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コーヒーにスプーン一杯のミステリーを

オリジナル小説ブログです。目指しているのは死体の転がっていないミステリー(たまに転がりますが)。掌編から長編まで、人の心を見つめながら物語を紡いでいます。カテゴリから入ると、小説を始めから読むことができます。巨石紀行や物語談義などの雑記もお楽しみください(^^)

 

☂[1] 第1章 同居人の留守 (1)(改) 

 深い碧の森。
 高い空から見下ろす大地に、銀色の雨が降りしきる。
 真自身も銀の雫となって大地に落ち、地中の奥深くに潜り込み、密やかに生命の根を支える。大地を踏みしめ足音を地中に落としているのはキタキツネかエゾシカ、それともこの沈むような重みはクマだろうか。心地よい湿度と共に伝わる振動に、真は深く息を吸い込み、溶け出していく自分自身の魂と身体を開放する。
 開放された魂は、地中を突きあがり、碧の森を飛び越えて、遥か彼方の雲の上に昇り、そして大宇宙にそのまま溶け入ろうとする。

 それを押し留めるように、誰かの暖かい腕が背中から身体を締め付けた。
 真は目を開けた。眠りの習性のせいもあるが、ここのところ熟睡できないでいる。
 視界はほとんど闇で、ぼんやりと壁が白んで浮いていた。

 そこはこの二年半の間にすっかり慣れ親しんだ部屋だった。
 サテンのシーツから微かにハーブの石鹸が香り、頬に静かな闇の空気が触れている。部屋の壁には、ベランダに面する廊下に開く大きな窓があり、木製のブラインドを下ろしてしまえば外の気配は伝わってこず、心地よい暗闇に身体を浸すことができる。

 普段改めて意識することはなかったが、時々こうして夜中に目が覚めると、隣で眠っている男の穏やかな息遣いを数えて安堵した気持ちになった。
 自分たち男同士の同居が、多少意味深な外見を世間に向けていることは何となく知っている。いや、むしろそれを利用さえしている。仕事の内容も場所も、ある意味そういう噂を許容する節さえあった。

 夜中に目が覚めて、寂しさも不安も感じずにもう一度目を閉じることができる、こんな穏やかな状態がいつまで続いてくれるのか、考えてみることがないわけではない。
 真は背中から感じる同居人の呼吸を、身体の芯に響く振動のまま受け止めて、軽く身じろぎをするように、その腕から逃れて身体を起こした。

 海からそう遠くはないこのマンションの持ち主は同居人の方だが、真は学生の頃、彼がヒモのような生活をしていて、このマンションについても、幾人もいる金持ちの恋人たちの誰かに金を出させているのだとばかり思っていた。
 真の思い込みはどこまでが事実でどこからが誤解なのか、今でもよく分からないが、同居人が『ビジネス』として女と寝ていたことは嘘ではないようだった。

 真が中学生の頃は、ここに来れば大概女と鉢合わせた。
 同居人は、真が小学生の時に北海道から東京に出てきて以来、真と妹の葉子の家庭教師をしていて、何やらいわくのある人間のようだったが、実際の生活の糧は、ジゴロのように女から得ているのではないかと真は思っていた。高級車に乗り、身に付けているものも、決して豪勢ではなかったが、上品なものばかりで、何よりこの男にはそういったものがしっくりと馴染んだ。

 一体あれから何がどうなってここに行き着いたのか、もしかしてインディアンの長老の言葉が、とてつもない歯車を廻したのか、気がつけばあれから干支もとっくに一廻りを越えてしまって、いつの間にかここに一緒に住むようになり、既に二年半もの時が流れている。

 広い造りのマンションには、他に真が一人で使っても構わないはずの部屋もあったが、もともとベッドを共にする以外の目的でこのマンションで他人と夜を明かす可能性のなかった同居人は、真がここに住むようになっても、ベッドをもう一つ入れようという発想は全くないようだった。
 同居のきっかけが真の方の多少危ない恋愛事件だったこともあって、真の保護者を自任していた同居人は、過剰に何かを心配していた可能性はあったが、こんなに立派なキングサイズのダブルベッドがあるのに、何故もう一つベッドが必要なのか分からないという単純な感覚の方が強そうだった。

 いつも隣で眠っている男との間に数十センチの隙間がある。それは時にはもどかしい思いを抱かせる距離だったが、他人との間としては、心地よい距離でもあった。他人とどれほど強く抱き合って現実の距離が消え去っても、それが何の意味もないということはよく分かっていた。
 真は隣の男が目を覚まさないのを確認する時間を待ち、静かにベッドを抜けると、廊下側のドアから寝室を出た。

 ベッドに入ったときから身体を引っ付け合っていることはほとんどない。眠っていると無意識に温もりを探すのが真の癖で、いつの間にか引っ付いていることはある。それを同居人はよくからかうのだが、真は寝ているの間のことだからと、自分の意識とは関係ないと主張して無視をする。
 このからかいにまともに反応すると、ろくなことにならないこともよく知っている。
 だが、酔っ払っているときは別にして、同居してからは、こんなふうにこの男のほうから真を、背中から抱き締めてくることなどめったになかった。そういう時は多分何か、それもある特定の何かがあった時だと真は何となく察していた。
 それを直接言葉で確かめたことは一度もない。こういうことは去年の秋から多くなっているような気がする。

 優雅に曲がったくの字型の廊下のテラスに向いた側は総ガラス張りで、その日は穏やかな月が空高く上がっているのが見えていた。
 夢の中では、雨が降っているのだろうと思っていたが、降り注いでいたのは雨でも星々の雫でもなく、月から零れ落ちる光だった。
 頭のどこかで覚えている気配と音は、地球に落ちる恵みを、光も水も同じものだと教えている。

 もうすぐ梅雨に入ることを思えば、今日のような月は暖かい気分にさせた。その月明かりが、変形した五角形のテラスを静かに始まる芝居の舞台のように浮かび上がらせている。
 舞台の上には古い農具の板で作られたテーブルと四客の椅子、大きくそれを覆う天女の袖のようなパラソル、木桶に植えられたオリーブの木。パラソルは遠い海からの風に時に大きく、時に囁くように軋む。
 天を見上げれば五角形に切り取られた、ここに住む者だけが所有する空。深い藍に染め込まれた天に浮かぶ月は、陽炎のような光の弯曲を空気に漂わせている。




鶴

さて、出直しです。
ずいぶん迷ったのは、隙間を作ることはいいとして、改行したら1文字下げるかどうか…
ブログ的には下げないのかもなぁ、と思いながらも、やっぱり何だか気持ち悪いので、下げました。

ついつい、文学的になってしまう、私の最大の弱点の冒頭

ちょっと諦め気分ですが、この微妙な同居関係を味わっていただければと思います。
多分ですね、本当は客用の部屋があって、ちゃんとベッドもあるんですよ。
それが面倒くさい理由はよくわかりませんが、とりあえず『面倒くさい』という言い訳を認めてあげることにしましょう。

多分、竹流が一人でいられない人なので、こうなってるんでしょう。
真にしてみたら、強制された、ということになるかと思いますが。


ちなみにこの冒頭、本当はもともと全然違ってたんです。
でも、時系列に並べたら、こうなったという。
あちこちに伏線が張ってある冒頭。
読み流して、またラストから振り返っていただいてもいいかもしれません。
そのラストって……いつやねん、ってほど先ですけど

タイトルの頭に通し番号[1]を入れました。

本日のおまけの映像は釧路の鶴。
実は、現在執筆中の『雪原の星月夜』のために去年の2月、取材に?行ってきたんですね。

できるだけ、頑張って毎日更新します。
よろしくお願いしますm(__)m

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Category: ☂海に落ちる雨 第1節

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コメント


最初から読ませてもらおうと思います♪
しばらくの間、夜眠りにつくまでのお供をお願いしますね。(笑)

ako #- | URL | 2013/04/18 23:46 [edit]


わぁ…akoさん、ありがとうございます

びっくり…しました。
でも、akoさんの世界と違って、とてつもなくドロドロ……
あちこちのブログさんで見かけるようなカッコいい男とか、性格もいい素敵な人間とか、そういうのはほとんどおりませんでして…もうしわけないです…(;_:)
ちなみに、女は比較的かっこいいかも?

ぜひぜひ、【清明の雪】からお入りください!
この【海に落ちる雨】から入ると、大変なことに…(私の性格が…危険人物みたいで……^^;)
ちなみに、主人公二人の生い立ちは【海に落ちる雨】の始章にあります。これは……あとから引き返しても大丈夫ですが……先に読んでも大丈夫な感じかも。

あぁ、本当にすみません。akoさんの素敵な世界とは程遠い……
うちの友は、これ(【海に落ちる雨】)を読んで「(主人公二人とも)生々しい」と……えーん、すみません(;_:)
男としても、人間としても、ということだと思いますが……でも、これは自分の中では褒め言葉と思っておりまして……
【清明の雪】は二人とも少し若いので、しかも内容がファンタジー系ほのぼのバージョンなので、世間様に迷惑はかけないと思うのですが…(>_<)

でも、ちょっと嬉しいです。
ありがとうございます……(;_:)m(__)m(*^_^*)

大海彩洋 #XbDIe7/I | URL | 2013/04/19 00:22 [edit]

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