07 «1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.29.30.31.» 09

コーヒーにスプーン一杯のミステリーを

オリジナル小説ブログです。目指しているのは死体の転がっていないミステリー(たまに転がりますが)。掌編から長編まで、人の心を見つめながら物語を紡いでいます。カテゴリから入ると、小説を始めから読むことができます。巨石紀行や物語談義などの雑記もお楽しみください(^^)

 

【8888Hitリクエスト第2弾】センス~闇の声~(後篇) 


遅くなりましたが8888Hitリクエスト第2弾『センス~闇の声~』後篇をお届けいたします。
こちらは『憩』のけいさんからのリクエスト。前篇はこちらです→『センス~闇の声~前篇』


けいさんの【夢叶】から、伝説のバンド(とは言わないか。まだ現役の還暦バンド)の作詞家・奏ちゃん(すでに50代!)をお借りして、展開するお話となっております。
なお、こちらに登場する相川真は、初代相川真の曾孫です。別人ですので、お間違えのないように!(あ、登場してなかった。名前だけです^^;) 初代との違いは、この2代目の方は相当にぶっ飛んでいます。言動も性格も。

そして、この後篇のテーマソングはこちらです。

晩年(と言っていいのか)の彼の歌声には鬼気迫るものがありましたね。

The show must go on !
このmustは「しなければならない」というよりも「どうしたってそうなってしまうんだ」という必然、命の定めの残酷さのように聞こえるのです。……堂本光一さんのEndless SHOCKでは舞台というshowは「続けなければならない」ニュアンスでしたけれど、人生・命というshowは「(Whatever happens)続いていってしまう」ものなのですね。
痛々しいけれど(My soul is pained like wings of butterflies)……I can fly, my fraieds! なんです。

死と闇。重いテーマで、なかなか追いつないけれど、いつも身近に感じていることを精一杯書いてみました。
悲しみよりも愛が、ガウスの加速器で皆様の元に届きますように。
けいさん、リクエスト、ありがとうございました(*^_^*)

【センス~闇の声~】(後篇)

暗闇ライブの時間は短かった。
闇の中で過ごす孤独の時間を邪魔することを恐れるかのように、わずか半時間ほどで、始まる時と同様に消え入るように静かに終わった。拍手も掛け声もご遠慮くださいと入店時に説明があったので、その決まり事を破るものはいなかった。
それでも奏は、店内の客たちの無言の興奮と喝采を感じた。
奏があともう少しこの歌声を聞いていたいと思ったのは、今悩んでいる詞を書いたノートの表紙を、頭の中でめくりかけたからだった。今ノートを開いたら、何かが書けるように思う。
なんだろう。ドキドキする。不安で、怖くて、でもそこにある真実に手が届きそうな気がした。

心が懸命に何かを探していたので、向かいに座る男の隣に誰かが立っていることには気が付かなかった。
「紹介するよ。葦埜御堂奏さん。知ってるよね」
奏は映画の主題歌を書いてくれと言った男、政田俊樹の声に我に返った。

政田俊樹もまた業界で顔の利くプロデューサーの一人だった。葦埜御堂玲とはライバル関係にあるのだが、仲がいいのか悪いのかよく分からないと玲自身から聞かされていた。お互いに一目置いているが、できるだけ仕事面で接触しないようにしている、そんな関係のようだ。
それでも、玲はきっとこの男を信頼しているのだろう。友人でなくても、信頼することはできる。だから、奏にスクランプシャス以外の歌い手のために曲を書くように勧めて欲しいと頼んだのかもしれない。

そこに立っていたのは、小柄な青年だった。
演奏中は極力明かりが落とされていたのだが、今また少しだけ店内がほんのりと明るくなっていた。とは言え、先ほどのライブの時間があまりにも暗かったのだ。やはり歩くのは不安なほどの明度だったので、青年の顔まではよく見えなかった。

「彼、嘉手納由貴くん」
「始めまして」
低く答えた声は身体に見合わずしっかりと響いた。
「嘉手納由嗣の息子だ」
その名前には何となく聞き覚えがある。
「嘉手納は俺の親友だけどね、俺が言うのもなんだけど、あんまり売れてない映画監督だ。売れない映画をわざと作っている、ろくでもない親父の息子だよ。まぁ、息子の方が断然出来がいい。ついでに再婚相手もなかなかいい。君に曲を書いて欲しいといった映画の原作兼監督の倉田巌ってのは、嘉手納が一番可愛がっている弟子だよ」

それで思い出した。嘉手納由嗣。何年か前に、絵本作家の相川翎奈と結婚したというので話題になっていた。社会派のドキュメンタリー風の映画を撮るのだが、あまり売れている監督ではない。ただ質のいい映画を撮るとは聞いていた。

その時、完成間近のパズルの最後のピースが見つかったような気がした。奏は改めて、誰もいなくなったステージを見た。
では、さっきまであの場所に立っていたのは……
「義兄です」
青年は奏の気配から何かを読み取ったように、先に答えた。

相川翎奈には息子がいる。つまり、嘉手納由嗣と相川翎奈は子連れ同士の結婚だった。そしてその相川翎奈の息子というのは。
「じゃあ」
「そう。俺が君に詞を書いて欲しいと言ったのは彼のためなんだ。あいつに歌わせたい。倉田は彼に主演もさせたいと熱烈にラブコールを送っているが、まったく届いていないようだな」

名前をここで出すのは憚られた。スクランプシャスとヒットチャートを競うこともある有名なバンドのヴォーカリストだったからだ。しかも、昨年彼が、日本で名実共にトップクラスの女優・笈川さゆりと疑似母子を演じたドラマは大当たりしていた。
どうして気が付かなかったのだろう。いや、分からなくても当然かもしれない。
人の声というのは音色がある。声の調子を変えても音色は変わらないものだが、彼の場合、音色自体を七色に変えると言われていた。
だが音楽をやるものにとって、これは両刃の刃ともなる。何故なら、聴衆は聞きなれた声に安心する可能性が高いからだ。
彼の声は気紛れだった。
そして今しがたステージで歌った声は、これまで彼らが作ってきた曲の中では決して聞くことのなかったものだった。

では、あのベーシストはBreakthroughの橋本隆二だったのか。祥吾が、若手とは思えない、ものすごいベーシストだと手放しで称賛していたし、イギリスのビッグバンドから声がかかっていたのを蹴ってBreakthroughのベーシストになった時には、ものすごく驚いていた。
ベーシストにしては派手めの音を出す、というのが奏の印象だったが、今日の音はまるで無色透明の水のようだった。

彼らに対して、奏自身は悪いイメージを持っていない。
ヴォーカリストの相川真、つまり今ここにいる嘉手納由貴と名乗る青年の義理の兄は、ちょっと洒落た音楽番組でスクランプシャスと共演した時、祥吾のファンだと言ってものすごく喜んでくれていた。
だが、スキャンダラスな記事が、彼らの活動を休止に追い込んだ。いや、そもそもヴォーカリストが「歌えなくなった」と聞いていた。
歌えない?
それどころか、声には鬼気迫るものがあった。まるで、命を歌の中に吐き出してでもいるような。

「君も知っている通り、例の事件で彼らは公には活動を休止した。ギタリストの遠山一は今バックバンドを幾つか掛け持ちしているし、ドラムの山辻哲也は完全にロックから離れてオーケストラでチューバを吹いている。キーボード兼アレンジャーの神坂伸二はまた躁鬱の鬱のほうになって籠っているらしい」
「解散したわけじゃないんでしょう?」
「ヴォーカリストが歌えないんじゃ、どうしようもないけどね。いや、歌えないわけじゃない。現にこうして歌っているんだから。だが、自分たちの曲は一切歌わない。ああして魂を削るみたいに自虐的に歌って、あまり眠れず食事もほとんど摂れないから、しばしば点滴のお世話になっているらしい。この暗闇と同じだ。小さな明かりだけを頼りに歩いている」

結成当初から、いつ空中分解してもおかしくない個性派揃いのバンドだと言われていた。しかも火種はヴォーカリストの相川真で、その火に油を注ぐのは橋本隆二だろうと言われていたのだ。元から同じバンドのメンバーだった遠山、山辻、相川の三人はともかく、神坂と橋本は何かあればいつでも出ていくだろうと思われていた。彼らの実力なら、欲しがるバンドは幾らでもある。
それでも、共演した時、彼らは輝いて見えていたと祥吾は言っていたし、奏にもそう思えた。

由貴が控えめに発言の許可を求めた。
年甲斐もなく、どこか老いた者にある諦めの気配を漂わせた青年だと、奏は思った。
「義兄はゼロか百かってタイプの人ですから、今度のことできっと辞めてしまうのだろうと思われたかもしれません。でも、義兄から歌うことを取ったら、それこそ何もなくなってしまう。今義兄が歌っているのは、どんなに苦痛でも、歌うことは呼吸をすることと同じだからです。それが分かっているから、隆二さんはああやって義兄にくっついてくれてる。メンバーの中で最もそんなことをしそうにない人なのに」

「あの、よく分からないんだけれど、それはつまりスキャンダルがショックで?」
「いいえ。報道されたことは」
言いかけて由貴はちらりと隣の男に何かを確かめたようだった。
「嘘じゃありません。笈川さんとイタリア人と義兄の三人の関係も、義兄がそのイタリア人の死にショックを受けてあんな状態になっていることも。いえ、ショックなんてものじゃありません。上手く説明できませんけれど、魂の半分を持っていかれたような。知られた通りハチャメチャなところのある兄ですけれど、あの人、ああ見えて無茶苦茶繊細なんです。僕は傍で見ているだけですけれど、大事な人を失うってこんなことなのかと」
あの時話題になったのは、女優・笈川さゆりとあるイタリア人の恋愛、そして実は彼らと相川真の三角関係のもつれだった。

言葉は一体どれほどの想いを伝えられるのだろう。
この暗闇のカフェの中では、奏には相手の顔は見えない。だが、今傍にいる青年の声、微かな身体の震え、時折言葉を失う沈黙の間が、足りない詞の隙間を埋めていた。
「正直、格好悪いんです。ご存じの通り、義兄はロンドンでデビューする前にも自殺未遂のようなことを起こしています。ロンドンに行ったのは、バンド仲間の自殺とその人との関係が噂されたからだと言われていた。警察沙汰になったこともあるし、世間的には後ろめたいような人たちとも付き合いがある。女関係だって決して褒められたものじゃない。その上、そのイタリア人とだって。そんな人ですけど」
声には抑揚がないようにも聞こえた。それなのに、奏には声の中にあらゆる想いが見えた。
「僕にとっては大事な家族です。そして義兄にとって、亡くなったあの人は、全てだった」

暗がりでの会話は必然的に小さな声になった。
離れた人には聞き取れないように、傍にいる人には届くように、音に何かを籠めている。
奏は見えぬ手に導かれたように鞄を引き寄せ、いつも持ち歩いているノートを取り出した。
不思議だ。私はこんなことをもう何十年も続けている。想いをペンに乗せて、白いページに文字を綴る、ただそれだけのことを。
そしてこれからも続けていくのだろう。それが疑いなく自明のことだと胸を張れる。

「それは」
政田が覗き込んできた。
「友人が長く連れ添ったご主人を亡くしたの。彼女は海外赴任したご主人について行かずに離れ離れのまま別れてしまったことを、本当に後悔していて。それで、ふと思い出した。十年ほど前、祥吾さんが乗ったはずの飛行機の行方が分からなくなったと聞かされたことがあったの。その時、私は初めて自分はひとりきりで不安な存在なのだと気が付いた。どれほど近い存在でも、離れている時に何かあったら、どうすることもできない。結局、彼は偶然予定を変更していて、私は再び彼に会うことができたけれど、この世界の中には、あの時止まってしまった時計を動かせないままの人がいる。それを思うと、私も苦しくてたまらない時があって、言葉にして吐き出してしまいたくなった。友人にも少しでも慰めになればとも思って」

「でも、何かしっくりこなかったということか」
「祥吾さんにそう言われたんです。いえ、私もそう思っていたのかもしれない。あなたの言う通り、希望や夢はいくらでも詞にも音にもなっていくのに、闇と死は扱うのが難しい。いいえ、詞にすると何かが違ってしまう。誰かを支えたい、慰め励ましたいと思う言葉が空回りしてしまう」

青年は奏が広げたノートの上の文字をじっと見つめていた。
初めて会ったこの青年に、奏は不思議な共感を覚えていた。こういうことは理屈ではないとも言えるが、第一印象がどれほどあてにならないものか、これまでに嫌というほど経験してきている。それでも、こうして明かりが落とされた空間では、何かもっと本質的なものが見えるのかもしれない。

文字を読むには幾分か努力のいる暗さだったが、蝋燭の揺れる火に照らされた文字はまるで生きているように濃淡が明瞭となり、文字のまま音を発しているように見えた。
微かに揺れる文字は、奏自身にも自分の詞とは思えなかった。

他人の目に晒された時、私の言葉はもう私のものじゃなくなる。
それはガウスの加速器と同じだ。何かの媒体によって、その言葉の力は大きくなる。手を離れてしまったら、もうコントロールは利かない。届けられた相手のところで、それは愛や慰めにもなるが、刃となることもある。それが、自分にとっては正しいと思った言葉でも、相手にとっても正しいかどうかは分からない。それが自分にとって胸に響く言葉のつもりでも、相手には届かないこともある。

だからいつも不安が半分残されていた。
でも、この私の閉じ込められた不安な言葉が、祥吾さんの曲と声に乗せられて命を得る。彼の曲と声が、わずかな言葉に籠めた私の想いに力を与えてくれる。
だから、恐れることはないんだと思っていた。
その祥吾が「何かが違う」と感じていることはメールのやり取りで分かっていた。

やがて由貴が顔を上げた。表情は穏やかで、厳しく見えた。この子は幾つなんだろうと不思議に思う。まるで死を前にした老人のようにも感じられた。
「もしこれを義兄が読んだら」
由貴は言葉の前に少し長めの沈黙を挟んだ。その沈黙が奏の心に届いた。

「とても優しい詞だけれど、死はこんなものじゃないと言うような気がします。愛、夢、希望、優しさ、慰め。死はそんなものは何も届かない世界だと。本当に残酷なのは、それでも残されたものは生きて行かなければならないということです。どんなに話し掛けたくても、どれほど触れたくても、そこにあるのは無なんです。乗り越えることなんてできない。それなのに、空洞、悲しみ、無の恐怖、絶望、後悔、そんなものを全部抱えたまま生きて行かなければならない。今の義兄を見ていたら、それは本当によく分かります。ろくに物も食べれず、それでもああしてマイクを握りしめ、感情をぶつけることもできず、ただ歌っている。空っぽの中から何かを吐き出しているみたいだ。その度に身体が軋みをあげて唸っている。死にたいほど苦しくても、死ぬことはできない。もしもあなたが、大事な人を失った誰かを慰めたいのなら、失ってしまって取り返しのつかないところへ追い込まれた人の気持ちになろうとするのは間違っています。それは絶対にできないことだから。あなたは、そんなことをする必要はない。無は無だから、どうすることもできないんです」

「でも、それでは寂しすぎるわね」
「えぇ。でも、僕はどうしたって義兄の気持ちにはなれない。なんでそんなに苦しむのか、もどかしく思うだけで、何もできない。かけてあげる言葉もない。義兄は絶対に心のその場所、その人を失ってしまったらどんなものを持ってきても埋めることのできない場所に、他の誰かを立ち入らせようとはしないでしょう。しかもその場所にはもう、その大事な人もいない。死んだ人が心や記憶の中に生きている、って言いますけれど、僕は義兄を見ているとそんなふうには思えない。完全な孤独、全くの無の空間で、義兄はたった一人でそこに立っている。それなのに、その空洞を抱えたままでも、義兄という一人の人間は生きて行かなくちゃならないんです」

分かっていた。祥吾は高校生の時、誰よりも大切な友人の一人を亡くしている。それから年月が経ち、スクランプシャスが生まれ、走り続けてきた。もう祥吾はそのことを乗り越えているのだと思える出来事も多くあった。
だが、誰よりも傍にいる奏やメンバーは、どこかで分かっていた。
どんなに傍にいても、祥吾の心の中には誰にも、どんなに親しい人間にも触れることのできない場所がある。

「でも僕は、彼の傍にいることができる。生も死もその人だけのものだから分かち合うことはできないけれど、ここにいて彼を見ていることはできる。あなたはプロの作詞家だから言葉にしなければならないのかもしれないけれど、やっぱり人の心の闇や死はどうすることもできない。そのことについて、あなたはその人のためになる言葉を探す必要はないと、そう思います。詞はどうしたって心に追いつかないんだから」

声は密やかで淡々としたままだったが、由貴が心を籠めて話していることが分かった。
「すみません。生意気なことを言って。あの、僕はスクランプシャスの歌、好きです。みんなで幸せになろうって、手を差し伸べてくれている気がして、勇気が湧いてくる。どんな人間でも、果てしなく遠くを見つめることが難しくても、一歩だけなら前に進むことはできる、もしかしたらその小さな一歩が積み重なったら、果てしなく遠くへ行くことができるかもしれない、って教えてくれる。だから、あなたの外にある言葉を無理やり連れてくる必要はないんです。あなたの中にある言葉があれば、聴いているファンも、曲を作る田島さんもきっと、それだけでいいんです。だって、あなたの、あなたたちの言葉、音楽が聴きたいから」

奏はふうと息を吐いた。
「さっき、彼の歌を聴いて、これは私には書けないと思った。居ても立っても居られない気持ちになって。何かをしてあげなくちゃ、慰めなくちゃって思うけれど、身体も心も固まってしまったようで。気持ちも詞もとても追いつけないと感じた」
それは1970年代に活動し、ヴォーカリストがHIVのために亡くなった伝説のロックバンドの曲だった。そのヴォーカリストが自らの死を悟りながら歌った声には胸に迫るものがあったが、大事な人を失い、とり残された側の人間が歌う声にも、他の誰も寄せ付けない深い深い孤独があった。

失うということは、こういうことなのだ。
死、苦悩、憎しみや哀しみの負の力は恐ろしく強い。時にはあのガウスの加速器の寓話のように、誰かを巻き込み、その心にも刃を向ける。
それでも、どんなことがあろうとも、残されたものの人生は続いていく。この舞台を降りることは許されない。だから血を吐きながらでも進まなくてはならない。
いつか時が過ぎ、他の誰かに出会い、仲間や家族を愛することができても、その闇のような空洞は小さくならない。ずっと抱えたまま、定められた命の尽きる時まで、歩き続けなくてはならない。

「でも、あなたの言う通り、私たちは傍にいることができる。哀しみや苦しさを分かち合うことはできないし、慰めることも励ますこともできないけれど、私はずっと傍にいた」
祥吾にとって、自分はどんな存在だっただろう。そしてこれから、どんな存在になっていくのだろう。
「僕、思うんです。その人といっしょに苦しんじゃいけないって。僕は義兄の苦しみの煽りを食らって一緒に倒れるわけにはいかない。強く健全であろうと思うんです。そうあってはじめてその人を包み込める」


「あの子、どう見えた?」
カフェを出たところで、唐突に政田が訪ねた。
「どうって、年の割に大人びた子だな、と」
共感した、あの子と私は同じだと思った、と言うのは妙に気恥ずかしかった。
そう思って妙な気持ちになった。奏とあの青年は30年ほども年が離れているのだ。それなのに、魂の向かう先は少しも変わらない。人が分かり合ったり共感するのには、歳も性別も経験も、それほど意味がないのかもしれない。

もうひとつ、妙なことに気が付いた。
カフェの中よりも外の方が明るい。人間の視覚というものはなんとも相対的で頼りがないものなのだろう。そして、だからこそ、夜は孤独で寂しいものではなく、別の側から見ると、なんと優しく甘く温かいのだろう。

街灯に照らされ浮かび上がった道は、果てなく遠くまで続いているようにも見えたし、一方で、終わりの時から今を見つめているような気がした。
若い時は、青空が広がっていて、エンドラインはないと思っていた。
でも今は、エンドラインからここが見える。そういう歳になったということかもしれないが、不思議なことに、希望は少しも減っていないことに気が付いた。

「由貴くん、生まれつき心臓が悪いんだ。大阪の大きな病院で五回も手術を受けているし、あの年で既に生死の境を何度も彷徨っている。元気そうに見えるが、健常人と全く同じというわけにはいかないし、いつ何時何が起こるとも知れない。ところがあのアニキときたら、無茶苦茶で由貴くんを振り回してばかりいる。だが」
政田はふん、と息を吐き出した。
「あの義理の兄弟は絶妙の組み合わせだ。身体は半人前だが精神的には老成した弟と、精神的にぶっ壊れているが身体と熱情は健全な兄と」
ふふ、と奏は笑った。政田がほっとしたような声を出した。

「やっと笑ってくれた。気分を害されたままじゃ、君のあの従兄殿に何を言われるか分かったものじゃない」
「別に私、気分を害してなんかいませんけど」
「そうかな。最初はちょっと怒ってたじゃない」
「えぇ、まぁ。あなたの言い方が気に入らなかったので。でも、今日はありがとうございます。何かに手が届いた気がする」
「そりゃ良かった。暗闇の効果だな」

その通りだと思った。
闇があるから、光は輝くことができる。心に重いものを抱えているからこそ、祥吾の歌は、スクランプシャスの音楽は、夢や希望を伝えることができる。
祥吾さんに出会えてよかった。一緒に道を歩いてきて良かった。
そして、後に続く若者たちに、私たちは何かを語りかけたい。
一緒にこの道を歩こうって。あなたの心にも、その中にある空洞にも届かないけれど、あなたはその暗闇を抱えたままでいい。
それでも、あなたの義弟、あなたの仲間はあなたの隣に立っているよ。
「政田さん、私、書いてみようかしら。いいえ、書かせてください」


「ふたり」
もしも光のない世界に生まれ
始めからこの目に何も映らなければ
あなたの瞳が見えない孤独を
知らずにすんだだろうか

もしも音のない世界に生まれ
始めからこの耳に何も響かなければ
あなたの声が聞こえない不安を
知らずにすんだだろうか

もしも私の皮膚があなたの温度に
触れることができないのなら
光も音もない世界で
あなたがそこにいることを
知ることはできないのだろうか

いいえ、それでも私には分かる
あなたの瞳、あなたの声、あなたの温度
私の命の記憶が
あなたを知っているから
私の心の鼓動が
あなたを感じているから

奏はノートのそのページを破り捨てた。
ずっとどこかで感じていた。いつも明るく前向きに歩こうとする祥吾が、今も決して奏に触れさせない場所がある。その時のことを知っている鏡成太郎にさえも、寄り添うだけで何もできない部分がある。
あの心の場所には祥吾だけがいる。亡くしてしまった大事な人を想い、今でもその空洞に苦しみ嘆いている祥吾だけがいる。その空洞のような空間を埋めるものは何もない。
だから祥吾は、奏の詞を読んだ時、優しくていい詞だけれど、僕は歌えないと言ったのだ。
祥吾は、大事な人の記憶が残っていても、鼓動を感じることのできない無の空間に、他の誰かを招き入れたくなかったのだ。
彼がどれほど奏を大事に思ってくれていても、奏がどれほど祥吾を想っても、お互いの心の中には触れられない場所がある。
でも、それが故に、愛しい。

だから無のままでいい。
そして私は、暗闇と後悔と無を抱えた人の気持ちを代弁する必要はない。これまでずっとそうしてきたように、ただその人を抱えた暗闇ごと抱き締めていればいい。
君を愛しているよ、と。
奏はノートの新しいページにタイトルを記した。

「ひとり」
全てはここから始まる。


(『センス~闇の声~』 了)


何だか難しいお話になってしまってすみません。
けいさん、あまりご満足いただけるようなものが書けなかった気がしておりまする。ごめんなさい(;_:)

「共感」ってなんだろうと思ったのです。
確かに、「共感」は善・美の方に分類される言葉かもしれないけれど、どこか欺瞞だという気もする。
苦しんでいる人の苦しみを分かってあげる、想像して一緒に苦しんであげる、それが大事だと思っていたこともあります。でも、最近思うのです。絶対にその人にはなれないし、その同じ状況に自分がなってあげることもできない。
ならば、自分はしっかり立っていよう。
一緒に苦しんじゃいけない。
それは「共感」ではないんじゃないか。
この由貴(よしたか)には私の知っている大事な幾人かの人たちのエッセンスが入り込んでいます。

闇の中で感じる「シンパシー」
それはどこから現れて、どこへ向かっていくのでしょう。
言葉を紡ぐ人間として、奏ちゃんに「共感」しながら書いておりました。

さて、スクランプシャスとBOFの「共演」のお話は、まだまだ続くようです。
あ、実は名前を変えたのです。いくらなんでも「陥没骨折」はまずいだろうと。
でも、BOFって実在したのですよ。私の大学の軽音部のバンドで、結構ファンだったのです。
解散した時にちょっと残念だったので、そのまま名前を頂いていたのですけれど、いや、いくらなんでもね。

これを書くのに、古い鉛筆書きのノートを出してきました。
この『終わらない歌シリーズ』、ノートに200ページの大力作。
さて、少しずつ電子文字にしていくべきかどうか。ただいま考え中。
終わらない歌1
終わらない歌2
終わらない歌3
ちなみに、この相川真、初代に比べてかなりぶっ飛んでいます。
オンナ関係も無茶苦茶だし(本命の彼女は実は又従妹。結婚して3人子どもができる。そのうちの次女が、この大河ドラマの最終段階の主人公。ようやくヴォルテラ家との間に婚姻関係が成立します。あ、相手は家を出たから、ヴォルテラの名前は捨てたことになるのかな)、大きな声では言いにくいけれど男関係もあるし(衝動なんですよ、結局)、暴走族(やさぐれ集団?)のリーダーとも付き合いがあって(こちらは純粋に友情です)、その女ともできてたし(それはどうよ)、一方で結構繊細で、落ち込むと手が付けられなくて、壊れているくせに甘えん坊。この後から湧いて出た義弟には、どっちが兄やねん、という態度。
初代真はどちらかというと気持ちを押し込めるタイプ。でもこちらは放出型。初代真が感情をぶちまけたらこうなるのか、という楽しみ方もできます^^;
なんて、宣伝してどうするよ。他の話を終わらせてから、また考えようっと。

お付き合いいただき、ありがとうございました(*^_^*)
関連記事
スポンサーサイト

Category: (0)センス~闇の声~

tb 0 : cm 8   

コメント


大海さん^^ とっても素敵なお話でした!
リクエストにお答えくださって、ありがとうございます。
前後編でたっぷりと、堪能です。

終わらない歌、の意味がここに少しあるのですかね。
ボーカリストから歌を取ってしまったら、何が残るというのでしょう。
終わらないし、終わることもできない・・・
まさに、The Show というか、全てに Must Go On ですね。

> 「僕、思うんです。その人といっしょに苦しんじゃいけないって。僕は義兄の苦しみの煽りを食らって一緒に倒れるわけにはいかない。強く健全であろうと思うんです。そうあってはじめてその人を包み込める」

祥吾と瞬のとき、成ちゃんに託したのはまさにこれでした。
由貴くん、深いですね。おいくつですか? 成ちゃんでさえ、高三でしたが。
やはり自分自身の死を見かけた人の強さったらないです。
こんな弟がいたら、兄弟逆転しそう?

それから、ベーシスト隆二さんが良い位置に立っている。
火と油は時に共存して驚きを放つときがあるのですよね。
周りから見ると、驚きというか、意外というか、なのも知れませんが、本人としては当たり前にやっている行動のようにも思えますが、どうなんですかね。
でも、隆二さんの音はとても自然で、さりげなくて、寄り添っている、という印象が残っています。

奏ちゃんが大変お世話になりました。
本編では高校生だったし、あまり出番は作れなかったのですが、ここでたっぷりと。
田島の良きパートナーとして成長したのですね。嬉し^^ 
愛してる、に、ぽ(*u_u)  ありがとうございます。

スクランプシャスとはすでに共演を果たしているのですね。
まだ共演のお話が続くのなら超嬉しいです^^
ブレイクスルーさんですか。ワンワードというか、ワンフレーズというか。
破ってくるところ、見てみたいですよ^^

バンドとしては活動休止中でも、真は歌い続けなければ。
周りが支えてくれているし、奏ちゃんも詞を書く気になったみたいだし。
田島じーさん(←これも超嬉し)もきっとどこかでサポートしてくれるでしょう。

「ふたり」、これは確かに歌えないかも。
けど、「ひとり」、うん。始まる予感。
あとは、奏ちゃんと、大海さんにおまかせだ~^^

8888HITおめでとうございました。
10000HITも軽く超え、2万3万の末広がりをお祈りしています。
センスのリクエスト、ありがとうございました^^

けい #- | URL | 2014/08/03 20:42 [edit]


けいさん、ありがとうございます(*^_^*)

あぁ、何だかホッとしました。
というよりも、結構難産だったのです~
自分の中では出来上がっている物語があって、その一部を出すのって本当に難しい。ついつい説明不足のまま自分勝手に話を進めそうになったりして。しかもけいさんからお借りした大事な奏ちゃんのイメージを損なわないか、もうあれこれドキドキで公開しました。
けいさんの中では、「いやこれは違うよ~」ってことがいっぱいあったんじゃないかと心配です。

> 終わらない歌、の意味がここに少しあるのですかね。
はい、少しだけ主張してみました(^^)
実は音楽ものとしては私の中では「続き」なんです。
この題名『Gravita Terrestra~終わらない歌~』ってのがフルタイトルなのですが、『地球の重力』というのは、音楽ってそんな風に心にずしんと響くものだという感じで、実はこの言葉は、二代目真の祖父(一代目真の息子)慎一の世代のテーマだったのです。
彼は苦しみぬいて音楽をやって、やがて昇華して、晩年は教育にかけた人なのですが、その彼が音楽院の学生だったころ恩師に言われた言葉が、物語を繋いでいます。
「音楽をやるものが苦しむのは当たり前だ。だが、どんな音を奏でようとも、人々を絶望させてはならない」って。音楽は常に慰めであり、希望であってほしい。だから音楽には「黄金の翼」があるんだと。
クラシックとロック、まるで違うことをしていますが、この孫息子、ものすごいおじいちゃん子で、好きすぎて舞台の上でオペラだって歌っちゃう、変な奴。ピアノも弾くけど、クラシックばかり。
なのに、シャウとするのはやっぱりロック。
またおじいちゃんの方も孫息子には超甘い。
まさに相川慎一という人物が、この大河ドラマの要・キーパーソンなのです。

> 全てに Must Go On ですね。
はい。続くからこそ、そこにはまた別の景色が見えてくるんですよね!
山は登ったものにしか見えない景色を見せてくれますから。
(だから私は、できる限り巨石に登る!?)

> 「僕、思うんです。その人といっしょに苦しんじゃいけないって。僕は義兄の苦しみの煽りを食らって一緒に倒れるわけにはいかない。強く健全であろうと思うんです。そうあってはじめてその人を包み込める」
> 祥吾と瞬のとき、成ちゃんに託したのはまさにこれでした。
> 由貴くん、深いですね。おいくつですか? 成ちゃんでさえ、高三でしたが。
うんうん。これはですね、実は私が『夢叶』の中で一番重大で大きなエピソードだと思っていた瞬くんの死に対して感じていることを改めて言葉にしてみました。けいさんはこういうことを書いていたんだよな~という確認というのか。
で、それはまさに、この弟くんがアニキに対して思っていることだったので、同じ気持ちだよって。
きっと祥吾さんや真はもうどうしようもないんですよね。それを周りがどう見守るかってことで。
よしたかくん、この時多分19です。生死の境、彷徨って、三途の川まで何回も行っているので、ちょっと達観しているように見えるんですけれど、本当は本人はすごく不安だと思うのです。でもこのアニキを持ってから、俺、しっかりしなくちゃって思ったのかも。

はい。もちろん、兄弟逆転してますね。二代目真、凄く幼いです。お前、いつまで中学生!?って感じ^^;
遠山さん(ギタリスト)がずっと面倒を見てくれてて、で、今はリュージくん。あまりにも手がかかるので、放っておけない……あ、そこは初代真と同じかもしれません。
初代真の場合は、放っておいたら一人でずっといるような人なので、放っておけないと周りが思ってしまう、イケナイホルモンを出しているようですが、二代目真、かまってかまってオーラを出しまくっています。
このメンバー5人、決して仲良し子よしじゃないんだけれど、認め合ってるんですよね。

> それから、ベーシスト隆二さんが良い位置に立っている。
> 火と油は時に共存して驚きを放つときがあるのですよね。
> 周りから見ると、驚きというか、意外というか、なのも知れませんが、本人としては当たり前にやっている行動のようにも思えますが、どうなんですかね。
けいさん、うまく言ってくださいますね!
そうなんですね。まさに水と油かも。というのか、ある意味、リュージは厳しいんですよね。
実はこの時、遠山さんが真の面倒を見なかったのは、リュージに押し付けたからなんです。自分だと甘やかす一方なので、リュージに任せた!って初めて真に背を向けた(可愛い子には旅をさせろ)。
リュージは最初、何でおれが、と思ったと思うのですが、いつの間にやら……
この人、ほんと、アブナイ奴なんですよ。ナイフみたいな男。
いつかこの5人を紹介したいなぁ。個性派ぞろいです。

> 奏ちゃんが大変お世話になりました。
> 本編では高校生だったし、あまり出番は作れなかったのですが、ここでたっぷりと。
> 田島の良きパートナーとして成長したのですね。嬉し^^ 
> 愛してる、に、ぽ(*u_u)  ありがとうございます。
いえいえ、こちらこそ大事なお嬢様をお借りして、本当に恐縮です。
でもね、きっと本当はもっと素敵な詩を作る子だと思うのですけれど、私の才能が追いつかず、本当に歌えない詩を書いちゃいました。難産の一番の理由はここだったのです。センスの世界を言葉にしてみたら、しょうもない詩になってしまった(-"-)
これが何とも、けいさんに申し訳ないのです。

でも、奏ちゃん、直接は瞬くんのこと、知らないわけじゃないですか。だから、成ちゃんみたいにはなれなくて、きっとその辺りでは祥吾さんと少し通じ合える部分がなかったと思うのですよ。でも、今までは触れずにこれたのですね。
それがこの詩、奏ちゃんが何だか「その人の気持ちになって成り代わって書いてあげよう」って思い過ぎたことで、祥吾さんが「それは違うんだよ」って思って、ちょっと不安になっていたってエピソードにしたかったのですね。
あぁ、筆力が足りない(@_@)
でも、たちがるときは「ふたり」じゃないんです。「ひとり」なんです。
うん、ほんと、この詩は書きなおしてほしいわ~、けいさんに、とか思いつつ。

> スクランプシャスとはすでに共演を果たしているのですね。
> まだ共演のお話が続くのなら超嬉しいです^^
> ブレイクスルーさんですか。ワンワードというか、ワンフレーズというか。
> 破ってくるところ、見てみたいですよ^^
これはですね~、実はいま、新聞の週末版にブレイクスルーという特集をやっていて(いろんな分野の頑張ってる人を取り上げる)。以前から私が気にしていたエシカルジュエリーの話が載っていたのです。で、それがトイレの中に放置してあって(トイレにプチ本棚がある^^;)、ある時、バンド名で悩んでいる時これを見て、そうだ、これにしよう!と。
何とも臭い話ですみません^^;
元BOFだから、なんだかBで始まるのもいい感じだし。
でも何だかありそうな名前なので、思わずググっちゃいました。
そうしたらダンスユニットで似たような名前(間に☆が入っていたけれど)があったのですけれど、少なくともまんまの名前でロックバンドはなさそうだったので、使わせていただきました(^^)

> バンドとしては活動休止中でも、真は歌い続けなければ。
> 周りが支えてくれているし、奏ちゃんも詞を書く気になったみたいだし。
> 田島じーさん(←これも超嬉し)もきっとどこかでサポートしてくれるでしょう。
そうですね。若者に憧れられ、若者をサポートする還暦バンド。しかも、逆に若者から刺激を受けてまだまだやるぞって思える奏ちゃんも祥吾さんもきっといつまでも若々しい気持ちの保てている人たちなんだと思うのです。だって、若者を見下してる人たちだったら、還暦までやってこれていないと思うのですよね。

> 8888HITおめでとうございました。
> 10000HITも軽く超え、2万3万の末広がりをお祈りしています。
> センスのリクエスト、ありがとうございました^^
こちらこそ、ありがとうございました!
いや~、こんなに続くとは思っていなかった^^;
でも20000は遠い目標だな~。継続は力なり、ですね。
色々といっぱい、ありがとうございます!
それから、メールまで頂き、ありがとうございました!!!!!!
もう一度、奏ちゃんにもお礼、です。

彩洋→けいさん #nLQskDKw | URL | 2014/08/04 00:39 [edit]


そうか、2代目の相川真君の設定、物語はこんな風に、もうしっかりとできあがっているんですね。
初代真も相当苦しい人生でしたが、この真君も精神的にものすごく苦しんでいるようですね。
その繊細で敏感な精神と才能のせいもあるのかな。やはり血かな。
その苦悩を聞くにつれ、彼の歌を聴くときはその重みも感じ取らねばならないのだろうかと、ちょっと身構えたんですが、けいさんと同じ部分、「僕、思うんです。その人といっしょに苦しんじゃいけないって。僕は義兄の苦しみの煽りを食らって一緒に倒れるわけにはいかない。強く健全であろうと思うんです。そうあってはじめてその人を包み込める」という言葉で、救われました。

そして最後の奏の「そして私は、暗闇と後悔と無を抱えた人の気持ちを代弁する必要はない。これまでずっとそうしてきたように、ただその人を抱えた暗闇ごと抱き締めていればいい。」という感情で、納得しました。

田島君の歌がみんなを幸せな気持ちにして包み込むのは、きっとそういうことを全部分かってるからなんでしょうね。

この真を取り巻く世界観と人間関係が、まだ私にはよく分かっていないけれど、きっとこの真の歌は聴く人を独特の世界に引き込むんだろうな~。
ただそれが悲しみを伝える物のみであって欲しくないなあと、ちょっと願いました。
どんな哀しい歌でも、そこから希望が見えて欲しいから。
真はこの後、どんな人生を歩むのかなあ。
どちらにしても、周りには理解ある人たちがついていてくれそうなので、大丈夫ですよね。
と、きっと本題と違うところが気になってしまいました。

奏ちゃんの歌、優しくていいですね。
どこかこの中に、田島君への優しい愛情が満ちているようにも思えて、ほっこりです。

lime #GCA3nAmE | URL | 2014/08/04 21:27 [edit]


limeさん、ありがとうございます(^^)

> そうか、2代目の相川真君の設定、物語はこんな風に、もうしっかりとできあがっているんですね。
はい(^^) すでに200ページも書いてありますから、結構出来上がっている感じです。
何でだろ。あの頃、初代真を書きたくても何故か書けてなくて、お父ちゃん(武史)の青春物語(それはまるで「こころ」の世界……)と、2代目真の青春物語と、そして悩めるオッチャン・ジョルジョの話ばかり書いていました。核心に触れるのが怖かったのかしら?

> 初代真も相当苦しい人生でしたが、この真君も精神的にものすごく苦しんでいるようですね。
> その繊細で敏感な精神と才能のせいもあるのかな。やはり血かな。
いやいや~。もう全くお気になさらず、って感じのハチャメチャ男です。
うん。繊細なんでしょうね。だからハチャメチャなんだと思いますが、初代真とは表現型が全く違っています。
どっちかというと、マコトに近いな。(って、それはどうよ?)
この子、父親を知らないんですよね。祖父(慎一)と母親はもちろん、知っているのですけれど、あれこれあって言えない。それもちょっとアイデンティティの確立に失敗した所以なのかも。
でも、ほんとに、初代真の話からしたら、かなり軽~いお話なので、多分読みやすいかもしれません。
でもね、こいつ、結構可愛い奴かもしれません。
自分の中の一番は、この空中分解未満のバンドがロンドンのライブハウスで歌ってた頃のエピソード。この5人のメンバー、それぞれ違っていて、書くのが面白かったのを思い出します。
でも、私が電子文字化するのが面倒くさくって^^;
そのうち、また気が向いたら……^^;

このストーリーは小説としては(掌編としては)だめだめなんです。
なんだかけいさんに申し訳ない出来栄えなので、後篇を書いてからずいぶんアップするまで考え込んじゃって、時間がかかりました。
でも、なんかもうこれ以上考えられなくて。というのか、セリフにひとつひとつにはものすごく力が入っていて、もうこういう形以外でこんなクサい言葉を書けないよね、と。
こういう力の入った台詞を物語の中でさりげなく書くのは難しいなぁと思っていたのでした。
だからこれは「物語」というよりも、奏ちゃんを借りて、物書き人間の呟き、って感じになったかもしれません。
そして、ついでに二代目真を紹介してしまおうという……

> 田島君の歌がみんなを幸せな気持ちにして包み込むのは、きっとそういうことを全部分かってるからなんでしょうね。
うん。奏ちゃんはまだ本当の喪失を知らないから、だからちょっと「理想」を書いてしまったのかもしれません。そして田島くんは優しいからね、奏ちゃんに「違うよ」って言えなかったのかも。
でも、そうやって、このアラカンになっても刺激し合ったり励まし合ったり、若者みたいに悩んだりするから、スクランプシャスの音楽はすごいのだ!ってね。
> 奏ちゃんの歌、優しくていいですね。
> どこかこの中に、田島君への優しい愛情が満ちているようにも思えて、ほっこりです。
ありがとうございます(^^)って、私が作者じゃないのに^^;
でもでも、この二人、アラカンの頃にはこうなっていてほしいって、思いますよね~~~、ね、ね。

> この真を取り巻く世界観と人間関係が、まだ私にはよく分かっていないけれど、きっとこの真の歌は聴く人を独特の世界に引き込むんだろうな~。
> ただそれが悲しみを伝える物のみであって欲しくないなあと、ちょっと願いました。
これは、私がいつも慎一に思っていることだわ~
多分この祖父と孫、音楽に対しては似たもの同士かもしれません(^^)
でも大丈夫(^^) 2代目真、初代よりも10倍ほどもしたたかです!

> 真はこの後、どんな人生を歩むのかなあ。
> どちらにしても、周りには理解ある人たちがついていてくれそうなので、大丈夫ですよね。
はい。きっと大丈夫です。
なにせ、次女の詩織ちゃんがヴォルテラの息子と結婚するとなった時、大暴れする頑固おやじになりますから!
「ぜったいゆるさ~ん!!!」(お前はどうなんだ、と周りに言われますが)

あれこれいっぱい、コメントありがとうございました!

彩洋→limeさん #nLQskDKw | URL | 2014/08/05 22:13 [edit]


拍手コメSさん、ありがとうございます(^^)

鍵コメじゃなかったので、ここにお返事させてもらいますね(^^)
読みにくい物語を読んでくださって、本当にありがとうございます。
あれこれ欲張っちゃって、本当にわがまま勝手なお話になっていたと思います。読み手さんに優しくないというのか、分かっている自分だけで暴走しているとことがあったりして。

でも、言葉・台詞のひとつひとつは心から思っている言葉で、こんな物語の中でしか、恥ずかしくて書けなかったり言えなかったりするんですよね。書きようによっては誤解されそうなこともあるので、こうして登場人物の台詞にしちゃったら、私自身はちょっと逃げていられるというのか。ちょっと卑怯なのですけれど。
Sさんはお若いけれど、言葉では表せないような色んな経験をなさっているんですよね。その深さが物語や評論(?)に溢れているように思います(いや、あのO氏論はほんと読みごたえがありました!) 優しい物語などを拝読すると、本当にそう思います。

そう、私は、命についてはやっぱり考えてしまいます。身近でその行き来を見つめていると、あまり格好いいことは言えない。誰かが大切な誰かを失うっていうことは、心の中のその部分が「無」になることで、その部分が大きかったら、埋め合わせのできない空洞がずっと心の中にあるってことなんだ、と思いました。他の部分は後からどんどん膨らんでいっても、そこだけ空いている。だから、立ち直るとか気持ちを切り替えるとか、本当は出来ないんですよね。
「いくら言の葉にのせても、詩にしても、音に乗せても、色にのせても、命は描けません。」本当にその通りですね。
だから、それを見守る人、何とかして想いを伝えようという人は、その空洞ごと愛してあげればいいんだ!書いていけばいいんだ!と最近は思っています。というのか、その位大きな人間になりたいなぁと。(難しいですね)

そんな時に、久しぶりにQUEENのThe show must go onを聴いて、歌詞を噛みしめちゃいました。命は定められたその時まで、ただ生きているんだという不思議に心を打たれる気がします。
『海に落ちる雨』のエピソードの中に、大間のマグロ漁師のおじいちゃんが出てくるのですが(大海版『老人と海』?)、長年連れ添った妻もなくしてただ一人で生きている、大した楽しみがあるわけでもなく、捕れようが捕れまいが毎日船に乗っている、そういう淡々とした人生・命に対して、主人公の片割れが「愛しい」と言っているのですけれど、書いたときは何を書いたのかよく分かっていなかったけれど、今になって、自分の書いたシーンに「うん、そういうことだよな」って思ったりしています。(あ、宣伝と自己満足ですね。すみません^^;)

「生命の意味」を考えると煮詰まっちゃうけれど、「生命の必然」と思うと納得する。だから、自分の人生には意味がない、と思うのは傲慢な気がする。終わるのは必然だから、淡々と生きていけばいいと、そう思ったりするのです。難しいけれど。

本当に、お話としては半人前ですけれど、言葉には心を込めてみました。
読みにくいのに、読んでいただいて、そして暖かいコメントを、本当にありがとうございましたm(__)m
また私もお伺いしますね! 他の4人のも読まなくちゃ! そして優しいお話も。

彩洋→拍手コメSさん #nLQskDKw | URL | 2014/08/05 23:00 [edit]


堪能しました

いやあ、リクエスト掌編とは思えない、本氣な作り込み、さすが彩洋さんです。
奥が深いです。

あ。「センス」を読んでいないのがいけないんですが。
「あのイタリア人?」「いや、あのイタリア人はさすがにお墓の中だろうし」とかあちこちにひっかかっていました。

やっぱり同じ名前を持っているだけあって、こちらの真も悩み深い性なのですね。それにバンドメンバーもかなりヤバそうです。呼んじゃうのかしら。

健康なのが破滅的で、いつ死ぬかもわからない人がその面倒を看ている(っていい方も変ですが)って、「ああ、ある」って思います。こういうのって「いま持っている健康に感謝して氣楽に生きろ」なんて言ってもダメなんですよね。やっぱり性なのかな。

対比として奏の健全でまっすぐな魂が印象的でした。見つめて、寄り添うのはやはりそうでないとダメなんですよね。

「Show must go on」テーマ曲にして小説書いたのを思い出しました。「明日の故郷」っていうんですが、「ガリア戦記」を下敷きにした歴史ものだったりします。いつか「Who want to live forever」で何か書きたいなあ。偉大なお方でした。

考えさせられる作品、ありがとうございました。

八少女 夕 #9yMhI49k | URL | 2014/08/06 04:15 [edit]


夕さん、ありがとうございます(^^)

リクエストにふさわしい掌編を書こうと思ったのに、自分の中の世界が勝手に広がりすぎてしまって(元ネタがあるから、なんですが)、かえってわかりにくい話になってしまったことをちょっと後悔しているのですけれど、こういう形でなら、私が普段感じていることを何とか言葉にできるなぁと思って、悩んだ結果アップしました。
いえ、後悔というのは、自分だけが読むならOKなのだけれど、独りよがりになっていないかなぁという心配だったのです。
でも、みなさんが優しいコメントをくださったのでほっとしました。

奏ちゃんや由貴くんの言葉にはかなり力が入っていて、その入りすぎた力を感じさせないお話を書きたかったのですが、やっぱり力は入り過ぎました。
力加減って、ほんと、難しい。
きっと音楽もそうですよね。俺は辛いんだ~なんて音楽、傍からは聞いていられませんものね。だから、ほんのり匂うのがいいと思うのだけれど。
まだまだ修行半ばで、けいさんにはちょっと申し訳なかったのだけれど、奏ちゃんと田島君がアラカンでこうなっていてほしい!という読者の野望(勝手に抱く野望)を思い切り表出したので、そこは満足(*^_^*)
奏ちゃんは絶対可愛いおばあちゃんになる!という気合で書いてみました。そう、健全な魂があるから、いろんな人に愛される歌が書けるんですよね。そして、健全だからこそ、どんな年になっても悩んで、そして若者の言葉にも共感する。そんなふうに表現してみたかったのです。

「センス」はただの寓話ですので(http://oomisayo.blog.fc2.com/blog-entry-333.html)、このお話(真シリーズや終わらない歌シリーズ)とは直接関係はないのですが、繋がりは「暗がり」ってことだけ?
「あのイタリア人」は竹流の孫のジョルジョなんです。
またそのあたりはいつか来る本編で。

あ、夕さんは曲に載せたお話を書いておられますものね。どこかにあったか! あ~、見落としているのか、忘れているのか……また探して拝読いたします。
この曲、というよりもQUEENの曲、オペラや舞台の脚本が書けますよね。ほんと、すごい人たち、すごい人でした。

いつもありがとうございます!

彩洋→夕さん #nLQskDKw | URL | 2014/08/06 09:05 [edit]


鍵拍手コメK様、ありがとうございます(^^)

こちら、読んでくださったのですね! 有難うございます!!
そうなんです。難しいですよね。実は書き始める前は普通に暗闇カフェという謎のワールドに惹かれて(新聞で見たのです)、こんな場所を舞台に書いてみたいと思ったのでした。イメージを膨らましていると、暗闇の中で音楽があるという姿が浮かんできて、しかもその曲にふっと湧いたのがクィーンのこの曲でした。
でも書き始めてみたら、どんどん深みにはまっていって、分かりにくい物語になってしまいました(@_@)
難解なまま終わらせてしまったのがちょっと心残りですけれど、真面目に向かい合ったので、これで許していただこうと、読んでくださる方に甘えております。そして、生死にかかわる問題はとても大きいのですけれど、やはりきちんと向かい合いたいテーマだと思っています。
大事なものを失ったら、その部分は絶対に埋められない。穴が開いたまま生きていくしかないんですけれど、そのままの形で包み込んでくれる人がいれば、穴を抱えたままでも生きていけるんじゃないかと思っています。穴埋め、って簡単にできませんよね。

共鳴するものがあると言って下さって、ほんと、嬉しいです。
奏ちゃんには、物を書く人間の一生懸命さと迷いとを引き受けてもらいました。はい、「ひとり」から始まる何か。読んでくださる皆さんの頭の中でイメージが膨らんだら嬉しいです。
そしてKさんもQUEENファンでいらしたのですね! ほんと、いつ聞いても色褪せない、いえ、改めて聴くと、音楽へのチャレンジの幅に今でも感動します。
コメント、本当にありがとうございました!!

彩洋→鍵拍手コメK様 #nLQskDKw | URL | 2014/09/09 21:25 [edit]

コメントの投稿

Secret

トラックバック

トラックバックURL
→http://oomisayo.blog.fc2.com/tb.php/489-d6f47c02
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)