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コーヒーにスプーン一杯のミステリーを

オリジナル小説ブログです。目指しているのは死体の転がっていないミステリー(たまに転がりますが)。掌編から長編まで、人の心を見つめながら物語を紡いでいます。カテゴリから入ると、小説を始めから読むことができます。巨石紀行や物語談義などの雑記もお楽しみください(^^)

 

☂[14] 第2章 同居人の入院 (1)(改)(あらすじ付) 

第1章 あらすじ

相川探偵事務所所長・相川真(27)は、もと家庭教師(?)かつ保護者である大和竹流と同棲を始めて2年半が経過している。大和竹流(=ジョルジョ・ヴォルテラ)(36)は美術品の修復師であるが、実はヴァチカンを支える裏組織ヴォルテラの跡継ぎであり、本人は望んでいないが、いずれローマに帰ることを期待されている。
このところ竹流が考え込んでいることが多くなっていたが、真は事情を聞きだすことができない。親であり兄であり、また教師でもある同居人がいなくなることが、実は不安でたまらなくて、考えたくないと思っている。
そんな時、竹流がしばらく留守にするといって出かけて行った。
ちょうどその頃、竹流が某経済・社会雑誌のインタビューに答えた記事が掲載される。オーナーとなっているレストランやギャラリー、修復師としての仕事について、そしてついでにプライベートにまで触れた記事には、同居人の真のことまで書かれていた。ふたりの関係をちょっと誤解されるような答え方で…
事務所のメンバー、共同経営者の女子大生・柏木美和、孤児施設出身のヤクザ志望・宝田三郎、バイトの主婦たち、その他事務所のある新宿で働く知り合いたち、などなど周りからインタビュー記事のことを面白がられている気配を感じて、いささか面白くない真は、恋人というよりも体の関係だけを続けている銀座のバーのママ・深雪に会いに行ったりしながら、竹流の帰りを待っている。深雪は代議士・澤田顕一郎の愛人という噂もあるが、実のところはよくわからない。
そんな時、自分の実の父親のことを知る老人・田安隆三の経営するジャズバーで、真は楢崎志穂という雑誌記者と会う。志穂は、澤田顕一郎のことを調べていて、真に深雪から澤田のことについて何か聞いていないかというのだが…

それでは、第2章【同居人の入院】、お楽しみください。
その前に、おまけ写真:遠からず登場予定のマルタ島の石の神殿。
マルタ1



「もしもし、相川調査事務所です。……え? はい、代わります」
 真が自分の机の上で鳴っている電話をしばらく放置していると、前を通りすがりに、いつも通りやたらと勢いのよい声で電話を取った『秘書』の柏木美和が、途中から真に目で合図を送るようにして露骨に嫌な顔をした。そして受話器の口を押さえもせずに真に渡した。
「刑事さん」
「刑事?」

 真は美和の手から受話器を受け取り、さて、何の話かと考えた。仕事上、時々警察がらみになることはある。しかし、今のところお世話になるような話はないはずだった。
「お久しぶり」
 真はその声に思わず受話器を握る手に力を入れた。添島刑事、本庁捜査一課の女刑事だ。
「何かありましたか」
「大ありよ。忙しい? ……わけはないわね。あなたが事務所に座ってるんだから」

 電話の向こうの声は爽やかに痛いところを突いて無駄なく響く。
 この女刑事は時々同居人の仕事の事で何かを嗅ぎ廻っているような気配があるが、実際に彼女のターゲットに同居人が入っているのかどうかもわからない。大体、竹流の仕事の裏のほうで多少は法に引っ掛かるかどうかの際どい部分があるのだとしても、捜査一課が関わってくる理由はなさそうだった。

 確かに一週間ほど前から閑だった。それまではあれやこれやと問題を持ち込まれ、名瀬弁護士からも手伝いを頼まれ、美和だけでなく自称『弟子』の高遠賢二まで走り廻ってくれていた。ところが季節労働者のようなもので、いきなり暇になる。こうなると浮気の調査でもいいや、と思ってしまう。

「とにかく来て頂戴。G医大病院の別館。玄関で誰か待たせるから」
「いきなり何ですか」
「用件は来てから話すわ」
 女刑事はそれだけ言って一方的に電話を切った。
 真がしばらく受話器を握りしめたままでいるのを、美和がまだ不愉快そうな顔で見ている。

 真とその女刑事の接点は、考えてみれば同居人しかいない。彼女は捜査一課で少年事件とは何の関係もないし、その女刑事と会うのも同居人のギャラリーでだけだった。どういう関わりかはともかく、その刑事が真を呼ぶとなると同居人絡みの可能性は高いが、どういうことだろう。

 同居人が出掛けてからすでに三週間は経っている。そんな時に掛かってきた本庁の女刑事からの電話は、あまり良い内容とは思えない。同居人の仕事がどこかで法に触れる可能性は十分にあるのだろうが、捜査一課となると随分複雑だ。
「出掛けてくる」

 美和が不満と不安をあからさまに顔に出して真を見ていたのは、刑事という職業の人間への警戒と、真が個人的にそういう種類の人間と関わっていることに対する負の感情のためだろう。そもそも、美和は極道の女で、この事務所は任侠一家の持ち物だ。
 真は言い訳する言葉を見つけることもできなかったので、そのまま事務所を出た。階段を下りてから、車で行くか電車で行くか迷ったが、結局電車を選んだ。


「半分わかってます、って顔ね」
「いつもこんな顔です。用件をおっしゃってください」
 玄関で誰か待たせると言いながら、待っていたのは添島刑事その人だった。ダークグレイのパンツスーツを着て、いかにもキャリアウーマンを印象付ける容姿で、女性にしては背が高い分、履いている靴のヒールは低い。長い間海外で仕事をしていたとも聞くが、いかにもスマートなムードの女だ。耳の下辺りで切り揃えられたストレートヘア、切れ長の直線的な目、やや吊り上がった眉、通った鼻筋と横にくっきりと結ばれた唇。気がきつそうで賢くて、それに十人並み以上には美人だった。

 午前中の大学病院の玄関は多くの人間が出入りする。その中を縫うように、添島刑事は病院の廊下を早足で颯爽と歩いていく。こういうタイプは苦手だと思いながら、真は何とか彼女の後をついていった。やがて添島刑事はエレベーターの前で立ち止まる。
 添島刑事はエレベーターの現在位置を示すランプを見上げたまま、真の顔を確かめるわけでもなく、肩を落とすようにひとつ息を吐き出して言った。

「あなたの相棒、死に掛かってたの」
 真は思わず無遠慮に彼女を見つめた。

「普通の人間ならまず死んでたわね。出血多量と敗血症でショック寸前、折れた肋骨はもうちょっとで肺を傷つけるところだったっていうし、あれでどうしてあんな生意気な口をきけるのか不思議だわ。それから」彼女は意味ありげな視線を真に向けた。「これは新しいものじゃないけど背中の火傷の瘢」
「火傷?」
 エレベーターは各駅停車をしているようで、なかなか一階に降りてこない。

 添島刑事は彼女にしては僅かに躊躇うような時間を置いて、3の数字で止まっているランプを見上げていた視線を、真のほうに移した。
「知らなかったの?」
 驚いたような顔だった。というよりも、真自身が理解不能という顔をしているはずだった。
「本当に彼ですか?」
「それはどういう意味? 驚いたわ。一緒に住んでるし、何でも知ってるのかと思ってた」
「別に裸を見せ合って喜ぶ間柄ではないので」

 エレベーターの扉が開いて乗り込み際、添島刑事はちょっと真を振り返り、意外にも非常に好意を感じさせるような微笑を浮かべた。
「そういう言われ方をすると余計に勘繰ってしまうじゃない」

 エレベーターの中に一緒に乗り込んだ五人ばかりの他人に遠慮したのか、添島刑事はそれ以上続けなかった。真は現実味を帯びていない彼女の話の内容を、別の頭で忙しく考えていた。
 背中の火傷? だが、この女刑事が彼を見間違うはずはない。

 そう言われてみれば、同居人の裸の背中を見たのはいつが最後だったのだろう。
 昔はよく伯父に連れられて温泉にも行ったし彼の背中を流したこともある。最後に見たのが正確に何時で何処だったのかも思い出せないが、同居してから確かに裸の背中など見ていないかもしれない。
 風呂上りの同居人を見ることはあっても、裸でうろうろしていることなどなく、一緒に風呂に入るわけでもないし、ベッドの中で彼の背中に触れるわけでもない。違和感なくそういうものだと思っていたし考えたこともなかった。

 ましてや、その背中に直接触れたのはもう九年も前のことだ。




こうしてあらすじを書いてみると、あれ?自分が実際にお話を書いていた時と重点が違うな、と思いました。
書いている時は描写に夢中なので、たとえば、竹流が「出かける」と真に宣言するファーストシーンなどは、もうものすごい何回も書き直して、書き足して、削って、をやっているのですが、あらすじには反映されない。
事務所のシーンも、すごく力が入ってる割には、あらすじには出てこない。
これはまぁ、芝居で言うと、ト書きみたいなもので、映像になったら何の説明もなく映るワンシーン、なわけなんだな。
でも小説だから、言葉でしか語れない。

頭の中にこの具体的な風景があることがどのくらい大事なんだろう。
少なくとも作者の私にとってはものすごく大事な作業だけど。
竹流のマンションの景色…ベランダに置かれたものとか、小さなバーカウンターとか、壁の絵画とか。
真の新宿の事務所の景色…来客用のソファ、真の仕事机の上のペン立て、窓から見える歌舞伎町の風景。
読む人にとっては退屈な部分だろうな。

そこに、どのくらい食いついてもらえるかが筆力ってものなんでしょうか。
だから、できるだけ具体的なものがいいのかも。
あるいは実在するもの。
この小説は時代がいささか古い(昭和!なので)ので、少し難しいけど。

漫画のNANAで、ふたりのNANAがおそろいで使うマグカップが実在していて、すごく売れたとかいう話を聞いたことがあった。
実在するものとのリンク。
それは確かに説得力がある。


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Category: ☂海に落ちる雨 第1節

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