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コーヒーにスプーン一杯のミステリーを

オリジナル小説ブログです。目指しているのは死体の転がっていないミステリー(たまに転がりますが)。掌編から長編まで、人の心を見つめながら物語を紡いでいます。カテゴリから入ると、小説を始めから読むことができます。巨石紀行や物語談義などの雑記もお楽しみください(^^)

 

[雨140] 第29章 赤い糸(1)絡み合う糸 

【海に落ちる雨】第4節・第29章『赤い糸』 その(1)です。
この章のメインは柏木美和。北条仁との恋物語も、静かに進んでいます。
そしてまた、真が京都で動けないでいる間に、周辺では静かに物事が動いているのです。
でも、ここはやはり、真と竹流とは一味違う、美和と仁の恋物語もお楽しみください。
ちょっと「漫画みたいな」お話ですけれど、それでも赤い糸は誰かと繋がっているんでしょうね。
あ、ハリポタトリオの富山享志、登場です(*^_^*)

【海に落ちる雨】再開に向けてのキーポイント
【海に落ちる雨】登場人物



 真は時々京都から東京の事務所に電話をかけてきたが、大和竹流の様子についてはほとんど話さなかった。電話の真の声は、薄い膜を通したように抑揚が乏しく、本当に話したいことを避けているような響きがあった。
 その声を聞きながら、美和の頭の中には、機械と管につながれて人形のように横たわる竹流の姿が浮かび上がり、網膜の一部に重なり合って張り付いたようになっていった。それは他の何を網膜に写しているときにも消えることはなく、視野に重なるように残ってしまっていた。

 あの男だけは、決してあんな姿にならないものだと思っていた。美和だけではない、誰もがそう思っていただろう。それなのにあんなにまで痛めつけられて、紙のように白い顔で、意志をもって動くことのできない人形のようにベッドの上に縛り付けられていた。
 真は言葉では何も語らないのに、電話線の向こうから伝わってくる何かは、美和の胃の辺りで重くなっていた。

 その日も、北条の若い衆が二人、相川調査事務所のソファに陣取っていた。事務所の上をねぐらにしている宝田三郎はともかく、高遠賢二までこのところ事務所に入り浸っている。
 誰もが何かを待っていた。
 賢二は真が京都にいるうちは落ち着かないようだし、真が助けを求めてきたら、直ぐにでも動けるようにしておきたいと思っているのだろう。

 その上、仁に言われた言葉は、時々美和の内側でくるくると回っていた。
 お前が本気なら、今なら目を瞑る。
 その言葉が湧き上がってくると、美和は急いで頭を空っぽにした。何も考えたくなかった。

 初めから北条仁がヤクザと知っていたわけではない。だが、ヤクザのような種類の人間であることは、一目見た時からわかっていたはずだった。大柄で豪快な気配を持ち、周りを威圧しながらも、どこかに人懐こい部分を持っている。だが、その目にはぎりぎりの部分を知っている人間だけが持つ、尖った何かがあからさまに見て取れた。

 それなのに、頭の上から降ってくる言葉にむっとして、つい絡み返した。仁は畳み掛けるように威圧的な気配で迫ってきた。
 美和が友人の言葉に載せられて一方的に誤解をしていたわけだが、分かっていたのに酒の勢いもあって引っ込みが付かず、仁の試すような言葉につい、手を上げてしまった。
 美和、やばいよ、という友人の声にさすがに血の気が引いたとき、北条仁は大通りで、もうたまらん、と言うような顔をして笑い出した。

 二度目に会ったのは大学の前だった。大学の門の前に大きな黒いベンツが横付けされて、美和が門を出た瞬間にドアが開いた。待ち伏せを食らったわけだった。
 何のつもりかと聞くと、一目惚れだ、と言われた。
 周囲の視線のほうが耐え切れず、美和は意を決して車に乗った。仁は誰も連れて来ておらず、一人だったからだ。

 その時の仁の振る舞いは、あくまでも紳士的だった。見ようによっては、少しやばい成り上がりの金持ちに見えなくもなかった。
 見ての通りヤクザだ。
 北条仁はあっさりと仁道組の組長、北条東吾の息子だと名乗った。美和はこの男がヤクザだという事実よりも、隠し立てもせずに名乗ったことに対して驚いた。

 横浜に行き、ホテルの最上階のレストランで食事をした。振る舞いを見る限りでは、ホテルの従業員もこの男をヤクザとは思わなかったようだった。
 三回だけデートしてくれと言われた。それで気に入らなければそう言ってくれ、と。二度目は富士山の近くまでドライブした。

 仁は美和を退屈させることがなかった。話は面白く、美和の将来の夢を聞いて、それについても随分多くの知識を持っていた。それはただ文字の上の知識ではなく、具体的で人間の生活に関わる重い知識で、美和の描く夢の世界に対して、ただ肯定と励ましの言葉をくれた。
 三度目は後楽園球場に野球を見に行った。美和自身は野球に興味があったわけでもなかったのに、試合も仁が傍にいることも、やたらと楽しかった。巨人ファンでもなかったのに、いつの間にか必死で応援していた。

 三度のデートの間、仁は手を握ったり、キスをしてきたことは一度もなかった。
 野球が終わって、街をただ歩いた。ずっと話していたのは、話が途切れることが怖かったからだった。
 心のどこかに、からかわれているのだろうという気持ちもあった。仁は美和よりも十六も年上で、柏木美和という人間に纏わる全てのことに、性的な目的でもなければ興味を抱いているとは思えなかったのだ。

 気がつくと、明け方だった。東京湾の近くに行って、結局一緒に朝日を見た。海の向こうがきらきらと光っているのを見つめていると、もう一度だけデートしようと言われた。
 もう一度だけのデートは、それから十回ほど続いた。そしてある時、どちらが言い出したのか、泊りがけで伊豆まで出掛けることになった。
 仁は、公共の場所で風呂に入ることはできないのだと言った。そう言われて、本当に久しぶりに彼がやくざであることを思い出したほどだった。平日で客が少なく静かな旅館だった。

 その日、家族風呂を借りに行ったのは美和だった。薄暗い風呂の中で、美和は初めて仁の背中を流した。
 その背中に深く刻まれた龍の姿を見た時も、怖いという気持ちは不思議と湧いてこなかった。ただこの男を無性に愛おしいと思った。
 風呂から上がって、口もきかないまま部屋に戻り、いつもは旺盛な食欲も活躍の隙を見出すことができないまま、黙って少しだけ酒を飲み、そして何も話さず、並べられた布団の上に寝転んで一緒にテレビを見た。
 身体が少し触れたとき、たまらないような気持ちになって、そのままキスをして、そのまま抱き合った。

 初めてじゃないよ、と美和は大見得をきった。でも慣れているようには見えない、と言われた。仁は美和を大事に扱ってくれた。丁寧に、怖がらせないように、子どもを宥めるようなセックスだった。
 二人で会うために仁はマンションを用意してくれた。そしてそのまま、何となく離れがたくなった。

 その仁から、今なら目を瞑る、と言われた。
 仁は他に寝る女も、時には男もいるのだということを隠し立てしなかった。最後の最後の予防線だということを、美和も何となく察していた。お前しかいない、などという状況は、女を追い込むことになるし、仁がそれを望んでいないことを美和もよく分かっていた。
 お前も他の男と寝てもいいぞ、いや寝たほうがいいぞ、と仁が言った。平気なの、と聞くと、俺が他の女と寝てるからな、文句は言えないし、それに一人の男しか知らないというのも片手落ちだ、自由恋愛というのも悪くない、という答えが返ってきた。
 それが北条仁の本心からの言葉かどうか、今でも美和は分からない。

 それでも、一度もそんな気にはならなかった。何度か遊ぼうとしてみたが、どうしても相手の男に強い魅力を感じなかった。
 そもそも北条仁ほどの強烈な男に先に出会ってしまったわけで、それ以上に強い魅力を感じる男は現れないのだろうと思っていた。ヤクザと結婚することができないとして、いつか仁と別れる日が来て、もしも誰かと結婚しても、美和はきっとその相手を満足して愛することがないのではないかと考えていた。

 その時点では既に真は、仁以外でもっとも身近にいる男だったが、初めは男として意識していたわけではなかった。
 時に怖いくらいに他人を惹きつけるオーラを纏っているかと思えば、ある時は全く普通だったりした。真と同居人の関係については、想像の中では十分楽しめる材料だったが、あくまでも他人事で、一歩離れたところから見た楽しみだった。時々、真が強烈に他人を惹きつける何かは、大和竹流と一緒にいる時に最も強く匂っているような気がした。そういった意味でも、美和にとっての真は、身近にいながらも、興味深い鑑賞対象という種類のもので、具体的な恋愛対象にはならなかった。

 だが、ある人間の別の一面を見つけると、急にその存在の意味合いまで変わってしまうことがある。
 いつだったか、誰かが、真が銀座のホステスと付き合っているのだという話をした。そうか、この男も女を抱くのだ、という事実に急に思い至った。考えてみれば、調査事務所を始める前、入院するほど身体を悪くしていたというのも、女性との恋愛絡みだったというし、付き合っている女がいるのは、男としては当たり前のことだと気が付いて、美和は自分自身の先入観におかしくなった。

 同性の同居人がいるということから、真に何か別の印象を勝手に植え付けていたのかもしれない。
 そう思ってしまうと、大柄ではないが意外に筋肉がついた腕や、骨組みのしっかりした指にどきどきするようになった。それに何よりもアンバランスな瞳の色が、何かの拍子に強烈に絡みつくように感じた。
 それまでは美和にとっての相川真は、仕事に行くことを楽しくさせてくれる観賞に値する上司にすぎなかった。だが、この男が女を抱く時にどんな表情をするのだろうと思うと、そのシーンを想像してしまい、やがてその相手が美和自身である状況を考えるようになった。

 ある時、いつも強くなりたいと願っている宝田が、「先生の練習を見に行く」というので、何のことかわからずついていった。
 そこは灯妙寺という寺の道場で、真は寺の住職と剣道の練習をしていた。
 いつもは物静かでどちらかというと動的とは見えない真が、面をつけた途端に別人のようになり、声も鋭く、かなり強そうな住職と打ち合っている姿にも、面を外したときに汗に濡れた明るい髪の色にも、道場に通う子どもたちに稽古をつけてやっている姿にも、全てに男を感じた。
 女が男に惹かれるときに必要なのは意外性なのよね、と高校の同級生が言っていたのを思い出した。

 練習の後、幼稚園生だという女の子が甘えるように真に抱っこをせがんだ。真は軽々と女の子を抱き上げ、もう片方の手でその子の弟と思われる男の子を抱き上げた。女の子は弟を蹴落とそうとしているように見え、真はそれを窘めながら、二人を母親のところへ連れて行った。美和はその女の子を見ながら、小さくても女は女だと思った。
 母親は綺麗な人だった。真に話しかけるその女性の、媚を売るような視線が気に入らなかった。

 先生、昔、結構強かったそうっすよ、と宝田が言った。
 週に三度ばかりは、朝早く起きて走っているようだというし、真に真偽を聞くと、不摂生のために身体を悪くして入院するような事態は避けたいからだと、あっさりとした答えが返ってきた。先生は牧場育ちで裸馬でも乗れるそうっすよ、といつの間にか真の情報バンクのようになってきた宝田が美和に言った。

 そして、付き合いだしてから初めて、仁が外国に数週間出かけることになり、美和はしばらく頭を冷やす時間を与えられてしまった。ヤクザと一生やっていけるわけではない、考えてみれば、仁が良識的なヤクザで良かったと言えるのだし、一般人の美和が仁と生きて行く未来を選べないと言っても、仁は納得してくれるはずだと思った。むしろ、仁の方では、その逃げ道を美和に残しておいてくれているような気配があった。

 初めての仁以外の男とのセックスは、美和が思っていたよりもずっと良かった。それは多分相手が真だったからなのだろう。真個人の中にあるアンバランスと、そして想像の中の真とその同居人の関係の双方に、美和は興奮していたと思う。
 それなのに、帰ってきた仁に会った瞬間、美和の心のうちに湧き上がってきた想いは、美和にも予想のつかないものだった。
 真と同居人の関係が思ったよりも深いことに傷ついたわけでもない。ただ、仁と向かい合ったとき、そこには他人の介在を許さない、美和と仁だけが分かる何かがあった。

 若い衆に美和を見張らせていただけで、あまり美和に話しかけてこなかった仁が、大和竹流の姿を見てからは時々美和に声を掛けてくるようになった。
 その声を聞くと、わけもなく涙が止まらなくなった。仁は、それを大和竹流の姿を見たからだと思っているようだった。
 美和は、竹流の姿に傷ついているのはむしろ仁の方だと思った。あの姿に傷ついている真を思って、仁は心を痛めている。

 それは美和も同様だった。お前も狙われているから気をつけろと言われたが、自分の身が危険で怖いという実感はなかった。竹流の姿を見て、それに対する真の姿を見て、美和はただ哀しく辛く、何とかこれをやり過ごせたらと願うばかりだった。
 北条家で寝起きしている今も、仁は美和に触れることはしない。
 美和の答えを待っているのか、もう諦めているのか、静かに時間が流れていた。

 その時、調査事務所のドアが元気よく叩かれて、そのままの勢いで開かれた。事務所に張り付いている北条の若い衆は構えて立ち上がる。
「真、いますか」
 ドアの向こうに立っていたのは、真よりは幾らか背が高く、目もとの涼やかな、惹きつけるような男前ではないが、人懐こいムードの男と、その傍らに立つまだ少女のような優しい表情の女性だった。
 男は明らかにヤクザとわかる若い衆にも驚く気配はなく、事務所を見回して、最後に美和に目を止めて、一歩事務所に入ると、挨拶をした。

「すみません、突然に。真は留守ですか」
「先生は、今京都なんですけど」
「京都?」
 素直に残念そうに男は呟いた。
「あの、調査のご依頼のお話ならお伺いしますけど」
 依頼ではないことは見るからに明らかだったが、美和は若い衆にソファを空けるように言って、二人を招き入れた。

 ソファを勧めると、男女二人は視線を合わせて、それから美和の言うままに座った。
 男の持つ、自信に満ちた、疑いを持つことがないような明るい目元は、他人に警戒心を抱かせない。身体つきはしっかりしていて、言葉も明瞭だった。行儀良く短く揃えられた髪は顔の輪郭の上に上手くおさまっていて、底から湧き出すような誠実さを印象付ける。
「富山享志といいます。彼女は妻の葉子で、つまり、真の妹です」

 美和は改めて驚いて女性を見た。
 真に妹がいて、その人が正確には従妹で、二人は本当に仲が良く、恋人同士だと言ってもいいほどだったというような話を、竹流から聞いたことがあった。どこかで聞いた噂話では、その大和竹流のほうこそ彼女を無茶苦茶に可愛がっていて、二人して彼女をお姫様扱いして騎士気分でいたらしいとも聞いている。
 しっとりとした黒髪は肩を越えて優しく真っ直ぐに伸びて、眉は幾分か濃い目だが、日本人形のように整った可愛らしい顔をしている。印象的、という顔ではないが、ほっとさせる春の陽射しを思わせた。

 この人が、先生の姫君なのか、と思い、美和は暫く口もきけないまま富山葉子を見つめいていた。
「僕たち、真に相談があって来たんです。大和さんのマンションにも連絡したんですが、誰も出なくて」
 思わず美和は目の内が熱くなるような気がした。それに気が付いたのかどうか、夫婦は顔を見合わせた。
「大家さん、いえ、大和さんも先生も京都です」
 富山享志は不思議そうな顔をした。その二人が仕事で一緒に行動するわけがないということを、彼は知っているようだった。

「大和さんが怪我をして」
 美和は何とか答えたつもりだったが、声が続かなかった。
「竹流さんが怪我?」
 その葉子の声は、明らかに大和竹流の何かを知っている、親密な関係を思わせた。優しく、それでいてしっかりと相手に届く、曖昧さの欠片もない声だった。

 この人が先生の姫君なのだ、と改めて思った。
 いつのことだったか、竹流が美和と話している真を見て、葉子ちゃんと一緒にいるときに戻ったみたいだな、と言ったことがあった。その時は漠然と、美和は自分が真の妹に似ているのかもしれないと考えていた。
 だが、この女性と美和との間に、顔も声も、少なくとも外見上の類似点は見出せない。敢えて言うなら、年相応よりも子どもっぽい顔つきをしていることくらいだ。だが、真の事を最もよく知っている竹流が、何かもっと深いところで、真と向かい合っているときの美和とこの女性の類似点を感じていたのだ。

 先生が私を抱いたのは、この人を思い出したからなんだ。
 急に美和はそのことに思い至り、勝手な確信に変わった。妹に惚れていたのに、しかも本当は従妹だから結婚もできるはずなのに、自分に自信がなくて他の男に譲ったんだよ、という竹流の言葉が思い出された。だけど、またこれがいい男なんだ、そうでなかったら俺ももっと真の尻を叩いてたんだけどな、と。

 でもそれは本当は違う。大和竹流はただ真を、それがたとえこの女性であっても、他人に譲りたくなかっただけなのだ。そして真は、自分が心の底で求めている相手が本当にこの女性であるという確信が持てなかったのだ。そしてまた、この女性は、そのことを全部分かっていたから、別の男と結婚したのだろう。

 美和が混乱したまま、次の言葉を待っている夫婦の視線を痛く感じ始めた時、事務所のドアがノックもなく開けられた。美和は思わず、ドアのところに立つ男の名前を呟いた。
「仁さん」
 仁は美和の前に座っている夫婦に目を遣り、それから美和を見て何かを察したように隣にやってきた。偶然なのかどうか、美和はただほっとして仁の横顔を見つめた。

 あなたは、と尋ねる富山享志に、仁はこの事務所のオーナーだと返事をした。
 ここに張り付いている若い衆を見ても、彼らが仁に向ける視線を見ても、これがヤクザだというのは一目で分かっただろう。それでも、富山享志は引く気配もなく、ただ丁寧に、自分は真の親友であり、自分の妻は真の妹であると説明した。
「真に用か?」
 ぞんざいな仁の口調にも、富山享志はやはり誠実な口調で答える。
「できれば大和さんにもお会いしたかったんですが、今、二人とも京都だとお聞きして」

「そうだ。あの馬鹿が怪我をして入院したんでな」
「どっちがですか?」
 享志が確認したのは、仁が『馬鹿』と言ったのが誰のことか、ということのようだった。
「大和竹流のほうだよ。真はそれにひっついてる」
 再び顔を見合わせた夫婦は、やがて申し合わせたように仁を見つめた。美和は、よく似た夫婦だと思った。富山享志は暫く、仁の顔を見つめていて、何かを窺っているようだった。それから、注意深く聞いた。
「会えるでしょうか」

 仁は少し考えていたようだった。大和竹流の状態を考えてもそれほど簡単に返事ができないだろう。
「急ぎの用か?」
「いえ、そういうわけではないんですが、来週には海外出張なので、その前に会えたら、と思っていたんです」
 何か困り事でもあるような表情だった。真の妹のほうは、むしろ落ち着いた表情で座っている。美和は改めて彼女を見つめ、それからふと視線を手元に落とした。
「明日、一度様子を見に行こうと思ってたところだ。聞いてきてやるよ」
 仁の言葉が珍しく優しく聞こえた。

(つづく)





仁は巨人ファンなんでしょうかね。まぁ、地理的にも出生的にも阪神ファンではなさそうです。ちょっと悔しいけど。
ハリポタ・享志ももうずいぶんオトナです。後半では少し活躍してもらわなければなりませんので、ご登場いただきました。
竹流の「思い出語り」の第30章の布石でもあります。真も知りませんが、竹流と享志、実は共同戦線の最前線におりましたから。でも彼らはこのことは墓場まで持っていくつもり。

<次章予告>
「こんな可愛い顔して、男を手玉に取るなんて、あんたも大した玉だね」
 若い衆の一人が女の腕を摑んだところへ、後からやってきた仁がその腕を取った。
「よさないか」
 仁が低い声で女を窘めるように言ったが、女は引く気配はなかった。
「こんな小娘にあんたを命がけで守る気なんてありゃしないよ。あたしはあんたのためだったら命も身体も張るよ」

あら、美和ちゃん、ライバルの登場でしょうか。
実はこの女性、物語の最初の方で、一度出てきているのです。えぇ、全く覚えていなくて当然です。でも今は、その件は置いといて。次回は美和の身に危険が?
お楽しみに!
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Category: ☂海に落ちる雨 第4節

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コメント


あれですよね

こんばんは。

関西に生まれなかった人が阪神ファンになるのって、ものすごく面倒くさい設定がいるように思うんです。それって、大阪生まれの大阪育ちなのに巨人ファンになる(こっちも変なドラマが必要だな)より不自然な感じがします。なんでだろ。東京にいたら、やはり「巨人ファン」ってことにしておくと、するっと読んでもらえるかな。つっかからずに素通りしてもらえるって意味ですけれど。

というどうでもいい事は置いておいて。

美和にとっては、彼女の人生だからいつどの時期に「仁か真か」で迷うのも当然ありなんですけれど、きっと今の真には「美和」という選択肢は宇宙の彼方に行っちゃっているんだろうな、と思いながら読んでいました。

お似合いなのかもという部分もあるんですけれど、こうやって仁とのなれ初めや、結びつきのことを知ると、正直言って真にもチャンスはないんだろうなと思います。魅力があるかないかだけが全てではなく、誰とどういう形でそれまでの時間を一緒に紡いだかがもっと大事なのだなと、あたり前の事を思います。

ところでハーマイオニー杉下さんは、いまどこに?

八少女 夕 #9yMhI49k | URL | 2015/08/09 02:06 [edit]


夕さん、ありがとうございます(^^)

そうそう、阪神ファンは「血」ですからね。広島生まれや名古屋生まれ、東京生まれの阪神ファンは、何か「事情」があると思ってしまいます。大阪生まれの大阪育ちの巨人ファンは、あり得るかも(実際にそこそこいる)。というのは、長嶋・王世代がいるんですよね。それはそれで、ちょっと分からないでもない気がしますし。
でも、仁さんが阪神ファンだったり、後楽園(時代だなぁ)に阪神戦を見に行って3塁側に座っているのは、ちょっと違うって思いますしね~(いくら私が阪神ファンの「家系」でも)。

美和にとっての仁は、ある部分では、真にとっての竹流と同じような位置にある(いる)人なんですよね。そう簡単には切り離せないぞと。でも離れてみるまでは、きっと彼女も「私このままで大丈夫なのかしら。漫画や映画じゃないから、このままだとかなりヤバいよね」とは思っていて、どこかで「分かれる・離れる」チャンスも窺っていたと思うのです。
でも、2人の間に、社会的立場的事情はともかく、「その人となりがイヤ」というのがない場合、それどころか「恋もしているし、一緒にいることが自然だと感じながら過ごした時間がある……今もそれは否定しない」という場合、そう簡単に切れるものじゃありませんよね。一緒にいた時間、それはやっぱり降り積もっているものですから。
美和と仁のこの先の物語は、実はあんまり明るいものではないのですけれど(仁が、大きな連合の組長候補に名前を連ねることになるので)、一生懸命に悩んでいる美和と真は、やっぱり同志なのかもしれません。
そうそう、真にとっては今は、美和のことはどっかに吹っ飛んで行っちゃっておりますね。何しろ、相手が片手間で(あるいは二股かけて)「想う」には大物過ぎて……まさに死力を尽くして「想う」必要がある相手なんですよね。

> ところでハーマイオニー杉下さんは、いまどこに?
あ。えっと、きっと彼女は彼女なりの人生を見つけてどこぞかに……国際的な組織で働いているとか。
いや、実は正直なところ、このお話を書いた時にはもちろん杉下さんは存在していなかったので(学園七不思議キャラだったので)、未来像まで考えておりませんでした^^;
え~っと、でもきっと、同窓会なんかでは盛り上がるんだろうなぁ~
コメントありがとうございました!!

彩洋→夕さん #nLQskDKw | URL | 2015/08/09 11:58 [edit]


濃すぎる~

美和の周りの人間関係、恋愛事情を、改めて整理できました。
その結果・・・。
やっぱり美和ちゃんの周りには魅力的な男が多すぎる。それも究極に濃い。特濃。
でもそれは美和ちゃんだから呼び寄せたのかもしれませんよね。

確かに仁との出会い、やり取り、仁からにじみ出る人柄。これはもう一度味わったら逃れられないでしょう。
で、そこへもってきて、まったく違う空気感をもつ真だ。
ああそうか。なんか忘れていました。真と美和ちゃん、そう言う関係にもなってたのですね。ああ、なんか改めてしみじみしちゃう。
それでもやっぱり美和ちゃんを美和ちゃんらしく泳がせてくれる水槽は、仁でしかありえないんですよね。
くっ。生まれ変わるなら美和ちゃんになりたいぞ。(笑)

享志と葉子と美和ちゃんって、ここで初対面だったのですね。
でももうその相関図やいろんな関係性は、ぜんぶ美和ちゃんにはお見通しなんですもんね。
葉子を挟んでの、真と竹流の微妙な感情のベクトルも。濃いなあ~。

さて、享志たちが加わって、どんな方向に行くんでしょう。
さらに複雑になるのか、それとも・・・。

今日もまた引っ張り出されてお忙しそうな大海さんですが、くれぐれも体調崩されません様に。
鼻血、お気を付け下さい><って、気をつけようがないんだけども。

lime #GCA3nAmE | URL | 2015/08/09 13:49 [edit]


ううむ

更新、お疲れ様でした。

久しぶりの美和ちゃん登場ですね。やっぱり、和むわ~。
それにしても、エラい相手に一目ぼれされちゃいましたね。仁も、いろいろとカッコいい。そういえば、公なお風呂には入れませんね、彼は。
これだけ濃厚な男を知ってしまったら、そりゃ他の●●系男子なんて、もの足りなくなっちゃいますよね。
仁がいなければ、真との関係を全力で応援するところなんですが……微妙だなぁ。
享志と葉子の夫婦、今まで出てきた面々のなかにあっては、すごく普通の人に見えます。が、真の火に油をどくどく、なんですよね。どんな活躍をするのか、楽しみです。

TOM-F #V5TnqLKM | URL | 2015/08/09 22:27 [edit]


limeさん、ありがとうございます(^^)

はい。このお話は周辺の人間関係もとても大事なのですね。
特に美和は語り手としてだけじゃなくて、このお話の(この時点では)ハッピーな恋物語の主人公でもあるのです。あ、ハッピーというのはちょっと語弊がありますけれど、でも思い合っている二人の行く末、見守っていてやってくださいね。
彼女のいいところはいい方向へみんなを巻き込もうという気持ちが強いこと、かもしれません。でも、それも彼女自身が一番楽しんでいるからできること。何でも興味津々で面白がっちゃう。だから、真も仁も惹きつけられたのかな。
仁はもともと陽の要素が強い人だけれど、徐々に陰の方向へ引きずって行かれている。その中で美和の存在が彼を引き留めている、そんなイメージです。
仁も決してプラスなばかりの人間ではないのですけれど、美和ちゃんに対しては100%いい人状態。だからこそ、彼は「いつかは別れなくちゃならない」と思っている。じゃ何故最初から遠ざけなかったのかってことですけれど……それこそ「あと1回」が重なっちゃったんですよね。

> ああそうか。なんか忘れていました。真と美和ちゃん、そう言う関係にもなってたのですね。ああ、なんか改めてしみじみしちゃう。
あ、そうそう、どうやら忘れられている気が私もしていました(^^) いや、作者自身が忘れそうになる時がありまして。美和と真って、なんてのか、本当の兄妹みたいですしね。真にとっての美和は「永遠の恋人(それも小さな恋の物語風)」というコンセプトなので、次世代では結ばれちゃうのですよ。そう、実は、二代目真が結婚する相手は、葉子のところの子どもと美和のところの子どもが結婚しているので、その子孫なのです。

> くっ。生まれ変わるなら美和ちゃんになりたいぞ。(笑)
確かに、彼女の立ち位置、美味しいです(^^) えっと、そもそもモデルは「中高生の頃の私たち」。私たちというのは、読んでくださる女性読者さんのことであり、書き手の私であり、うん、とにかくみんな美和ちゃんになってこの話を楽しもう! という感じなので、limeさんのご感想は大当たりです!
享志・葉子夫妻ってのは、そもそも今「お城に住んでいる王子と御后」という感じなので、真にもなかなか会えない状態。「どこの馬の骨ともわからない女」を富山家の嫁にしたと思っている姑の手前もあって、そうは簡単に「実家」にも帰れないし。
だから、新宿の胡散臭い探偵事務所に近づくなんて、滅相もない!だったのです。でも今回、彼らはやってきました。その事情はまた京都で語られます。

> 葉子を挟んでの、真と竹流の微妙な感情のベクトルも。濃いなあ~。
あ、これ、気が付いてくださってありがとうございます! そうそう、葉子は「竹流さんがライバルってのはきついわ~」って真面目に思っていたのです。この子の素っ頓狂なところは「お兄ちゃんを他の女には渡したくない」→「竹流さんなら許す。しかも私はハッピーな二人を見ていたい」→「じゃ、私はお兄ちゃんを諦めるとして、彼らの周辺をガードしなくちゃ!」という三段論法に行きついたこと。しかもそこに渡りに船のように「君たち兄妹を守りたい」ってプロポーズした天然ボケ級長が……(「君を守りたい」だったら結婚していなかったと公言する葉子……)
享志・葉子は人間関係的にはもうそんなに引っ掻き回すことはありません(それはもう過ぎたので)が、こそこそと重要な働きをしてくれます。そちらも楽しんでやってくださいませ。

鼻血の心配もしていただきありがとうございます。そうそう、突然ぽたってくるからびっくりします^^;
でも今はもう大丈夫そうです(^^)
いつもありがとうございます。この先もよろしくお付き合いくださいませ。
コメントありがとうございました!!

彩洋→limeさん #nLQskDKw | URL | 2015/08/09 23:43 [edit]


TOM-Fさん、ありがとうございます(^^)

美和ちゃんに和んでいただいてありがとうございます。そう、庶民の味方、インタビュアーの鏡、我らが美和ちゃんです。何故か和む系になっておりますが、うん、きっと身近な存在だからかもしれませんね。
久しぶりに出てきて、あれこれ悩んでいるようですが、美和ちゃんらしい気風のいいところと、ちょっと情けないところと、あれこれ入り混じっての美和ちゃんがこの先もちらちらとTOM-Fさんを和ませてくれるはずです。

> それにしても、エラい相手に一目ぼれされちゃいましたね。仁も、いろいろとカッコいい。そういえば、公なお風呂には入れませんね、彼は。
はい、入れ墨さん、お断りですものね。そう言えば、浅田次郎さんの『プリズンホテル』は、そのやーさん専用の旅館のお話でした。入れ墨歓迎、という。うん、家族風呂ならね。仁の方からすると、全く真逆のお嬢ちゃんだったのが「気になって仕方がない」理由だったのだと思われますが……相手を見ずに正論を押し通す気風の良さに惚れたのでしょう。でも、意外に奥手な仁……うちの男性キャラたち、いつもは肉食系を装っているのに、本気になったらいきなり草食男子もどきになる、なんとも可愛いやつらが多いです。でも、あくまでももどき、ですけれど。
仁は私も作者として最も会ってみたい人。やっぱり角ドンで悩みを聞いてもらいたいわ~
いや、やーさんになってからは怖いので、バーを一軒任されてたころの仁に。惚れてまうやんけ~って感じかも。

> 仁がいなければ、真との関係を全力で応援するところなんですが……微妙だなぁ。
び、微妙ですか。あ、と、そこはもう、今回に限っては、全力で仁と美和のカップルを応援してあげてください。でも……やっぱりどうしてくっつかなかったのかなぁ、美和と真(あれ? どっちを応援しろと?)。
美和と仁はどちらかというと似た者同士。でも年齢差があるので仁が美和をでっかく包む形になっているんですね。真と美和は凸凹なので、逆に上手く嵌っている。でも嵌るから恋に落ちるとは限らないんだなぁ。ただ、二代目真の結婚相手は美和の子孫でもあるので(葉子の子孫でもある)、この辺り、諦めの悪い私の足掻きです(^^)

> 享志と葉子の夫婦、今まで出てきた面々のなかにあっては、すごく普通の人に見えます。が、真の火に油をどくどく、なんですよね。どんな活躍をするのか、楽しみです。
はい。天然ボケ級長と、三段論法素っ頓狂娘です。どこかに書いておりましたが(多分、このお話を本に製本していた時のあとがきに)、この物語を端的な会話で表現すると、「ねぇ、お月様取ってきて」「分かりました、姫」「ねぇ、お兄ちゃんのこと、よろしくね」「分かりました、姫」(もちろん、竹流と葉子の会話)……これだけで事足りるという。だから、「竹流さんをこんな目に遭わせた奴は許さない」と彼女はあっさり認めちゃうんですよね。享志の活躍はラストの方です。
真の火に油。彼らにも頑張っていただきましょう!(いや、ダメだって!)
でも一番油を注いだのは実は珠恵なのかも。
こわいこわい。
というわけで、続きもぜひ、よろしくお願いいたします。
コメントありがとうございました!!

彩洋→TOM-Fさん #nLQskDKw | URL | 2015/08/10 03:01 [edit]


押しの仁さんも仁さんですが、明らかにヤの方とわかっていてもう一回のデートを続ける美和ちゃんも肝座ってます。しかもプラトニックで純愛(?) 昭和っぽい^^ 
胸の内はメラメラでも、表はあくまでも控えめなのですね。指で二人をコノーとツンツンしたい^^ けど、二人の将来が明るくないとはハピエ好みとしては非常に残念。とりあえず今は見守っていきたい・・・

カップル、現われましたね。仕事場まで訪ねてくるとは、こちらはこちらで事情があるのですね。美和ちゃんたちともご対面。集まってきた、なのですかね。そうかあ、ここが出会いで家系図がつながっていくのですね。ふむふむ。

竹流をめぐる周りの者たちの動き、どう来るのでしょうか。
どう真と竹流に影響するのでしょうか。
これからはタイムリーに追いかけていけるのがなんか嬉しい^^

けい #- | URL | 2015/08/10 20:05 [edit]


けいさん、ありがとうございます(^^)

> 押しの仁さんも仁さんですが、明らかにヤの方とわかっていてもう一回のデートを続ける美和ちゃんも肝座ってます。しかもプラトニックで純愛(?) 昭和っぽい^^
ほんとうにね~。真と竹流の関係は、その辺に転がっているとは思えない、ちょっと次元が違うところを目指している系の人間関係ですが、美和ちゃんと仁はもしかしたらちょっとあるかもしれない、でもやっぱりちょっと普通ではない系の恋愛。
仁はまだこの頃、少し「普通の世界」に未練があったのだと思います。大学生までは堅気で生きていくつもりだったのですね。美和は上京してきて、周りの女子大生たちに違和感(自分とはちょっと違うというのか、馴染めないというのか)を覚えていて、で、なんか波長が合っちゃったのでしょうか。でも、世の中、そうは上手くいかないので、この先の二人には過酷な運命が待っているけれど、それでも思い合っていたことは確かですものね。いや、ある意味では、仁は究極の想いを残したかもしれないです。
取りあえず、この【海に落ちる雨】の中では、ハッピーエンドに拍手してやってほしいと思います。

はい、そしてバカっプル、やってきました。この天然カップルはもう放っておきましょう。2人して「お兄ちゃん大好き」「親友は俺が守る」とか思っているんですから、どんなカップルなんだってことですが、それでも仲の良い兄妹みたいに人生を分かち合った夫婦ですので、彼らの人生はこのお話の中では200点満点です。あれ? 一度離婚してるんじゃ?(というのは葉子の思い違いで、実は役所には提出していなかった享志。だから実はただの別居)
何はともあれ、まるで花男みたいに身分違いの恋ですから、周囲の意地悪に耐え抜いて、それでも絆を深めていくのであった!(の予定)この二人、あの手この手で真との接点をキープしようとしていますから、その辺りもお楽しみください。
美和ちゃんと葉子はここが出会いですが、真亡き後、かなりディープに付き合いがあり、なぜか家系は繋がっていくのでした。ま、この二人の子孫だからこそ、あのぶっ飛んだ2代目真を制することができたのかもしれません(^^)

と、話は本編に戻って。
はい、周りの者たちがそれぞれの立場で、この事件にけりをつけていくのか、あるいは真と竹流を支えていくのか、その辺りもお楽しみください。真と竹流……え~っと、ほんと、周りには迷惑な奴らなのかも^^;
あぁ、ついについに、追いつかれちゃいましたね~。でも嬉しいです。この先もよろしくお願いいたします!
コメントありがとうございました!!

彩洋→けいさん #nLQskDKw | URL | 2015/08/15 09:11 [edit]

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