に夢を与えるためにあるんですから、それ以外の目的で音楽をやろうとは思っていません」
 少しだけ、彼女の声が尖っている。珍しいことだ。
 男が笑いを呑み込んだ気配が微かに彼女にも伝わった。

「怒らせるつもりじゃなかったんだ。もちろん、何十年と日本のトップを走ってきたバンドに、今から路線変更してみないかなんて持ちかけるつもりはないよ。何はともあれ、まず倉田巌の書いた脚本を最後まで読んでみて欲しいんだ」
「どちらにしても、私じゃなくて祥吾さんに直接交渉してください」
 もしも彼女に男の目が見えていたら、男が面白そうに笑っていることが分かったかもしれない。この男には、皮肉から会話を始めるという悪い癖があった。
 ただし、この店を選んだのは男が自分の欠点を隠すためではない。

 店内は文字通りの暗闇、というわけではなかった。
 所々に灯された蝋燭の緩やかな光が、暗い色の和紙のシェードを介して揺れている。
 隣にいる人の顔の輪郭が辛うじて見える程度の灯りだが、暗闇を求めてくる人にはそれすらも煩わしく感じる時がある。だからブースによってはさらに光を落としている場所もある。
 二人がいる場所はステージに一番近いボックス席で、殊更に明るさを廃した場所だった。
 会話も憚られる闇の中に、グループでやって来る客はいない。何も語らないカップルか、一人きりの客がほとんどだった。

 時にはこの暗闇に音楽がある。
 音楽が奏でられる時間、店内ではさらに灯りが落とされる。
 優しいストリングスの震え、吐息のような管楽器の音色、鍵盤に触れる指は眠る赤子を起こさないように気遣っているようだ。
 あるいは人の声。自らの身体を音楽のための器として差し出すことで生まれる調べ。蝋燭の灯りの下で聴く声明のようだ。

 暗闇だからこそ、伝わるものがある。
 ここはそのための場所だった。

 彼女が頼まれて誰かと、しかも業界人と会うという場合、大概は何かの売り込みや彼女の意志にそぐわない申し入れだったりする。
 Kanaという名前しか公表していないが、それが葦埜御堂奏のことだというのは、業界人の誰もが知っていた。デビュー後メンバーを変えることなくこの世界のトップを走り続けているバンド『スクランプシャス』のリーダー・田島祥吾の公私共にパートナーとしてだけでなく、演歌界からもアイドル界からも歌詞を提供してほしいという申し入れが後を絶たない作詞家として、彼女の名前は知れ渡っていたのだ。

 だが、彼女が公の場所に顔を出すことは全くと言っていいほどにない。
 バンドがデビューして三十年以上経つが、歌詞をスクランプシャス以外に提供したことも一度もなかった。
 奏には作詞家としての顔以外に、文化人類学者、先住民族の研究者としての顔があった。スクランプシャスの活動が上昇気流に乗っていた頃は、周囲の雑音が凄まじく、とても日本の大学で研究や講義ができなかった。
 当時の生活の拠点はアメリカで、祥吾の姉の祥子には言い尽くせないほどに世話になった。

 根強いファンが多いため、人気に目だった陰りなどないが、バンドとして年季が入ってくると、自然に周囲の騒音は鎮まり、彼女もようやく日本の祥吾の傍に戻ることができた。
 祥吾の方も日本にじっとしているわけではなかったが、離れたお蔭で分かったことがある。どれほど離れていても大丈夫なのだと絆の深さを感じたのだ。
 どんな時でも、詩を綴ることを止めたことは一度もない。変わらずにペンを握っている。それでも、それだけで自分の魂や人生が完結するとも思っていなかった。

 奏が生きて、学び、目で見たり聞いたりして感じたことから綴った詞は、祥吾の言葉となって初めて魂が吹き込まれる。
 音楽の世界に身を置いてみて、才能のある歌い手は山のようにいることが分かった。それでも祥吾以外の誰かに自分の言葉を歌ってほしいとは思わなかった。

 田島祥吾と葦埜御堂奏は共鳴装置のようなものだ。
 もちろん、祥吾は奏がいなくても曲を書くだろう。
 奏も祥吾がいなくても詩を書いていたかもしれない。
 でも出会ってしまって、二人で世界をつくることを知ってしまった。
 これ以上何かを望むことはない。

 それなのに、彼女が今日ここに来たのは、いとこであり、日本屈指の名プロデューサーと言われる葦埜御堂玲に、どうしても会って欲しい人がいると言われたからだった。
 内容ははっきりとは聞いていなかった。
 来てみたら、ある若手の映画監督の作品の主題歌を書いて欲しいということ、そしてそれをスクランプシャスではなく、あるバンドに歌わせてほしい、ということだったのだ。
 正直なところ、少しだけうんざりしていた。

 そんなことかもしれないとは思っていた。
 以前から玲は、もっと自分の才能を示す機会を広げるべきだと奏に言い続けていた。
 だが奏にはその動機がなかった。名声には興味もなかったし、誰かのために言葉を書くということは、常に祥吾という媒体を必要としていたのだからだ。

「ガウスの加速器の話だけれど、ほとんど意志を持たない小さな動きが、何かの媒体を介した途端に大きな力に変わることがあるってことだ。言葉ってそうじゃないか? この世界に溢れている小さな言葉、そんなつもりもなく放った言葉が、時に凶器になる。君が書いた言葉が誰かの胸に突き刺さる小さな棘になることもあるかも知れない。その言葉はもう君の手を離れてしまったのだから」
「だからこそ、絶望の言葉は書きたくないんです。言葉は誰かを傷つけるためにあるんじゃないわ。逆手を取るようで悪いけれど、私の小さな言葉が、祥吾さんという媒体によって大きな希望に満ちた音楽になって世界中に届くってこともあるのだから」

「君たちの音楽はそうやって人々の心に届いてきた。君たちの性質からして、自然と明るいものが周りに集まるのだから、明るい場所だけを見ていても、この先だって進んでいける。それくらいに君たちの存在に揺るぎがないことは認めよう。だが、上を見ているだけじゃ気が付かないこともあるだろう。目を背けたいことも、忘れたいことも、人には沢山ある。いや、君たちの音楽にそれがないというんじゃない。でも、絶望の本当の意味を知らなければ、希望の意味も分からない」
「あなたは私たちを傷つけたいの? 私たちに何かが足りないって言いたいのですね」
「いや、君たちにある若者を救って欲しいんだ」
 唐突にも思える言葉に、奏は息を呑み込んだ。

 そうだ。奏が今日ここに来たのは、この言葉が出ることを知っていたからなのではないか?
 待ち合わせ場所が、どんな有名人だろうと会員の同伴がなければ入れないという「暗闇カフェ」だったことに興味を覚えた。身元の確かではない人間を入れるわけにはいかないのは、場合によって闇は、犯罪の温床になる可能性があるからだ。

 本当のところは、今ロンドンにいる祥吾と、先月メールに書いた新しい詞のことで、少しだけ行き違っていた。
 喧嘩をしているわけではない。だが祥吾が珍しく、奏の言葉に満足していないことを感じた。いつもの祥吾なら、ここはこうした方がいいんじゃないかな、このフレーズの方が歌いやすいよ、この言葉の方が気持ちを伝えやすい、と歌い手としてのアドバイスをくれる。そして二人で伝えるべき言葉を完成させていく。
『奏ちゃんの言葉が、俺の言葉になって、生まれ変わるっていうことかな』
 あの日から、何を疑うこともなく言葉は自然に二人の間に溢れてきていた。

 だが今回は、何かが違うんだ、という言葉だけが返ってきた。
 もちろん、発表には至っていない詞は幾らでもある。それでも、こんなふうに根本的に祥吾に受け入れてもらっていない印象を受けたのは初めてだった。
 詞を前にして悩むことはある。
 だが、こんなふうに壁を感じたことはない。言葉と自分との間にではない。自分と祥吾の間に、だ。
 この暗闇で体験することや感じることが、今自分が行き詰まっている詞の行く先を拓いてくれるのではないかと期待もしていた。

 玲には何かが伝わっていたのかもしれない。
 暗闇カフェでは、時になかなかいい音楽を聴くことができるらしいよ。
 そう言いながら手渡されたチラシには「ふたり」というタイトルがうってあった。

 不思議なチラシだった。
 文字らしいものはタイトルと日付のみ。出演者の名前さえない。
 そして真っ暗な中に蝋燭の灯りが映った写真。
 揺れさざめく儚い炎に照らされて、静かに立つヴォーカリストと、背の高いベーシストの影が緩やかに重なっている。影だけなので、彼らの表情は分からない。
 ヴォーカリストはスタンドマイクを握りしめ、少し俯いている。
 ベーシストはやはり俯いて、背中で友の気配を感じている。
 まるで、誰に対しても聴いてくれることを期待していないような、閉ざされた世界が映されていた。

 もしかして。
 奏は顔を上げた。
「あの」
 男の手が蝋燭の明かりの中で静かに唇に寄せられた。
「君の耳で確かめてくれ」

 忍ぶように、いつの間にか暗闇のままのステージに人の気配があった。
 視覚が完全に奪われた闇の中で、微かにマイクから漏れる小さな雑音が揺れる。
 ライブの始まる瞬間、落とされた明かりに聴衆の熱が上がるような、奏の愛するあの気配はない。期待の叫びもざわめきも無く、ただ、ことんと小さく何かが当たる音がした。
 奏は目を閉じた。開けていても閉じていても、同じように暗闇の中だったけれど、何かが始まる気配を逃したくないような気がした。

 そして、今。
 暗闇の中、声だけが湿潤な微粒子を媒介にして奏の鼓膜を震わせた。
 始めのたったひと声、いや、声にもならない吐息のような音だけで、奏は磁石に引き寄せられたような心地がした。そう、さっき読んだ寓話の女のように。

 祥吾の音楽ならば、周りに集まるだけで幸せになった。
 まるでウォルト・ディズニーの魔法のように、祥吾は周りに多くの人を集め、いつの間にか皆を仲間にしてくれる。完全な陽の音楽感性の持ち主だった。
 だが、この声は違う。

 極めて個人的で、誰にも話せない秘密を語りかけるような声だった。
 よく知られた曲にあまり知られていないほうの詞を使って、彼(多分)はアカペラで歌い始めた。リリック・バリトンと言うべきだろうか、声は明瞭ではっきりと聞き取れる。軽やかな声とも聞こえる。それなのに、その中にある深く霞んだ感情は何だろう。
 心というものが部屋ならば、厳重に鍵を掛けていても、いつの間にか入り込んできている。秘密がたくさん詰まった私のためだけの部屋なのに、その真ん中にいつの間にか膝を抱えて座り込み、歌っている。聴く人の傍らで、囁くように、そして時には響き渡るように。

 時にこの曲は、シャンソンの性質もあって詩の朗読のように歌われるが、メロディーやリズムを、生真面目に、忠実すぎるほどに守っている。所々で少しだけ間合いをずらすのは、言葉の意味を確かめる作業のようだった。
 実際には、詞の意味など必要がなかった。声がそのまま、語っている。

 気が付かないうちに、ベースの音が声を支えていた。
 声を壊さないように、まるでコードだけを確かめるように、包み込むように奏でている。時にはメロディーですらなく、耳の奥でじんと震えるだけで、音楽かどうかも区別がつかない。自らの存在を隠しながらも、決して消えない音。
 ある意味、すごい技術だと思った。
 この声をひとりきりでここに立たせることはできない、その想いだけで寄り添っている。

 なんて哀しい。でも。
 もしかして、この男が言うガウスの加速器というのは、本当は憎しみや哀しみではなくて、希望の増幅装置のことかもしれない。
 奏は改めて、目の前で息を潜めて音を感じている男を見つめた。


もしも空が裂けて 大地が崩れ落ちても
わたしはかまわない あなたといるなら
あなたの腕の中で 身体を震わす時
何も見えないわ あなたの愛だけで


(『センス~闇の声~』 後篇へ続く)


冒頭の写真は、何故か後輩の結婚式で使いさしの蝋燭をもらったもの。
停電時に使えそうな大きな蝋燭なので、ずっと置いてあった……使う機会はあまりなさそうなので、今回登場させてみました。前に檸檬を置いてみたけれど、見えん(-"-)

解説は後篇の後で(*^_^*)
関連記事
スポンサーサイト

Category: (0)センス~闇の声~

tb 0 : cm 10   

コメント


おお!

なんともワクワクするお話ですね。
けいさんより早く読んじゃってごめんなさい><

ガウス加速器を話の軸に持ってくるとは驚きでした。
でもこうやって見ると、すごくいい感じでテーマになっていますよね。さすがだ。負のエネルギーは、更に加速してしまう。・・・怖いな。

そしてこの女性が大人になった奏だとは。
スクランプシャスも不動のアーティストなんですね。
田島君、30かあ^^
このお話は、近未来という事になりますね。
田島君のその後のエピソードも盛り込まれて、けいさんはきっとワクワクだろうなあ^^
こっちもワクワクです。
そしてここに、真二世!?
薄暗い照明の中で歌う真。一体どんな歌声なんでしょう。はっきりと書いていない声質が、想像力を掻き立てますね。
ただ、きっと悲しいでも優しい声なんだろうなあ。
ロックバンドではない?
奏ちゃん、この映画のために作詞するのかな。
次回楽しみにしています。

lime #GCA3nAmE | URL | 2014/06/17 17:56 [edit]


おおお! センスの世界がここに・・・
ありがとうございます^^

いまちょと胸いっぱいで・・・
うるうるなので、また後ほどに(^^;)

けい #- | URL | 2014/06/17 18:28 [edit]


limeさん、ありがとうございます(^^)

いや、こちらはもう、完全に自己満足の自己中のお話です。
田島くんと奏ちゃんのことは、「くっつけちゃえ運動」の推進者としては、とりあえず未来の話ってことで、結婚しているかどうかとか子供がいそうかどうかとはともかく、パートナーになっていただきます~、って勝手に決めちゃってけいさんに押し付け許可を頂いた次第で(^^)
で、実はですね、「夢叶」が現代の話だとすると、田島くんはもう還暦近いんですよ!
還暦のバンド、なんて、無茶苦茶かっこいいじゃないですか!
奏ちゃんも実は50代。でも、このお話の中では何だか若くなってしまいました。
多分、この二人、還暦になっても若そうだし、いいか!って。
で、うちの側のバンドは、実は、そうなんですよ、ロックバンドなんです。
純粋にロックかどうかは分かりませんけれど、路線的にはビートルズ系統。
ロンドンのライブハウスでやってた頃は、かなりビートルズを演奏していたようですから。
そして、彼らからしたら、スクランプシャスは憧れの伝説のバンド状態ですよね(^^)

カエルの子はカエル、いや、カエルの孫はカエル?
慎一坊ちゃんはピアニストですが、一応音楽繋がりではあります。
真は三味線(民謡もちょっと唄う)、息子の慎一はクラシック(ピアニスト→その後指を傷めて指揮者、特にオペラの指揮者・教育者で頑張りますが)、そしてひ孫の真はロック。
でも、この曾孫、平気でライブでオペラの名曲を歌うような奴です。
ものすごい二重人格(病気じゃなくて、性格的に)なんですよ。

でも、ほんと、あまり内容のない、ただ私が楽しんじゃっているお話になってしまっていますので、ほんと、中身はあまり期待しないでください^^;

> ガウス加速器を話の軸に持ってくるとは驚きでした。
> でもこうやって見ると、すごくいい感じでテーマになっていますよね。さすがだ。負のエネルギーは、更に加速してしまう。・・・怖いな。
うふふ。この寓意としての「磁石役」の魔王のような男性。いわゆる、仕事人ってことですよね。きっと美しい男に違いない。この人を主人公にした映画→テレビドラマでシリーズ化される、って話かな、とか思っているのです。
奏ちゃん、作詞しますかね? だって、お話、暗そうだし、スクランプシャスに似合わね~、だし^^;
後篇もほんと、勝手に楽しんじゃっていますが、ご一緒に楽しんでいただければ嬉しいです(*^_^*)
(けいさんより早くに?)コメントありがとうございました!

彩洋→limeさん #nLQskDKw | URL | 2014/06/17 21:17 [edit]


けいさん、ありがとうございます(^^)

はい。もう欲張っちゃいましたよ!
スクランプシャスも絡める、センスも絡める、ついでにうちのも宣伝しちゃおう、ってな感じです。
あ、勝手に奏ちゃんの未来像を作ってしまってすみません!
素晴らしい作詞家だけれど、阿木耀子みたいにガンガン他の人に曲を書いているようなイメージはなくて……
田島くんに歌ってもらうために書き続けている、そんなイメージのままなんです。
ってことは、きっと他に仕事があるに違いない! ってわけで。
実はうちでも、真の従妹が文化人類学者なんですよ。真の叔父さんがアイヌ人の女性と結婚していまして、その娘さんが自らの出生にちょっと悩んだりした結果、北アメリカの先住民族と触れ合う中でアイデンティティを確立していく、なんてエピソードがありまして。
あ、いけません、語ってしまいました……

取りあえず、後篇をお待ちくださいませね(^^)

彩洋→けいさん #nLQskDKw | URL | 2014/06/17 21:25 [edit]


まずは、改めまして。8888の末広がりHIT、おめでとうございます。
そして、リクエストにお答えくださり、ありがとうございます。
私、大海さんのあの「センス」の世界が(も)大好きなんです。

そしてそして、奏ちゃん、おっと、あしのみどうさん、ですね(←苗字打つの大変だったでしょ)
大きくなって・・・ちゃうっ・・・
奏の経歴、結構すごいっすね。姉の祥子に気に入られているなら大丈夫ですね。
なるほど大海さんちにも。語っていただき、ありがとうございます。

うんうん。田島とは公私とも、なんですよ。ふふ。
(↑私には描けなかった。大海さん、ありがとぉ~~)
素敵に登場させていただきまして、ドキドキしています。
アラカンの田島がまだまだ歌っているのが嬉しいです。

「暗闇カフェ」、まさにセンスの世界ですね。
ろうそくの明かりの中で交わされる会話に、こちら勝手に想像が盛り上がります。
奏は誰と話をしているのでしょうかね。
依頼話しかあ。それも、人助け・・・?
もしかして・・・って、何か思い当たることでもあるのでしょうか。

ステージでは、スタンドマイクを握るあの方と、ベースのあの方ですな。
ああ、初めて聞く声。七色のうちの繊細色(?)
今の心を映す色なのでしょうかね。
ベースのサポートも絶妙。田島と成ちゃんみたい(?)
事情については次回かな。
ガウスの加速器現象が、お話の中でどう起こるのでしょうか。
あーも、つらつらとすみません。止まらなくて。いい加減にします(><)
次回も、超楽しみにしています^^

大海さんっ。「終わらない歌」、新シリーズ立ち上げですか。
次回で終わらないことを超期待しちゃって良いのですかね。ふふ。
今後も、大海さんのブログが末広がりに繁盛しますように。

ちなみに、私は、どんな獰猛な動物をも手懐ける杖、が欲しいです^^
興奮しすぎで脈絡なくてすみません(滝汗)

けい #- | URL | 2014/06/17 22:12 [edit]


管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

# |  | 2014/06/17 22:30 [edit]


けいさん、ありがとうございます(^^)

> まずは、改めまして。8888の末広がりHIT、おめでとうございます。
けいさん、ありがとうございます! そして、コメ返、遅くなってすみません!
と言っても、ほんと、地味な数で喜んでおりますが、ご訪問くださった皆様に感謝です。
さらに、リクエストありがとうございました。
ただでさえなかなか万人受けする話は書けない中、ますますマニアックな方向に流れそうなお話ですけれど、そんなところへ奏ちゃんを引っ張り出してきてごめんなさい。
『センス』の世界は一話限りだったので、あれきりシリーズにはなりませんが、あれを現実に置き換えたら、と思ったら、ふと暗闇カフェなるものを発見しました。
五感って、どれかを抑えることで、他の感覚が鋭くなるものなのですね。
でも料理はやっぱり視覚があった方がいいなぁ。目でも楽しみたい。
カフェだから、きっとすごい料理とかは出てこないんでしょう。

> そしてそして、奏ちゃん、おっと、あしのみどうさん、ですね(←苗字打つの大変だったでしょ)
いや、実は……面倒くさそうだったので、コピペ大活躍でした^^;
そして勝手に経歴作っちゃってすみません!
あの、こんなんじゃないよ~ってな場合は削除しますので、お気軽におっしゃって下さいね。
でも、奏ちゃん、詞は書き続けるけれど、それだけではないと思うんですよね。
他に仕事もあって、そんな中から歌が生まれてくるみたいな。

> うんうん。田島とは公私とも、なんですよ。ふふ。
> (↑私には描けなかった。大海さん、ありがとぉ~~)
> 素敵に登場させていただきまして、ドキドキしています。
> アラカンの田島がまだまだ歌っているのが嬉しいです。
公私とも、のあたりは適当に誤魔化しつつ、想像の幅を広げさせていただきました。
でも、運命の人なのよ、きっと(*^_^*)
アラカンまでは色々あったと思うのですが、それでもなんだかんだ言いつつ、オリジナルメンバーで続けているような気がしますし、そうあって欲しいという願望を込めました。
けいさんの予定と違っていたらどうしようとどきどきしつつのアップです(*^_^*)

> 「暗闇カフェ」、まさにセンスの世界ですね。
> ろうそくの明かりの中で交わされる会話に、こちら勝手に想像が盛り上がります。
はい。相手は、まぁ、特に引っ掛け問題はなく、あるプロデューサーってところでしょうか。
「もしかして」の意味は……う~んと、暗闇の中で会話をしているので、相手の表情は読めないんですよね。だから、皮肉屋の相手の言うことは、最初は悪い方向へと感じていたのだけれど、話の中身をしっかり分析すると、実はいい人なのかも、みたいな「もしかして」……ガウスの加速器は悪い方向じゃなくて、良い方向へ使おうって話なのかな、という「もしかして」でした^^;
ガウスの加速器はこのお話の中では未発展になると思いますが、これから広がっていくと思うのですよね(*^_^*)

> ステージでは、スタンドマイクを握るあの方と、ベースのあの方ですな。
> ああ、初めて聞く声。七色のうちの繊細色(?)
> 今の心を映す色なのでしょうかね。
わ。覚えていてくださったのですね。
そう。七色の声と言われるヴォーカリストですが、実はただ気紛れな奴なのかも……気分屋なのです。掴みどころがないというのか。まだ発展途上ですから、わけ分からず、同じテンションでロックもクラシックも歌う(クラシックは遊び)。民謡はないと思うけれど……(いや、あるかも?)
そう、今は……声を絞り出しているので、痛々しいのです。

> ベースのサポートも絶妙。田島と成ちゃんみたい(?)
> 事情については次回かな。
仲良しってわけじゃないのに、結果的にこのひどい状況に付き合ってくれたんですよね、ベースの彼。
ベースとヴォーカルだけで、ほんと中途半端だけれど、今はいっぱいいっぱい。
さて、奏ちゃんがここでどんなふうに活躍してくれるのか、後篇でも全く自己中なお話になりそうですが、お付き合いくださいませ(*^_^*)
そう、ほんと、事情は次回語ります!

> 大海さんっ。「終わらない歌」、新シリーズ立ち上げですか。
> 次回で終わらないことを超期待しちゃって良いのですかね。ふふ。
> 今後も、大海さんのブログが末広がりに繁盛しますように。
マニアックなので、末広がりにはなりそうにないけれど、心だけでも!
「終わらない歌」どう始末するのか、これ以上手を広げられないので、ちょっとどうなるか分かりませんが、一応カテゴリだけは作ってみました^^;
何でも「形から入る」。形も大事ですよね^^;^^;

> ちなみに、私は、どんな獰猛な動物をも手懐ける杖、が欲しいです^^
あ。この辺、気分はダイアゴン横丁でした^^;
けいさん、こちらこそありがとうございます。
後篇来週になりそうですが、お楽しみに!

彩洋→けいさん #nLQskDKw | URL | 2014/06/20 01:50 [edit]


鍵コメL様、ありがとうございます(^^)

って、すぐに誰か分かっちゃうなぁ、ごめんなさい^^;
いや、きっと奏ちゃんの会話が若すぎるんですよね。
でも、50代でも奏ちゃんは変わらない気がする。
そして田島くんも。だから仕方がないことにしましょう!
いぶし銀なのに、きっとあのまま……そこが魅力なんですよ、きっと。
けいさんのイメージを壊していないか、皆さんの中にある奏ちゃんのイメージを壊していないか、本当に気になります……が、開き直ってまた後篇も頑張ります(^^)

そして、いまさらですが、イラスト、ありがとうございました!
いや~、ほんとに、キュンキュンしますね。
いじけ方がほんとにマコト(真)だ!
これからまだ「マコト編」があるのですよ。
今度は男の子と立場は逆。待ちぼうけのマコトのいじけモード全開の可愛らしさをお楽しみに!

彩洋→鍵コメL様 #nLQskDKw | URL | 2014/06/20 01:57 [edit]


素敵~♪

彩洋さん、こんばんは♪

またしてもしばらくぶりのコメントになってしまってごめんなさいです~!(>_<)
でもでも、こっそりお邪魔しては最新の記事を読ませていただいていたのですよ……って、自分で読み逃げを暴露しちゃうあたしって……( ̄▽ ̄;)

ま、そんな(自分に不都合な……笑)ことはさておき、今回も素敵なお話を読ませてくださってありがとうございました。
摩訶不思議で妖しの語りっぽい冒頭から惹きつけられるようにして一気に読み進めてしまいましたよ!
元になるお話を読んでいなくても、十分に背景が推察できて、しかもその世界に想いを馳せることができる内容となっているのがすごいと思いました。
物語を目で追いながらも、同時に色んな音楽が耳に聞こえてきそうな文章の冴えは、彩洋さんにしか描けないものなのだろうとも感じ入りました。
本当にすごく素敵なお話ですね♪

ではでは、後編が掲載されるのを楽しみに待たせていただきたいと思います。
いつも心ときめくお話を読ませて下さり感謝です~(*^_^*)

三宅千鶴 #- | URL | 2014/06/21 23:45 [edit]


千鶴さん、ありがとうございます(^^)

こちらこそ、読み逃げになっていてすみません!
近頃忙しすぎて……あれこれ手つかずのことも多い中、時間だけは無情に過ぎていく、という感じです。
またまとめてコメントを書かせていただきにお伺いしますね!
きっと千鶴さんもお忙しいと思いますので、ほんと無理をなさらずに!

今回はリクエストに便乗して、体よくこのままでは埋もれそうなキャラたちをちょっと動かしておこう作戦、です。真は真でも、ずいぶん違うタイプ。一時一生懸命書いていたので(ても十年以上前で手書き……^^;)、その時は初代真の話は完全にとまっていました。
今時、初代真の方を書きながら、たまにはこの二代目真を思いだしていたりして。
初代より、やや開放的な奴ですが、打たれ弱い面もあるかな。でも、その分、こちらの真は味方も多い。
そんな「仲間のいる真」をお楽しみいただければと思いまして……
少しでもその世界を感じていただけたなら、と思って書いていたのですが、あれこれ察していただいて嬉しい限りです。後篇ではもう少し宣伝らしい話に……じゃなくて、人物が分かるような展開です。
この話にはけいさんちからお借りした奏ちゃんの力が大きくて、珍しく女性キャラを掘り下げたくなっておりました。一見「ついて行くわ」系の女性なのに、実はしたたか。そういう女って好きなのです。
音楽の話は、クラシックのお話でえらい目に遭いつつもやめられない、ってところでしたが、こちらロック(ポピュラーロックみたいなあいのこ系)ともなると、全く分かりません。なので、ほんと、中途半端でお見苦しいのですが、しばらくお付き合いいただけると幸いです(*^_^*)
さらりと読める短編になるはずが、何だかゴテゴテ感のぬぐえないお話になりそうですが、ほんと、単なる宣伝と思っていただいて、映画館で「近日公開!」の宣伝を見るようなお気持ちでかる~く読んでいただいたらと思います(^^)

> いつも心ときめくお話を読ませて下さり感謝です~(*^_^*)
こちらこそ、いつも暖かいコメントをありがとうございます!
後篇もお楽しみに!

彩洋→千鶴さん #nLQskDKw | URL | 2014/06/22 17:50 [edit]

コメントの投稿

Secret

トラックバック

トラックバックURL
→http://oomisayo.blog.fc2.com/tb.php/474-3472d1f0
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)