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コーヒーにスプーン一杯のミステリーを

オリジナル小説ブログです。目指しているのは死体の転がっていないミステリー(たまに転がりますが)。掌編から長編まで、人の心を見つめながら物語を紡いでいます。カテゴリから入ると、小説を始めから読むことができます。巨石紀行や物語談義などの雑記もお楽しみください(^^)

 

☂[13] 第1章 同居人の留守 (13)(改)(『それっぽい』) 

「私が奢ってあげましょうか」
 どこか男を挑発するような顔つきなのに、この女の中にはアンバランスさが見て取れた。それが何なのか、今の真には興味がなかった。
「食事をする相手を探しているわけじゃない」
「ベッドを共にする相手?」

 真は思わず女を睨み付けた。
「どっちかというと抱き締めて可愛がってくれる相手よね」
 女のほうも挑戦的な目で真を見つめる。真が返事をしないままでいると、女はさらに続けた。
「心中するんじゃないかと人に思われるほど好きになった女がいたのに、今はあんなおっかない女と付き合っていて、しかも本当は留守をしている恋人が恋しくて仕方がないってわけでしょ」
「恋人ではない」
「あらそう? でも街ではすっかりそう思わせておいて放っているじゃない。雑誌にまで派手に書かれちゃって」
「単なる誤解だ」
「言い訳してないじゃない?」

 それはその通りだった。
 だがそれは妙な趣味を持っている連中への牽制と、そしてたまには同情や同族意識を引くためと、あの男が自分の『恋人』と思われていればある種類の人間たちに仕事上での威圧になるからでもあった。
 同居人のほうもわざとなのか、その噂を否定さえしない。あんな雑誌のインタビューであってもだ。

 真はライフル銃を田安に返して、放り出していた上着を取った。
 内ポケットから煙草を出してきて咥えると、女は何を思ったのかそれに火をつけてくれた。火をつけてもらう程度のことを拒否する理由もないので、そのまま新鮮なニコチンを吸い込む。
 ふと近くに来た女を見ると、何か特殊な気配を感じた。
 口で生意気を言うほどには敵意のないことを示したいような、そういう視線に思えた。

「まぁまぁ、上でバーボンでもどうだ?」
 面白そうにやり取りを見ていた田安が真と女を窘めて促した。
 真は煙草を咥えたままそれについて行き、女も後に続いた。
 地下から上る階段はバーのカウンターの裏の足元に出る。ちょっと見れば食品庫のような出入り口だった。真と女はカウンターの外側に廻り、背の高い椅子を間にひとつ空けて座った。

 倉庫のような造りで天井が高い店の中には、大きくはないがドラムセットとグランドピアノを置いて、他にベースや管楽器が多少持ち込まれても問題のないくらいの大きさのステージがあり、フロアには無秩序にテーブルが十ばかり散らばっている。カウンターはL字になっていてやはり十数人は座ることができた。

 バーはまだ開店前で、こういう店には似合わない明るい照明に包まれていたが、すぐに田安は灯りを落とした。瞬間に、どこか間が抜けたような白々しさは消え去り、空間が秘密めいた匂いを纏い、心の奥を吐き出したい気分を盛り上げてくれる。

「あまり意地悪を言わずに、素直に探偵さんに頼み事をしたほうがいいぞ」
 バーボンを、彼女の方には濃い目に、真には薄めに作って、田安はカウンターにグラスを並べ、すっとそれぞれのほうへ滑らせた。器用で、隙のない動きだ。

「もっと汚らしいトレンチコートでも着て、女好きで、ウィスキーはダブル、ニコチン臭くて、胃薬なんか飲んでる、それっぽい探偵でないと、頼みごとを言い出しにくいか」

 田安は時々、真があまりにも『探偵』ぽくないことをからかう。
 真はほとんど水に近いバーボンを半分くらい飲む。女はまだ黙っている。真は煙草に火をつけ、しばらく黙ってふかしていた。
 随分と間をおいてから、女が呟くように言う。

「別に、頼み事なんて」
 煙草の灰を灰皿に落としかけて真がふと女を見ると、女は少し肩を竦めるように視線をバーボンに落としていた。
「俺と話をしているときとは、もっと素直なのにな。それではまるで好きな子を苛める小学生だ」

 何を言うのよ、という顔で女が田安を睨んだ。田安はちょっと優しげに笑んで真に目配せを送った。
 怪しい老人だが、面倒見がいいところもある。
「この娘はこういう物言いしかできないが、まぁ悪気があってのことじゃない。お前さんに頼みがあるんだよ」

 頼みがある人間がそういう物言いをするか、と真は思ったが、煙草の火をつけてくれた瞬間の視線は確かに嫌味ではなかった。
「頼みって事じゃないけど」
「言えよ」
 真が心して優しげな声で言ったからか、女はちょっと真と視線を合わせてから俯いた。

「志穂ちゃん」
 田安は促すように声を掛けてから、店の看板に明かりを灯しに表に出て行った。
 志穂という名前なのか、と妙に感慨深く思っていると、彼女は例のごとく勝気な表情で真を見つめた。

「あなたが付き合ってる女」
 真は彼女を見つめ返した。
「香野深雪が、誰の女か知ってるんでしょ」
「どういう意味だ?」
「澤田代議士。一応自民党だけど、半分無所属みたいな男」

 真は彼女の言いたいことを探るように、その勝気な瞳と形のよい扇情的とも言える厚めの唇を見つめていた。
「あの男のことを調べてるの」
「仕事か」
「まぁね。でも私が知りたいのは表に出てくる澤田のことじゃない。あの男の過去を知りたいの。というよりも、その過去と繋がっている今のあの男のこと。香野深雪はあなたに寝物語でも何か話さないの?」
「まさか。大体何の話だ?」
「あなた、澤田が提供しているって噂の、香野深雪の住まいになっているホテルに堂々と出入りしているじゃない? 澤田がそれを許してくれているなんて思ってるの?」

 いつの間にか田安がカウンターのうちに戻って彼らの会話を聞いていた。
 話が単なる仕事の依頼ではなく、自分の身に直接関わりのあることだったので、真の方も冷静に田安の気配を窺っていたわけではなかったが、何となく田安もこの会話の内容に興味を抱いているような気がした。
 田安はこの女の頼み事の内容は知らなかったのかもしれない。
 あの長い眉毛の向こうの目が注意深く何かを窺っているように思えた。

「もしもそうだとして、今更澤田代議士が俺をどうこうしようなんて思わないだろう。大体そういう気ならとっくに何か言ってきているはずだ」
「あなたの価値を知れば、別でしょうけど」
「俺の価値?」
 真は女を見つめ、それから思わず田安の方を見た。
 田安も黙って真を見ていた。だが、田安の表情からは相変わらず何も読み取れない。

 真はもう一度女のほうに視線を戻した。
「それで、君は澤田代議士をどうしようと言うんだ? 政治家としての失脚が目的か?」
「ただ本当のことを知りたいの」
「本当のこと? 仕事ではないのか」
「香野深雪に聞いてみて。澤田がどういう男か知ってるのかって」
「言っておくが、彼女は俺にそういうことは話さない。単に店の客というだけだ」

「じゃあ、あなたは彼女に一回いくら払ってるの?」
 真は今までそういう単純な話に思い至らなかったこと自体に、自分でも驚いた。

 深雪とこれほどに肌を合わせても、金銭的なやり取りをしたことはない。ましてや抱き合う場所についても、たまに深雪が面白がってラブホテルに行こうと言う時以外、真が財布を出す事もない。
「あんな怪しい女が単に好き嫌いであなたと寝ると思ってる? しかもあなたとのセックスがどんなに良くても、それだけで関係を続けることなんてあり得ないわよ」

 身体の相性がいいからだと思っていたが、確かに深雪に何かを確かめたことなど一度もなかった。
 だが、男と女の間のことだ。愛じゃなくても身体が離れられないようなことだってあると、この目の前の生意気な女に言ってやりたい気がした。
「彼女とのことは個人的なことだ。悪いが、そういうことなら頼まれても協力はできない。それに澤田代議士が俺に何かを要求してきたことも接触してきたこともない。筋違いだ」

 真は黙ったままの楢崎志穂の突き刺さるような視線を感じながら、薄いバーボンを口にした。
 薄いはずのバーボンが舌に突き刺さるような気がした。





以下、コラム畳んでいます。
三味線を合奏している時、時々ふとついていけなくなるときがある。
で、どうするか。
エア三味線をする。
そして、だんだんエアも本格的になり、ちょっと自慢できる境地に至る。
(って、それを練習してる場合じゃないですが!)

世の中には面白い競技大会がある。
スコップ三味線。
津軽三味線の里である金木のあたりでまことしやかに行われている(らしい)。
競うのはどれくらいそれっぽくエアをするか、ということ。

あれ、それってゴールデンボンバーの話?
あの人たちはもっとど派手なパフォーマンスをしているので、ちょっと違うかもしれないけど、つまりは魅せる/見せるということは、『王道として上手』ということとは少し違う次元で成立しているかもしれない、ということ。

どんな世界にも売れている人がいて、でもその人がその世界で最もその技が上手というわけでもない。
たとえば、小説でも、その専門の分野の人が読んだら、そこはかなり実際と違うんだけど、ということは沢山あるんだろうけど、なぜかそうかもしれないと思わせる力がある作家さんがいる。
いえ、多分、すべてのプロの作家さんたちは、そうかも!と思わせるのが上手。
そしてそれこそがプロに必要な技なのかも。

だます。
そのためには細部を書きこめ、と以前言われたことがあります。
細部を書いてあると、それっぽいのだ、と。

たとえば、ものまね。
特徴のあるところを大仰に見せる。
でも結構細かい動きをやっている。
たとえば、浮世絵。
そんなバランスの顔と手はないやろ~と思う。
ただし、使ってある素材は最高級で、実に細部まで描きこんである。
たとえば、おれおれ詐欺、もそういう面があるかも。

『それっぽく』『いかにだますか』『何より魅せる』
それが物語であり、パフォーマンスなんだろうな……

わかってるけれど、愚直なもので、なかなかど派手なパフォーマンスができません……
特に、冒頭!
って、またそこに帰るのであった。

さて、次回から第2章。
どんどん訳が分からなくなっていくけれど、あまり気にせず、だらりと楽しんでください。
あらすじ、またつけときます。

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Category: ☂海に落ちる雨 第1節

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コメント


竹流がいた。けど、なんでしょう、え、逃げてきたの? 
どゆことになっているのでしょう。
場面が竹流の意識とともにばっさり切られた。
落し物置いたまま、つづく、ですね。

真の方も、こっちはこっちで裏の動きがありそうで。
常時そばにいた人がいなくなるって、それだけで不安なはず。
真の心の飢え。癒されないまま、生理現象は繰り返すのね。
心と体が違う方を向いて違うことして、コントロールが効いている間は良いけれど、それができなくなったら大変。真大丈夫か。

いやいや、まだたったの第一章なんですね。冒頭ですね^^
ちょっと暗い、しっとり感を覚えておきます。

けい #- | URL | 2013/10/27 20:25 [edit]


けいさん、ありがとうございます(^^)

何だかまるで、ミステリー小説とか2時間ドラマにありがちな展開、ありがちなシーンでお恥ずかしいです。
いわゆる、「冒頭で死体を転がせ」方式と言いますか……
竹流には何があったんでしょうね。彼はその……ちょっと頑張っちゃっていたようでして。
この人、自信過剰なので(自分は簡単にはやられない、と思っている)、それが仇になっちゃったようでして。
でも、その理由は……最後のほうでわかる、かな。
長い話で本当にごめんなさい。

真は、そうですね。ちょびっといじけているのかもしれません^^;
女に会って、ちょっとうっぷん晴らししたりして、やることがお子ちゃんですよね。
この章のポイントは、インタビューと、電車の中の広告。
本当に、いい男の写真が、電車内にずら~~~っと並んでいたら、どうかしら、という妄想。

> 常時そばにいた人がいなくなるって、それだけで不安なはず。
> 真の心の飢え。癒されないまま、生理現象は繰り返すのね。
> 心と体が違う方を向いて違うことして、コントロールが効いている間は良いけれど、それができなくなったら大変。真大丈夫か。
けいさんも、またまた鋭いご指摘を……
そうなんです。方向がね、まるきり違うところを無理に見ていて、身体を割かれているような気持ちかもしれません。この話は、そういうことに発端がある、真の心の暗い部分、そしてそこに影を落としている父親の存在、それがバシバシと出てきます。
最後に膿が出てくれるのかどうか。
あまりにも暗い話になりそうだったので、清涼剤として、柏木美和・北条仁カップルがおりますので、彼らが出てきたら安心して読んでやってください。

> いやいや、まだたったの第一章なんですね。冒頭ですね^^
> ちょっと暗い、しっとり感を覚えておきます。
ゆっくり、だらだらと、暇な時に追いかけてやってください。
けいさんの『夢叶』を読む度に、この話、これでいいのかなぁと迷っている大海なのでした。
で、みなさんに、嫌いにならないでね、とか言って回っている感じです……^^;
コメント有難うございました(*^_^*)

彩洋→けいさん #nLQskDKw | URL | 2013/10/28 19:12 [edit]

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