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コーヒーにスプーン一杯のミステリーを

オリジナル小説ブログです。目指しているのは死体の転がっていないミステリー(たまに転がりますが)。掌編から長編まで、人の心を見つめながら物語を紡いでいます。カテゴリから入ると、小説を始めから読むことができます。巨石紀行や物語談義などの雑記もお楽しみください(^^)

 

連作短編【百鬼夜行に遅刻しました】秋(2)・立ち枯れの紫陽花 


月刊・Stella ステルラ 6.7月号参加 連作短編/不定期連載小説

ものすごく久しぶりにStellaに投稿することにしました。
そう、思い起こせば、この作品の第1作目はStellaに投稿したのでした。

本当はものすごく気になっているけれど、書くのにものすごくエネルギーがいる連載物が2つありまして、その1つがこの【百鬼夜行に遅刻しました】なのです。書き始めは軽い気持ちだったのですが、何しろ扱っているものが「死」だけに、文字数の割に使うエネルギーが半端なくて。
(もうひとつは【死と乙女】です。こちらはクラシック音楽への思い入れが強くて)

ウゾくんの本編は、あと「冬」と「春」でおしまいなのですが、今のところ秋の菊まで来ているので、ここで急に初夏の話に戻すことはできなかったため、苦肉の策に出ました。花は紫陽花。ただし、立ち枯れの紫陽花です。晩秋の話ですが、花が6-7月のものということで、季節がずれていることは赦してやってください。
あまりにも間があいているので、読んでくださっていた皆さまにも設定を忘れられているでしょうから、前半は少し説明がましい部分がありますが、これまでのことを忘れている/読んでいない場合でも、大体ついていけるように書いてありますので、さらりと流し読みしてくださればと思います。

いや、それでも書くほうとしては細かい設定を思い出すのが大変で、とりあえずこれまでのところを読み返したのですが、なんて話を書いてるんだ! 大海! と自分でツッコんでしまいました。
いや~、これ、けっこうしんどい話じゃありません? (自分で言うこと?) ファンタジーなのに、テーマが重い(@_@)
でも、気持ちはいっぱいこもっているかな? 思い入れは深いし、けっこういい話じゃない? なんて(また自画自賛か!)。
結構毎回ハードな部分が多いのですが、今回は、少し優しいお話になっています。

本編からは少し話が逸れている部分ではありますが、今回は私が大好きだったねこさん・もち姫さんへの追悼の気持ちで書きました。この作品は、そもそもウゾさんに捧ぐ、なんですけれど、今回はウゾさんともち姫さんに捧げます。
もち姫さん、これからも、ウゾさんの傍にいてあげてくださいね。ウゾくんの傍にも。
 ウゾさんの【百鬼夜行に遅刻しました】


<あらすじ>
ニンゲンが亡くなって上手くジョウブツできない時、いったん鬼になる。鬼になって、百鬼夜行に108回参加すればジョウブツできるのだけれど、ルールが沢山あって、試験に合格しなければ本物の百鬼夜行には参加できない。だからキョウトのゴショには、百鬼夜行学校があるのだ。
でも小鬼のウゾは、いつも試験に遅刻してしまって、これまでに3680回も試験に落ちている!
一体なぜウゾは遅刻してしまうのだろう? そして、ウゾはどうして小鬼になってしまったのだろう?
生と死の間で苦しむ人々を見つめ、花の精たちの助けを借りながら、ウゾは今日も……遅刻している!?
<登場人物>(名前のみを含む)
ウゾ:小鬼。遅刻の常習犯で、なかなか百鬼夜行本番参加のための試験に合格しない。
もち姫:ウゾが物心ついた時?には傍にいてくれた『知っている』猫。ウゾを見守っている。
サクラちゃん:バイクにはねられて死んでしまった少女の小鬼。イメージはハーマイオニー……
タタラ:百鬼夜行学校の教官。とにかくでかくて怖い。
ダンゴ:ウゾが住むタダスの森のダンゴムシたち。語彙は少ないが、少しずつ学習している?


【百鬼夜行に遅刻しました】秋(2)・立ち枯れの紫陽花

「ウゾ、チコク」「チコク、オコラレル」「ウゾ、オコラレル」「コワイ、コワイ、タタラ」
 ダンゴたちはまた語彙が増えている。一体、誰が教えているんだろう。もしかして、ウゾが魘されて寝言を言っているのかもしれないけれど。
「もう、うるさいなぁ」
 目が覚めちゃったじゃないか。今日はせっかくの休みだというのに。

 ウゾはもぞもぞと起き上がり、アキニレの木に凭れて、はぁと溜息をついた。
 秋は深くなって、落ち葉は下の方か湿って重くなっている。そこへまた新しい枯葉が落ちてきて、かさかさと音を立てる。もう風の温度はすっかり冷たくなっていた。
 ウゾはジョウブツを目指して勉強中の小鬼だ。

 普通、ニンゲンが死んだら、七日以内に魂はあの世に渡って行くはずなのだが、何かの事情でこの世に魂を残してしまうことがある。自分がなぜ死んでしまったのか分からない場合や、身体や心の一部がこの世に残ってしまっている場合などだが、特に強い感情を残した時はこの世に長く留まってしまい、七日を越えると簡単にはジョウブツできなくなる。
 こうした場合は鬼となってこの世をさまようことになるのだが、そのままでは鬼の人口の方が人間よりも多くなってしまって、鬼とニンゲンが接触する不幸なケースが増えてしまう。

 鬼が増えたら鬼に好都合かというと、そういうわけでもない。鬼はそもそも各自が自分自身の事情にこだわっているので、みなで力を合わせてニンゲンと張り合うなんてことはないのだ。だから、鬼が増えてしまったら、鬼たち自身にとっても大きな問題となる。
 何より「健康で健全な鬼」で居続けることは結構難しい。鬼としての健康が損なわれた場合は、大変な苦難が待っているのだ。
 中には、学校の門番をしているグンソウのように、自ら決意してその苦痛の道を選んだ者もいる。だが、普通の鬼たちにあんな苦痛が耐えられるはずもない。

 そこで、鬼たちにジョウブツに至る過程を教え、自分の死について知り、納得してあの世に行くために学ぶ学校があるのだ。ジョウブツに至るためには、百鬼夜行に百八回、参加しなくてはならない。百八回の百鬼夜行は、鬼たちに自分の死の訳を知る機会と、浄化の機会を与えてくれる。
 しかし、人間から見るといい加減にうろついているように見える百鬼夜行にも、気が遠くなるほどのルールがある。だから、この本番の百鬼夜行に参加する前に、教習所のようなところに行ってルールを勉強し、仮免許を貰わなければならないのだ。
 そして、ウゾはこの仮免許の試験にこれまで三千六百八十回、不合格となっている。そのほとんどの理由が遅刻だ。

 何故遅刻してしまうのか。鬼たちは普通夜行性だ。つまり、鬼たちの朝は、ニンゲンの夜だ。でも、ウゾはどうしても夜になったら眠くなるのだ。だから、鬼の朝に起きることができない。ウゾがねぐらにしているタダスの森から、学校のあるゴショまではそれほど遠い距離でもないのだが、それでもなかなか間に合わないのだ。
 学校は単位制なのだが、ちゃんと授業に出ていないと試験に合格することは難しい。それに大事な授業は結構、朝一番にあることが多い。もちろん、鬼の「朝の一番」だ。
 何故そうなっているのかというと、遅い時間にはバイトに行く鬼も多く(ニンゲンをビビらせるのは「夜」なので)、また深夜の丑三つ時には、本番の百鬼夜行のために教官たちは多忙だからだ。

 うまくないや。
 ウゾは葉っぱを一枚めくって、指先でダンゴを一匹つついた。ダンゴは丸くなり、コロン、と転がった。
 今年はあれこれ校則違反なんかを起こしてしまって、百鬼夜行学校教官のタタラから、罰則として、これから来るキョウトの寒い冬の間、町中の花の種と根の面倒を見るようにと言われている。救いはサクラちゃんもいっしょだということだが、それでも、ふたりにしたってキョウト中の花だなんて、絶対無理に決まってる。
 かと言って、いい加減にやったら、きっとタタラに怒られるんだろうし。

 タタラはもともとミドロガイケの龍だという噂のある、ものすごく身体の大きな鬼だ。とにかくおっかない。もちろん、龍が鬼になるなんて聞いたことがないから、きっと噂なんだろうけれど、ウゾはタタラがまるで龍のように空を飛んでいる姿を見たことがあるし、菊の精はタタラのことを「ミドロガイケの主」と呼んでいた。
 もちろん、気を失いかけていたから、見間違い、聞き間違いもしれない。

 大体タタラは僕に厳しすぎるんじゃないかなぁ?
 ウゾはふぅともうひとつため息を零した。
 もちろん、遅刻の常習犯のウゾが悪いのだが、物事には手加減というものがあってもいいはずだ。
 やっぱり、もち姫のところに行こう。この時間はもち姫にとっても都合のいい時間だし、休日なら学校のことを考えずに、久しぶりにゆっくりと一緒に過ごすことができる。
 それから、どうやったらキョウト中の花の状態を知ることができるのか、もち姫の知恵を借りよう。それに。
 ウゾは立ち上がった。
 他にも、もち姫には聞きたいことがいっぱいあるのだ。



「おや、ウゾ、学校はどうしたの。あら、そういえば今日は立冬のお休みだったわね」
 学校は二十四節季の日が休みと決まっている。今日は立冬の休みなのだ。
 これから冬になる。

 もち姫は『知っている』猫だ。だから、猫たちの先生であり、精神的支柱でもある。
 猫たちはニンゲンと違って『見える』ことが多いが、『知っている』猫は滅多にいない。もち姫は真っ白な猫で、あっちの世界(ニンゲンにとってはこの世)とこっちの世界のどちらの者とも話すことができる、稀有な猫だ。年齢は分からないが、ウゾが記憶している限り、ずっとウゾの傍にいてくれている。

 このところウゾは、勉強中の小鬼には解決できないような問題にぶち当たることが多い。
 よく考えてみれば、それは今年の春にサクラちゃんという、バイクにはねられた後、連れ去られて殺されてしまった女の子を助けてから……のような気がする。
 助けた、と言っても、何ができたわけではない。殺されて埋められた場所を見つけてあげただけだ。死の理由が分かったので、サクラちゃんはぎりぎり七日の期限に間に合ってジョウブツできていたはずが、病気のお母さんにナカラギの桜の花びらを届けていたために間に合わなくなって、ウゾと同じように鬼になってしまったのだ。

 もっとも、サクラちゃんは外見こそ儚げで可愛らしい少女だが、ウゾが思っていたように可憐な女の子ではなく、実に逞しく鬼ライフを生き抜いているようにも見える。もちろん、お母さんのことや自分の死のことは大きな問題だったけれど、課題を的確にこなし、利用できるものはちゃっかり利用し、友だちをたくさん作って、頑張って鬼をやっているように思えるのだ。
 逞しさと健気さ、強がりと泣き虫、理性と優しさ、そんな両面性がサクラちゃんの魅力だ。しかも、あんなに理知的なのに、ウゾと同じように遅刻の常習犯だ。

 ウゾは、ちょっぴりサクラちゃんが好きなのだ。まだ「ちょっぴり」と言っていいくらいだけれど。
 それに。
 ウゾはサクラちゃんのお母さんと約束をしたのだ。サクラちゃんを殺した犯人を見つけて、事情を聞きだし、ちゃんと罪を償わせるのだと。

 ウゾはきょろきょろと周囲を見回した。
「どうしたの」
「え、えっと……」
 もち姫はふっと息をつく。
「ウゾ、サクラなら花たちの図鑑を持って早くにやって来たわよ。これから花の精たちに事情を聞いて回るんだって」
 手伝いなさい、と言外に言っているのだろうけれど、ウゾはそっともち姫が身体を横たえている縁側に座った。

「ねぇ、もち姫。ぼく、その……」
 ちらっともち姫を見ると、その金銀の見透かすような瞳にじっと見つめられていた。でも、その瞳は何時も根っこのところがとても優しい。
「ウゾ、あなたが聞きたいことは分かっているわ。でもね、あなたは何もかも自分の手で掴みとらなければ。花たちに事情を聞くのはとても有益なことだわ。何しろ、あなたは鬼としては半人前だけれど、花たちを感じ、その声を聴くことができるのだから。それは誰にでも備わった能力ではないわ」

 これまで出会った花たちは、もち姫を「あの方の使い」と呼んで懐かしそうに話した。「あの方の息子の面倒を見ている」と。あの方って、ぼくのお母さん? もち姫は、お母さんのことを知ってるの? どうして花たちはみんな、もち姫のことを知っていたの?
 そう聞いてみたいけれど、やっぱりもち姫を見ると簡単には聞けない。もち姫はきっと答えてくれないと分かっているからだ。

 ウゾは母親のことを思い出せない。鬼になったのは、自分の死の訳を知らないからかもしれないが、親のことを思い出せないのは何故なんだろう。僕は生きている時、どんなニンゲンだったのだろう。少しくらいその記憶が残っていてもいいはずなのに、その記憶が少しもないのだ。これはつまり、キオクソウシツってやつなのかなぁ。

「ねぇ、ウゾ、あなたは自分で選ばなくてはならないのよ。あなたが三千六百八十回も試験に合格できないのには、なにか大きな力が働いているのかもしれない。私は、あなたがジョウブツできるのなら、それが一番いいと思ってきたけれど、与えられた運命が過酷であるかどうかを決めるのは、周囲の者ではなく、あなた自身なのかもしれないわね。さぁ、ウゾ、もう行きなさい。私は少し眠らなくては。今日は少し大変な夜になるから」

 もち姫がこの世に留まり、あの世とこの世を行き来しながら過ごしているのは、猫たちにたくさんのことを教えてやらなければならないからだ。でももう随分と歳をとった猫だから、その仕事をこなすためには、十分な休息が必要なのだ。
「まずは、花たちとよく話をすることだわ。そう、身近な花たちから始めなさい。根気よくね」



 ウゾは眠ったもち姫の背中を撫でながら、ぼんやりと小さな庭の光景を眺めていた。
 もち姫は住んでいる家は、カモガワをずっと遡ったところにあって、もう少し行けば水の湧き出す源流がある。家には年老いた夫婦が住んでいて、もち姫を大事にしてくれている。夫婦ともに、少し佇まいが悲しげだけれど、優しそうな人たちだ。
 その老婦人が、もち姫のことを神さまの猫、と呼んでいるのをウゾは聞いたことがあった。ニンゲンだけれど、もち姫が特別な猫であることを感じているのかもしれない。

 小さな庭には、竹の垣根と植込みがある。植込みには山で見かけるような、華やかではないけれど優しい花たちが植えられている。萩、撫子、朝顔、ホタルブクロ、ホトトギス、桔梗といった草花、それからレンギョウやミヤマツツジ、沙羅双樹や椿などの木の花たちも。
 その中には紫陽花もあった。

 丁度あれは休みの日だったから、そう、6月の夏至の日だった。
 雨の日が多くなり、紫陽花の花が咲き始めていたから。
 休みの日にはもち姫のところに来るのがウゾの習慣だったから、ウゾはやっぱりあの日もここに来ていたのだ。
 あの時、ウゾはもち姫に尋ねた。
「ねえ、この紫陽花には花の精がいないね」

 そういうことは珍しい。この紫陽花には生命の匂いがなかったのだ。
 ウゾはもともと花の匂いから色々なことを感じる。匂い、と言っても、ニンゲンにも他の動物たちにも感じることができないくらいの微かな匂いだ。
 花の精たちは必ずしも顔を見せてくれるわけでは無い。ニンゲンの前に姿を見せることはまずないだろうし、そもそもニンゲンにはそのような能力がある者はいない。ウゾのように花たちと話ができる鬼だとしても、花たちに気に入られなければ、その声を聴くことはできない。

 花たちは、ものすごく気難しいのだ。
 それでも、その気配は、微かな匂いで感じることができる。
 この庭の花たちは、とても大事に手入れされていて、どの花からも素敵な匂いが香っていた。ただひとつ、紫陽花の花を除いて。
 もち姫はウゾの言葉にふと首をもたげ、じっと紫陽花の花を見つめ、それから何も言わずにまた眠りに落ちた。まるで、そのことは聞きっこなしにしなさい、と言うように。

 あの6月の雨の日。ウゾはその紫陽花の青い花にそっと触れてみた。
 それはとても不思議な感触だった。花に触れたのに、石に触れたように硬質な手触りだったのだ。
 鬼の手は人間の手とは少し違う。物質の感触ではなく、魂の在り方を触るのだ。

「石、みたいだ」
 ウゾは思わず呟いていた。
 その紫陽花が、暦が変わって立冬の季節になっても、色褪せ、立ち枯れたままとなっている。ウゾは庭に降り、枯れた紫陽花の花に触れてみた。
 やはり、その印象は、あの夏至の日と同じだった。

 紫陽花の花は、こうして手入れをされた庭ならば、花が終われば剪定されているのが普通だ。好き好んで立ち枯れの様を楽しむこともあるけれど、剪定しなければ紫陽花はかなり大きな株になっていくので、小さな庭ではあさましい印象となる。
 これほどにきちんと手入れをされている庭なのに、紫陽花だけがまるで生きていないかのように暗く感じる。そう、この紫陽花がニンゲンであれば、もうすっかり鬼になっているかのように。

 でも。この棲む精のいない紫陽花だって、何年も、何十年も一生懸命花を咲かせているうちに何かを思い出すかもしれない。だから、冬にはこの花の根の面倒も見てあげなければ。
 ウゾがそんなことを考えながら紫陽花の周りをぐるぐる回っていると、すっと縁側に面した部屋の障子が開いた。

「もち」
 この家に住む老婦人の声だった。青い浴衣を来て、髪を結いあげていたが、幾らかまとまりが悪くなって艶を失った髪は解れて肩に落ちていた。
「お前、この人の傍にいてやっておくれ」

 もち姫はゆっくりと立ち上がり、普通の猫みたいに少しお尻を下げて前足で伸びをしてから、老婦人の傍をすり抜けるようにして部屋に入っていった。
 老婦人が障子を閉めようとすると、中から弱々しい声が聞こえた。
「いや、お前、風が気持ちいいから、開けておいておくれ」
「十一月とは言え、もう立冬なのですよ」
「庭の景色を見ておきたいんだよ」
 ウゾは思わず紫陽花の影に隠れて、そっと気配を窺った。

 この家のご夫婦、つまりもち姫の飼い主のことは、ウゾも知っているようで知らなかった。
 そもそも、ニンゲンが鬼を見てしまったら、その人の死期に影響するとも言われているので、ウゾたち鬼は、事情がない限りニンゲンとの接触を避けている。もしも自分勝手に面白半分にでもニンゲンを脅かすようなことをしたら、そのことは鬼の規律を守るサイバン長に筒抜けていて、自分への厄災として降りかかってくるからだ。
 唯一許されるのは、特別なバイトの時だけだ。つまり、たまにふざけたニンゲンを脅しておくために「オバケ」を演じるバイトのことだ。それでも、そのニンゲンの死期には影響しないように最善の注意を払っている。

 だからウゾも、彼らに見られないように、慎重に振る舞う必要があった。特に死の床にあるニンゲンが鬼を見ると、その人の魂が吸い上げられてしまうというのだ。
 ニンゲンからは死角になるように、そっと障子の影に隠れて覗きこんでみると、この家の主人と思しき老人が、まさに死の床に横たわっていた。

 傍には老婦人が座っていて、黙ったままその人の手を握っている。どちらも老いて皺の多い手には、刻み込まれた年月の重さが宿っていた。
 もち姫は、死の床に就く老人のもう一方の手が届く辺りに、そっと横になって、静かに見守っていた。
「もち、この人のことを頼んだよ」
 そう言いながら、老人の手がもち姫の背中を撫でていた。

「お前はよくこの人のことを知っているから、間違いはない。私ももう決めているのだ。だから安心をしておくれ」
 それから老人は庭の方を見た。穏やかで優しい表情だが、静かな決意を読み取ることができた。

 その時、その老人の目がウゾを捉えた。
 しまった。
 ウゾは慌てて障子の影に隠れた。

 しばらくの間、一見のところは何の変化もなかったろう。だが、微かな変化はウゾの耳、ニンゲンのものではない鬼の耳にははっきりと感じることができた。
「さて、そこの小鬼よ。心配しなくてもよいから、こっちへおいで」
 ウゾはびくっとした。まさかこんなところで、死にゆく人に見られてしまうなんて。またどんな罰則がタタラから振りかかってくることか!
「ウゾ」
 もち姫の呼びかける声も聞こえた。

 ウゾは障子を背中にしたまま、一旦きゅっと目を瞑り、それから目を開けた。石のように静かに立ち枯れた紫陽花の花が、目に入った。
 ええぃ、もうままよ。
 ウゾは障子から顔を出した。

 老人はもち姫の背を撫でていた。その目はウゾと、ウゾの背中の先の紫陽花の花を見つめていた。老婦人は黙ったまま、感情をまるきり見せることもなく、死にゆく人の手を握りしめていた。ウゾのことは見えていないようだった。もち姫もまた、ウゾのことが見えないように振る舞っていた。

「そうか、小鬼が確かに見えるということは、私に時が来たということだろう。なに、心配はいらない。私は既に三途の川の渡し守と閻魔様に挨拶を済ませてあるのだよ。おそらく私が選んだことは、この先、私が成仏するためには差し障ることだろう。あるいは、その結果として、成仏を遂げることができなくなるかもしれない。しかし、これはもう覚悟の上のことなのだ。私はこの人を守るために、立ち枯れることにしたのだよ」

 ウゾはぽかん、としていた。意味が理解できなかったのではない。すでにそのような人を知っていたからだ。
「それはだめだよ。とても苦しむことになるんだから!」
 ウゾは思わず叫んでいた。
 しかし、老人は優しく微笑むばかりだった。
「小鬼さん、少し私の昔話を聞いてくれるかい」
 ウゾはちらりともち姫を見た。もち姫は小さく尻尾を動かしたが、ウゾには背中を向けたままだった。ウゾはそっともち姫の横に座った。

「本当に、障子を閉めましょう」
 老婦人が困ったように言った。十一月の風は、確かに、死にゆく人には冷たいだろう。
「いやいや、最期まであの花を見ていたいのだよ」
 老人はウゾを見ていた。そしてそのウゾの背中の先には、紫陽花が、何もかも失ってもなお凛とした姿で立ち枯れていた。

「私はこの人の夫ではないのだよ。そう、この人の夫は、この人を置いて戦争に行き、そのまま帰らなかったのだ。けれど戦死したわけでは無い。帰国したが、その時には別の女性と出会い、ここには戻らなかったのだ」
 老人は、弱々しく少し首を傾げて、老婦人の方を見た。それからまたウゾの方へ視線を戻す。

「私はね、小鬼さん、戦後のごたごたの中で、貧しく苦しかったために、ふとした過ちで人を殺めてしまい、逃げていたのだ。貧しさやひもじさが人殺しの言い訳にはならないことは分かっている。けれど、あの時は何とかして生き伸びようと必死だった。追い詰められた私を、この人は、戦争に行っていた自分の夫が帰ってきたと言って庇ってくれた。本当のご主人が帰って来るまで、という約束で、私はこの人の夫だと名乗ることになった」
 老人は穏やかな笑みを浮かべた。

「この人は笑うこともなく、いつも寂しげだった。ただ黙って日々の苦役をこなし、ただ黙って生きることの辛苦を耐えていた。誰を恨むこともできずに、ただ石のように時が過ぎるのを待っているように見えた。それでもこの人は、女一人で、強い風に向かって立っていた。その姿を見た時から決まっていたのだよ。私は死して屍になってもこの人を守ろうと。この人が、帰らぬ夫を待ち続けて心を石のようにしていたのだとしても、私はただ傍でじっと立って、強い風からも、冷たい雨からも、刺すような陽からも、この人を守ろうと。たとえ身体が朽ちても、この人の命ある限り、私はこの人を守るのだと」

 あ。
 ウゾは不意に振り返り、紫陽花を見た。そうか、だからあの紫陽花は、この老婦人の心のままに石となっていたのだ。
「でも、そんなことをしても、この人の命だって、もうそんなに長くないんだから。先にジョウブツしてあの世で待っていたっていいじゃないか」
 老人はまた、優しく微笑んだ。

「手を触れることもなく、同じ床に入ることもなく、六十年以上の時を過ごしてきたのは、ただこの人の傍にいたかったからなのだよ。この先も、ひと時も目を離したくないのだ。それがどんなに苦痛であっても」
「彼女は、本当のご主人が自分を捨てて行ったことを知っているの?」
「どうだろうね。それはこの人にしか分からない」
「あなたはこれでよかったの? この人生で」
 他人の身代わりとなり、愛する人に愛されることもなく、ただ傍にいるだけの人生。ウゾにはそれがどういうものか、想像もできなかった。

 もち姫を撫でていた老人の手が、そっとウゾの方へ伸ばされた。
 もち姫は、ウゾに対してもそうであるように、誰かの選択や想いを否定することも、自分の意見を押し付けることもなかった。ただ、静かに見守っていた。
「私の宝はこれだけだよ。これほどに悔いのない人生はなかったと確かに思えること」

 その時、老婦人の両手が強く、老人の手を握りしめた。強く、優しく、まるで彼女自身の命を共に重ねるように。
「風が強くなってきましたよ、あなた」
「あぁ、本当だねぇ」
 


 人には、それぞれの生き方があり、それぞれの死がある。
 ジョウブツしなくてもいい、とは思わない。でも、必ずしも、望ましく順風満帆な人生を送るわけでは無く、理想的な死を迎えるとは限らないのであれば、その人が自らをまっすぐ見つめて出した答えにこそ、意味があるのかもしれない。

「あれ? 花を切ったの?」
「えぇ、こんなことは私がここに来て初めてのことね」
 ウゾが次にもち姫の家に行った時、あの立ち枯れたままの紫陽花の花は切られて、木も短く切り戻されていた。
「これでいいのよ。切り戻した方が、来年またもっと綺麗な花が咲くでしょう」
 あ。ウゾはくんくんと鼻を鳴らした。紫陽花の匂いがする。花の精が戻ってきたのだ。

 その紫陽花の前に小さな石が置かれていた。石は、いつも誰かの手が撫でているかのように、つるりとしていた。その季節になれば、石の表面に紫陽花の花が映るかもしれない。
「お墓みたいだね」
「そうね。石には魂が宿るというから」
「あのお爺さんはどんな人だったの?」
「そうねぇ、いつもこの縁側に座って、煙草を吹かしていたわ。私が縁側にいる時は、煙草を遠慮して、私の背中を撫でてくれていた。手が器用で、歳をとっても、色んなものを自分で直していたわね。箪笥や椅子や、色々な道具を」
「おばあさんは元気?」
「えぇ。いつもと変わらないわ」
 そうなんだ。ウゾは何だか少し安心した。

「ウゾ、花守には少しだけ猶予があるのよ」
「猶予?」
「そう、花を守るものは、ひとつの祈念についてのみ、それが満たされるまでの一定期間であれば、この世に留まり続けることを許されるの。もちろん、他の誰かと話すこともできないし、その場所を動くこともできないなど、決まりごとは多いし、自分勝手な祈念は許されないけれど」
 そうなのか。ウゾはほっとした。あの人はそんなことは知らなかったと思うけれど、きっとエンマサマが認めたに違いない。

「ところでウゾ、お前、サクラひとりに仕事を押し付けているんじゃないでしょうね?」
「まさか。でもサクラちゃんの方が手際はいいし、それにすごいんだ。サクラちゃんって、虫とか鳥とかを思いのままにして、ネットワークも簡単にできちゃって。具合の悪い花がいたら、すぐに連絡が来るし」
「まぁ、やっぱり人任せにしているのね。サクラはあなたに迷惑をかけたと思っているから、一生懸命なのよ。全く、この子は……」

 それはもち姫の誤解だとウゾは思った。
 だって、サクラちゃんは本当にすごいんだ。
 ウゾはこの間、聞いてしまった。ヒタキがサクラちゃんのところにやって来て「姐さん、テツガクノミチのソメイヨシノがちょっと具合が悪いそうで、姐さんの応援を待ってるらしいですぜ」って言っているのを。
 あれってゴクドーのなんとかってやつじゃないの?

 だから、僕は僕で、サクラちゃんを殺してしまった犯人を見つけ出さなくちゃ。
「じゃ、もち姫、また来るね」
 ウゾはもち姫に挨拶をして、垣根を潜った。

 垣根を潜りかけた時、ふと、視界の隅に、この家の主人だった老人が、紫陽花の前の小さな石に腰かけているのが見えた。
 老人は煙草を吹かしながら、切り戻されて花も葉もひとつもない紫陽花の木をじっと見つめていた。
 静かに微笑みながら。
 風が吹いて、花も葉もない紫陽花の木から、命の優しい香りがウゾに届いた。

連作短編【百鬼夜行に遅刻しました】秋(2)・立ち枯れの紫陽花 了
~ウゾさんともち姫さんに捧ぐ~



わざわざ解説することはないのですけれど、ウゾくんとご老人の会話はもち姫には聞こえていますが、老婦人には聞こえていません。……あ、余計でしたね。

次回は、今度こそ、冬に『忍冬(すいかずら)』でお目にかかりましょう。
サクラちゃんの死の真相に、ウゾくんが迫ります!

……あやうく【死者の恋】のネタバレ話を書くところだった……

Category: 百鬼夜行に遅刻しました(小鬼)

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【迷探偵マコトの事件簿】(19) マコト、クリスマスパーティーに行く~誘拐犯をやっつけろ!~ 

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(イラスト:小説ブログ「DOOR」のlimeさん。著作権はlimeさんにあります。無断転用はお断りいたします。)
なんと、今見返してみたら、前回の【迷探偵マコトの事件簿】は5月でした。そんなにマコトを書かなかった? と思ったら、8月にオリキャラオフ会があったので、そこで散々書いていたのでした。カテゴリが違うとこになっていたのですね。
で、久しぶりにマコトの登場です。今回はようやく、ちょっとだけ事件簿的なお話? 何よりもクリスマスに間に合ってよかった!

<登場人物>
マコト:茶トラのツンデレ仔猫。大きくなったらヒョウになるつもり。
タケル:ちょっぴりSだけど優しいマコトの飼い主。
カンタ:水族館で誘拐されそうになった少年。
<用語解説>
半にゃライダー:日曜朝のヒーロー番組。半人前(半猫前?)の仔猫が般若のお面を被ったら強くなって、相棒の飼い主と一緒に世界征服をたくらむ怪人をやっつける物語。現在シリーズ『4』を放映中。神社で飼われている猫のヒデが禰宜の大国主水と一緒に、強大な悪と戦っている。マコトはこの番組の大ファン。君も応援してね!
<状況説明>
マコトは子どもたちにいたずらされているところをタケルが拾ってきたねこ。だから、今でもちょっと子どもがキライ。


【迷探偵マコトの事件簿】
(19)マコト、クリスマスパーティー in 水族館に行く~誘拐犯をやっつけろ!~

水族館

[scene1] マコト、今年はパーティーピーポーになる
にちようび。
ぼくは早おきして、タケルといっしょに半にゃらいだーを見るよ。
きょうのおはなしはね、こねこがショップ・ショッカーのカイジンにさらわれて、ヒデとモンドがたすけにいくおはなしだったの。
こねこはね、さらわれそうになったとき、メジルシにかじりかけのニボシを落としていったんだよ。だからヒデとモンドは、すぐにこねこをさがすことができたんだ。
あれ、かってにおっこちたんだっけ?
……よくわかんなかったけど、ま、いいか!

『いいか、マコト、お前もさらわれそうになったら、めじるしを落としていくんだぞ』
でもぼく、オイシクないから、きっとさらわれないよ。
それにニボシが落ちてたら、すぐにたべられちゃうとおもうんだ。

あ、タケル、ゆうびんやさんがオテガミもってきたよ。カキトメ~
ね、なんのオテガミ? 
……あ、ぼく知ってる!
しろヤギさんからオテガミついた~、くろヤギさんたらよまずにたべた~
チガウの? オテガミ食べちゃだめなの?
『申し込んでいたクリスマスパーティーのチケットがあたったんだよ』

……そうなんだ。タケル、今年もぱーてぃーに行くの?
ふ~ん、行くんだ。
いいもん、どうせ、ぼくはおるすばんでしょ。
『あ、いじけただろ。実は、ねこ同伴OKのパーティーなんだよ。今年は一緒に行こうな』
え? 今、なんて言ったの? ねこといっしょにくりすますぱーてぃ?

……ねこもいっしょ!
ぼく、ぱーてぃーぴーぽーになれるの?
わぁ~い!

そうなんだ。タケルがオモウシコミしてくれたぱーてぃーは、ねこもいっしょに行っていいんだって!
ばしょはすいぞくかん! おさかながいっぱいいるとこ!
わ~いい! ぼく、ぱーてぃーぴーぽーになる!!

それからぼくは、まいにちねる前にタケルに本をよんでもらったの。
ぼくは、手で本をおさえる。
ね、これは?
『えい』
これは?
『さめ』
これは?
『いわし』
じゃ、これは?
『ぴらにあ』
ぴらにあ、おいしい?
『たぶんおいしくないよ』
これもきっと、おいしくないね!
『いや、タコはうまいんだよ』
たこ? これタコ、なの? こんなにぐにゃぐにゃ~??
『そうか、お前、切り身しか見たことないもんな』
きりみ~? 

はぁ、おべんきょうって、つかれるね。

じゃ、こんどはこっちの本をよんで。
『サンタクロースはトナカイのソリに乗ってやってきます。良い子にしていたら、煙突から入ってきて、プレゼントを置いていってくれるのです』
ぷれぜんとって何?
『その子がほしいものだよ』
ほしいもの? ニボシ? ねこまんま?
『特別にうまいかつ節かもしれないぞ』
あ、でも、たいへんだ! おうちにエントツがないよ!
『大丈夫。サンタクロースは、いい子のところには、エントツなんかなくても、入って来れるんだよ』
さんたさんって、マホウツカイなの?
タケルはぼくのあたまをなでた。
『サンタさんに何が欲しいか、オテガミ書かないとな』

だから、ぼくはにくきゅうもじで、さんたさんにオテガミを書く。
さんたさん、ぼく、おねがいがあります。ニボシはいりません。ぼくをとなかいのソリにのせてください。
そうしたら、お空から、いっぱいおさかなが見えるでしょ。
タケル、ちゃんとオテガミ出しといてね。
あ。それから、サンタさんに、オテガミ食べちゃったらだめだよ、って言っといてね。

[scene2] 水族館に行こう!
今日は、すいぞくかんのくりすますぱーてぃーの日。
タケルはいつもよりちょっとオトコマエのかっこう。ぼくはいつものちゃとら。
でも、ちゃんとおふろにはいったよ!
それから、いっしょに車にのって、おでかけしました。

ぼくはジョシュセキからお外を見る。
きらきらきら。もう夕方だから、すこし暗くなってきた町に、たくさんきらきらが灯ってる。きらきら、きれいだね。びるにも、木にも、青とか白とか赤とか、きらきらいっぱい。

信号ですとっぷしたとき、首をのばしたら、となりの車のまどから誰かがのぞいてた。
ぼくはあわてて首をひっこめる。
びっくりした。目が合っちゃったよ。

もういっかい、そ~っと首を出してみる。
わ!
ぼくはもういっかい、あわてて首をひっこめる。
こどもが、こっち見てた。
ぼくはしょんぼり。

お外を見たいけれど、こどもはきらい。
タケルがぼくの方をちらっと見て、それからあたまをなでた。
『大丈夫だよ。あの子は君をいじめないから。それに、もしも誰かがお前をいじめたら、俺がいつだって半にゃライダーのお面を持って駆け付けてやるからな』
うん、ぼく、しってるよ。
でも、ちょっとだけ、やっぱりこどもはこわいんだ。

『みなさん、クリスマスパーティー in 水族館へようこそ。今日はねこちゃん同伴OKのパーティーです。館内は自由に移動していただいて構いませんが、外に出る時は必ずドアを閉めてくださいね。お外に行く時は、ねこちゃんとはぐれないようにしてください。もしもねこちゃんが迷子になった時は係員にお知らせくださいね。ねこちゃんと飼い主さんは同じ色、同じデザインのリボンをつけておいてください。ねこちゃんは首輪の後ろに、飼い主さんはブレスレットにしてね』

ぼく、クビワきらい。でも今日はしなくちゃいけないんだって。
『はい、マコトくんには青いリボンだね』
かかりいんの人がおリボンをくれた。
タケルはぼくのクビワに青いおリボンをむすんだ。青の中に白いお星さまがいっぱい、きらきらしてる。タケルもおんなじ、青いおリボンのブレスレット。
おほしさま、きらきら。
わ~い、おそろいだね。

まずはお外でイルカのショーをいっしょに見るよ。
わ~、イルカ、おっきい!
ざっば~ん!!
すごいね! イルカってお空を飛ぶんだね!
ざっば~ん!! ざっば~ん!!
こんどは二ついっしょにお空をとんだ!
わぁ、すごい!!
ぼく、となかいのソリじゃなくて、イルカのソリがいいなぁ~!!
イルカショー
イルカのショーがおわったら、次はすいぞくかんたんけんにしゅっぱ~つ!
わ。ひらひら~って大っきいはねがついてる! えい? エイ! あ、おいしそうなタイが泳いでるよ! こっちのすいそうは……おさかな、どこにいるの? あ、砂の中にめだま! かれい。こっちは、いわしがいっぱい、ぐるぐるまわってる~。わ~い。ぼくも目が回る~。こっちは何にもいないよ。あ、出てきた! ちんあなご~。ね、こっちにお星さまがある! チガウの? ひとで! えっと、ぴらにあは、こわいから、ちかづいちゃだめ。たこはぐにゃぐにゃ~。こっちは、イカだって! キリミは小さいけど、ほんとはおっきいんだね~。わ、しろいふにゃふにゃがいっぱい~。これなに? くらげ! ちょっとキモチワルイ~。
わ~い!

すいぞくかん、たのしいね~。
うわ! こんどはすっごくコワイ顔のおっきいのが来た~
じょーずだ~!
わ~、にげろ~~!!

……あれ? タケル? どこ?

[scene3] 迷子の仔猫
タケル、どこいったのかな。
あの~、青と星のおリボンの人、しりませんか~?
ぼくはとことこあるく。
でも、すいぞくかん、とっても広いんだ。それに、今日は人がいっぱい。ねこもいっぱい。ぼくとちょっと似たねこだって、いっぱいいる。
でも、タケルもきっと、ぼくをさがしてるよね。

ぼく、つかれちゃった。すいぞくかん、つまんない。

あ。
すみっこの暗がりで、つかれてすわってたら、おとこの人とおんなの人がやってきた。
かかりいんの人かな?
『どうして逃がしちゃったのよ。こんなにたくさん猫がいたら、何が何だか分からないじゃない。せっかく似たような猫を見つけておいたのに』
『お前がちゃんと捕まえておかないからだろ。あの猫であの子どもを誘いだす計画だったのに。おや、この猫、飼い主とはぐれてるんじゃないか』
『あら。私たちの猫とよく似てるじゃない』

あの。かかりいんの人ですか? ぼくね、タケルとはぐれちゃったの。
タケルは、ぼくとおんなじ青とお星さまのリボン、してます。
タケルのところにつれてって。
『よしよし。こっちにおいで』
かかりいんの人がぼくをだっこした。
『あ、子どもが来たわよ』

……あ。あの車のまどからのぞいてたこどもだ!
わ~、ぼく、こどもきらい~。
『あ、にゃんた!』
こどもがぼくとかかりいんの人のほうへ走ってきた。

『おや、これは君の猫かい?』
『でも、君は青と星のリボンをつけてないわね』
『僕の猫じゃないけど、そっくりの猫なんだ。僕のにゃんたは死んでしまったけど、ここに来たらにゃんたにそっくりな猫に会えるかもって、お母さんが』
『そうなんだね。でも、この猫ちゃんには飼い主さんがいるんだよ。はぐれちゃって、可哀相だよね。一緒に探してあげないかい?』
『うん!』

『そう言えば、さっき、このねこちゃんと同じリボンの人を外で見かけたわ』
『じゃ、外を探してみよう』
かかりいんの人がぼくを抱っこして、子どもといっしょにあるきはじめた。
あれ? お外に行くの? だって、ぼく、タケルのところに行くんだよ~!
お外にはかい主のひとといっしょでないと、行っちゃいけないんだよ~!
わ~~~~!!!!

ぼくはあばれた。だって、お外に行っちゃいけないんだ!
がぶって、かんだら、かかりいんのおとこの人がぼくをぎゅっとつかまえた。
『にゃんた、おこってるの?』
『うん、飼い主さんと離れて不安なんだね。君が抱っこしてあげてくれるかい』
『うん!』
いやだ~!!! こどもきらい~!! やめて~~!!

ぼくは思いきりあばれた。でも、ちっさいぼくがあばれても、大したことがなかっんだ。
こどもの手にかみつく前に、かかりいんの女の人がぼくをタオルみたいな布でくるんとまいた。
そのしゅんかん、ひらり、とぼくの首から何かがおちた。
そして、何にも見えなくなった。

『早く飼い主さんを見つけてあげないと。不安だから暴れるのよ。ほら、君も一緒に来てあげて』
『うん!』
ちがうんだ~、タケルはぼくをおいて、お外になんか行かない~!!

[scene4] マコト、誘拐犯とたたかう
でも、後の方で、お外に出るドアがばたん、と閉まる音がした。
わ~~~、ぼく、どこにも行かない~~~!!
『駐車場の方へ行ったのかしら。車、見に行きましょう。寒くない?』
『うん。にゃんたの飼い主さん、帰っちゃったのかな』
タケルはぼくをおいて帰らないよ! それに、ぼくはにゃんたじゃない~!!

ぼくは布にくるまれてて、何にも見えなかった。
車のドアが開く音がする。
『ね、ちょっと君、ねこちゃんが逃げないように抱っこしていてあげてね。ねこちゃんを車に乗せてから、飼い主さんを探しに行こう』
『うん』
『でも、寒いから、君もいっしょに車に乗って、ねこちゃんといっしょに待ってて』

ぼくは車にのっけられた。ばたん、と車のドアがしまる音。
その時、ぼくは布から飛び出した。
こどもがびっくりして、ぼくを見てた。
『やっぱり、にゃんただ! にゃんた!』
だから、ちがうって!
ぼくはにげた。でも、車のドアはしまってる。子どもは大きな車の中でぼくを追っかけてくる。
『にゃんた、あそぼうよ!』
ぼく、にゃんたじゃないし! こども、きらい!!

その時。うんてんせきとじょしゅせきのドアが開いて、かかりいんのおとこの人とかかりいんのおんなの人が車に乗ってきた。
エンジンがかかる。ドアがロックされるカシャ、という音。
ぼくの耳が、ぴんと伸びる。あれ? なんか、おかしくない?
子どもがぼくをつかまえた。
車が動き始める。

子どももぼくをだっこしたまま、フシギそうにかかりいんの人を見た。
どうなってるの? どこ行くの? 
車がおおいそぎでうごいてる。カーブをまがる。
ちゅうしゃじょうのゲートが近付いてくる。
『急いで!』
おんなの人がさけんだ。

も、もしかして、これって、ゆうかい~????
このあいだ、半にゃらいだーで見たのとおなじだ~~!!!!
わ~、ヒデとモンド~、たすけにきて~~~~~!!!!
じゃなくて、タケル~~~~~~!!!!!

その時、ぷぷぷ~って大きな音がして、ぱぁ~っとものすごく明るい光がましょうめんからぼくたちをつつみ込んだ。
かかりいんのふりをしていたおとこの人が、アクセルをふみこんだ。ゲートをつきやぶろうとしてる。でもすぐに、がくん、と急ブレーキでとまった。
おとこの人がうんてんせきから後ろのざせきにやって来て、ポケットから何かを出した。
きらって光るのは……ナイフだ!
『なにするの!』
おとこの人は、ぼくを抱っこしている子どもをつかまえようと手をのばす。
『大人しくしろ!』
わ~~~~!!!!!
びっくりしたぼくは、思い切り爪を立てて、ねこキックをかました。
『にゃんた!!』
つぎはパンチ! ぼくは目をつぶって思い切りシャってひっかいた。

ぎゃ~~~~~、いたぁい~~~~~~!!!!

そのとき。
がしゃん! と大きな音がして、窓ガラスがわれた。

[epilogue] 君はいつだって俺のヒーロー
「感謝状。大和マコト殿。あなたは犯人逮捕のために素晴らしい活躍をして、カンタくんを誘拐犯から守りました。よってここに、特製カツブシ1年分を贈ります。おい、マコト、嬉しくないのか?」
っても、猫には関係がないか。しかも、今はそれどころではないのだ。

マコトは今にも「びえ~っ」と泣きそうな顔で俺を睨む。
火事場の馬鹿力というのか、本人としては必死で逃げようとしてねこキックとねこスクラッチをかました時に、肉球を傷つけてしまったのだろう。それほど深い傷ではなかったが、ナイフで切られてしまった。マコトの剣幕に驚いた子どもが犯人に噛みついたと同時に、駆け付けた俺と水族館の警備員が車の窓をたたき割ったのだ。
誘拐されそうになったカンタくんは海産関係の大きな会社の社長令息で、誘拐犯はその家のことをよく知っている人間だった。カンタくんが可愛がっていた仔猫のことも知っていて、その猫とそっくりな猫を捕まえて来てパーティーに参加し、カンタくんを油断させて連れ去ろうとしたのだ。

薬をつけるのを嫌がるので、マコトの肉球は腫れている。猫の分量の抗生剤を飲ませようと、ねこまんまに混ぜたら食べない。
タケル、ねこまんまに毒を入れた~、とでも言いたそうな顔で俺を見る。
むりやり手を摑まえて薬を塗ろうとしたら、思い切り引っかかれてしまった。
マコトは自分が引っかいた俺の傷を見てびっくりしたようになり、そのまましょぼんとして、俺から離れて丸まってしまった。

やれやれ。
俺は、マコトのために動物病院でもらった薬を出してきた。マコトがびくっとして俺を見る。絶対塗らせないぞ、という顔だ。
俺は鼻歌で半にゃライダーのテーマ曲を歌いながら、自分の手の傷にマコトの薬を塗った。それから包帯を巻く。
そして、猫用にもらって来た抗生物質を3つほどまとめて自分のご飯にかけ、マコトの前で美味そうに食ってやる。

おくすり、しみない? おくすり、にがくない?
今にもそう問いかけてきそうな顔で俺を見ている。
「薬、ぬってみないか?」
マコトがべそをかきながら、ちょっとだけ俺の方へ手を出してきたような気がした。

諦めたのか、自分が引っかいた俺の傷を申し訳ないと思ったのか、おとなしく薬を塗られて包帯を巻かれ、猫の分量の抗生剤を飲む。ちょっといや~な顔をしたけれど、我慢しているみたいだった。
そして、疲れたのか、布団基地に丸まって眠ってしまった。
ぼく、まだおこってるんだからね。そんな顔をしている。

はぐれてしまって、悪かったよ。他の迷子の猫に気を取られていたんだ。
俺はマコトの小さな頭を撫でながら、カンタくんが描いてくれたマコトの似顔絵を見つめた。
ずいぶんとかっこよく描いてくれている。それもそのはずだ。
なぁ、マコト、お前は知らないだろうけれど、あの時、お前はカンタくんのヒーローだったんだぞ。

あの後で、カンタくんのお母さんが連絡をくれて、何回もお礼を言ってくれた。
『怖かったでしょ、って言ったら、『にゃんた、じゃなくて、マコトが面白かったから、ぼく、全然怖くなかったよ』って。にゃんたというのは、死んでしまったあの子の猫なんです。にゃんたが死んでしまってから、あの子、学校にも行けないくらい落ち込んでいて。あの子が学校に行っている間に死んじゃったものですから。だから少しでも気持ちが晴れたらって、猫たちが集まるというパーティーに参加したんです。マコトくんにお礼を言っておいてください。何よりも、また猫を飼ってもいい? ぼく、ちゃんと学校に行くから、って言ってくれたのが嬉しくて。早速、茶虎の猫を探しに行きます。お礼に夫の会社の最高級ニボシを送ります』

俺はマコトの包帯の上に、ピンチの目印にマコトが落としていった青と星のリボンを結んだ。
このリボンが駐車場に近いドアのところに落ちていたから、すぐに探すことができたのだ。
いっしょに見た半にゃライダーの話を覚えていた……わけではないだろうけれど、結果的に、感謝状をもらえるくらいの大活躍につながったのだ。
そんなことを知らないマコトは、情けない顔で、肉球が痛い~、クスリは嫌~、なんて顔をして、夢の中でもぐずっている。

なぁ、マコト、もうひとつ、お前が知らないことを教えてやろうか。
感謝状をもらうような大活躍をしなくても、情けない顔でめそめそしていても、こうしてここにいるだけで、俺にとってお前は世界一のヒーローなんだよ。
そう、きっと、お前は気が付いていないだろうけれど。
俺は自分の包帯の上にも青と星のリボンを結び、同じリボンを結んだマコトの手の上に自分の手を重ねた。
さて、最高級ニボシとカツブシ以外に、一体何をクリスマスプレゼントにしてやったらいいのだろう。そんなことを考えながら。


りんりんりん、って鈴がなってる。ぼくはむっくりと起き上って、窓から外を見る。
あ! となかいのソリだ! じゃなくて、イルカのソリだ!!
ソリがぼくの窓のまえで止まる。ソリにはサンタさんが乗ってる!
とんとん、って、窓をノックするサンタさんの手に、ほうたいと、青と星のリボン。
窓を開けようと、のばしたぼくの手にも、ほうたいと、青と星のリボン。
窓が、じどうドアみたいにひらく。
『メリークリスマス! マコト、行こうか!』
サンタんさんのタケルだ! じゃなくて、タケルのサンタんさんだ!
わ~い!! ぼくはイルカのソリにとびのった。

見上げると、お星さまの海には、ヒトデも、エイも、タイも、カレイも、タコも、イカも、イワシも、ピラニアも、サメも、クラゲも、いーっぱい! 
『さぁ、お星さまの海に出発!!』
クリスマスイブの夜、イルカのソリが星の海にかけあがった。

マコトから愛を込めて、Merry Christmas !!!


何とかクリスマスに間に合いました(*^_^*)
読んでくださって、ありがとうございます。
次はお正月。いつも北海道で美味しいモノ三昧のマコト。来年のお正月は、初めての沖縄で海に潜っちゃおうかな? タケルが猫用潜水服を特注してくれた、みたい?

<追記>
先日テレビでアマゾン川流域の人々の暮らし、という番組をやっていて、ピラニアは美味しい!って言っていました(^^) そうかぁ、美味しいのか……タケルは結構世界各国を旅していそうだから、実はピラニアくらい食べていると思うけれど……^^; しまった。

Category: 迷探偵マコトの事件簿(猫)

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連作短編【百鬼夜行に遅刻しました】冬・エリカ(1) 


月刊・Stella ステルラ 4・5月号参加 連作短編/不定期連載小説

おひさしぶりの【百鬼夜行に遅刻しました】です。しかも冬!
でもこのまま季節を待っていたらいつまでたっても終わらないので、もう季節合わせは諦めました。
きっと真夏に冬の話になるんだな。ごめんなさい。
しかも冬の花、予定変更でエリカです。

初めてさんもこれまでのお話は多くないのでよろしければ、お付き合いくださいませ。
→ 連作短編【百鬼夜行に遅刻しました】
今回のお話には「おさらい」も入っているので、割と入りやすいかもしれません(^^)



<あらすじ>
ニンゲンが亡くなって上手くジョウブツできない時、いったん鬼になる。鬼になって、百鬼夜行に108回参加すればジョウブツできるのだけれど、ルールが沢山あって、試験に合格しなければ本物の百鬼夜行には参加できない。
だからキョウトのゴショには、百鬼夜行学校があるのだ。
でも小鬼のウゾは、いつも試験に遅刻してしまって、これまでに3680回も試験に落ちている!
一体なぜウゾは遅刻してしまうのだろう? そして、ウゾはどうして小鬼になってしまったのだろう?
生と死の間で苦しむ人々を見つめ、花の精たちの助けを借りながら、ウゾは今日も……遅刻している!?
<登場人物>(名前のみを含む……「人」じゃないけど)
ウゾ:小鬼。遅刻の常習犯で、なかなか百鬼夜行本番参加のための試験に合格しない。
もち姫:ウゾが物心ついた時?には傍にいてくれた『知っている』猫。ウゾを見守っている。
サクラちゃん:バイクにはねられて死んでしまった少女の小鬼。イメージはハーマイオニー……
タタラ:百鬼夜行学校の教官。とにかくでかくて怖い。ミドロガイケの竜という噂も?
ダンゴ:ウゾが住むタダスの森のダンゴムシたち。語彙は少ないが、少しずつ学習している?


エリカ

【百鬼夜行に遅刻しました】冬・エリカ(1)

 ウゾ、チコク、チコク、チコク、チコク~~~!
 今日も、夕刻、いつもの時間になるとダンゴたちが騒ぎ始めたが、タダスの森のいつもの木のねぐらに、いつもネボウをしているウゾの姿はなかった。それもそのはずで、ウゾはここの所、毎日朝から(実のところ朝は鬼にとっては「夜」の始まりなのだが)、勤勉に出かけていたのである。

 と言っても、真面目に百鬼夜行学校へ登校していたわけではない。そもそも、学校の始業時刻は夜の刻だ。もっともウゾはそんな時間にはものすごく眠くて、とてもとてもずっと起きていて授業に集中するなんてできない。むしろニンゲンにとっての朝、特に午前中の方が、ウゾは元気に過ごすことができるのだ。

 この頃はウゾにも頼もしい味方がいる。
 去年の春、ひき逃げに遭って死んでしまったサクラちゃんだ。ウゾが出会った時、サクラちゃんは自分の死体がどこに埋められているのか分からなくて、ノッペラボウのまま彷徨っていた。危うくジョウブツの期限の七日を越えそうになっていたところを、ウゾと「知っている猫」のもち姫が助けてあげた。だから、本当なら鬼になんてならなくて済んだはずだった。

 でも、サクラちゃんは自分の死体を見つけた時に、どうしてバイクに轢かれちゃったのかを思い出してしまった。この世にやり残したこと、それは病気のお母さんにナカラギの桜の花びらを届けに行くことだった。そんなことをしている間に、期限の七日間が過ぎてしまったのだ。
 期限内にジョウブツできなかったら鬼になる。一度鬼になるとジョウブツはちょっと難しくなる。でも百鬼夜行学校に通って、試験に合格して、本番の百鬼夜行を百八回やり遂げたら、ちゃんとジョウブツできるし、優秀なサクラちゃんならすぐにでも試験に合格しても不思議じゃなかった。

 それなのに、何故かサクラちゃんもウゾと同じで、結構ダメなところがあるのだ。
 まず、ウゾと同じように遅刻の常習犯だった。それに意外に喧嘩っ早くて、成績表にマイナスがついているところがある。
 本当のところ、ウゾはちょっとだけ嬉しい。ウゾがジョウブツできる可能性は結構低そうだし、もしもサクラちゃんが先にジョウブツしてしまったら、ウゾはとってもさびしくなると思う。でも、そのサクラちゃんも遅刻の常習犯だから、やっぱりなかなか試験に合格できそうにないのだ。

 成績や試験に合格することが何なの。リッシンシュッセよりも大事なのは「ジツ」よ。
 サクラちゃんは鬼にしかできない、鬼にしか分からないことが世の中にいっぱいあるという。そして色んな妖怪、もののけ、式神、幽霊、お化け、妖精、猫、キツネにタヌキ、そんな連中と知り合いになって、まるで優秀な記者のように「シンジツ」の追及に余念がない。

 そんなサクラちゃんのおかげで授業の取捨選択は上手く行っている。サクラちゃんは、ウゾにとって出席するべき授業と少々サボっても問題のない授業をきっちりと確認してくれた。もちろん、百鬼夜行学校の授業はどれもとても大事な内容ばかりで、本当ならすべての授業に出席するべきだ。
 でも、こう見えてウゾは結構長い年月学校に通っている。本番の百鬼夜行のための仮免許試験には遅刻ばっかりして合格できないでいるが、一度は聞いたことのある授業が結構あったのだ。



 季節はすっかり冬になっていた。
 キョウトの冬は厳しい。底冷えがする。ただ気温が低いというよりも、足元に氷でも埋まっているのじゃないかしらと思うような冷え方なのだ。

 ゴショ近くの神社の井戸の中に住んでいる齢千余年というオバケガエルは、確かにキョウトの地下には巨大な水瓶が埋まっているのだという。その水瓶から少しずつ水を地上に送り出してくれているのが、水瓶の主・マンネンガエルだ。
 ニンゲンたちはこの水瓶の水によって生かされていることを十分には理解していない。

 その日の朝、ウゾの棲むタダスの森にはうっすらと霧が漂っていた。
 ウゾはえいっと起き上り、オニ体操を始めた。ニンゲン界ではボンオドリ、ふぉーくダンス、らじお体操、それにヨウカイ体操などなるものが時として流行するが、全てはオニ体操の影響だ。オニ体操こそが本家本元なのだ。一日の始まりに体操をして、身体をほぐし、自然界から鋭気を取り入れ、その日の無事を祈るのだ。
 それからウゾは今日もまた、あの暗い森の中に出かけた。

 サクラちゃんはバイクに轢かれた時にはまだ生きていた。でも、ひき逃げ犯はすぐに救急車を呼ぶこともせずに、サクラちゃんの身体を運び、森の中で首を絞めて殺してしまった。サクラちゃんは暗い土の下に埋められていたのだ。
 サクラちゃんの記憶はその辺のところ曖昧で、首を絞められる前に死んでいたような気がする、というのだが、何よりもすぐに救急車を呼んでくれていたら、サクラちゃんは助かったかも知れないのだから、首を絞めても絞めなくても、酷いことには違いはない。

 何よりも小さな子どもを不案内な森の中、人目のつかない土の下に埋めてしまったことは、死者への冒涜で、鬼からすると何よりも残酷極まりないことだった。そのせいでサクラちゃんは目も口も耳も塞がれて、死んでしまった自分を見つけることができなくなり、ジョウブツへの道を閉ざされようとしていたのだ。

 ウゾはサクラちゃんのお母さんに約束をした。必ずサクラちゃんをひき殺した犯人を見つけて償わせるから、と。お母さんは、サクラちゃんを殺したひき逃げ犯を呪って、自分はジョウブツもできずにこの世で苦しみ続ける本当の悪鬼になろうとしていたのだ。
 サクラちゃんには、ひき逃げした犯を捜してあげるね、とは伝えていない。お母さんと約束をしたことも。

 丁度、サクラちゃんはこの冬の間、学校以外にキョウト中の花や木の根の面倒を見るという大事な仕事に追われていた。これは百鬼夜行学校の鬼教官・タタラが、規則破りをしたサクラちゃんとウゾに課した罰則なので、本当はウゾも手伝わなければならない。でも、何かを察しているらしいサクラちゃんが、彼女のものすごい人脈(?)を生かして、あっという間に仕事を片付けてしまうので、ウゾの出る幕がないというのが現実だ。

 サクラちゃんはちょっとしたことも見落とさないようにと、一生懸命、花たちの面倒を見ている。花たちがサクラちゃんに心を開いていくのがウゾにもよく分かる。
 何故なら、ウゾには花たちと話ができるという特別な力があるからだ。
 もちろん、花たちは気難しいので、気が向かなければ答えてもくれないけれど。

 毎日、ウゾはサクラちゃんが埋められていた森へ行く。現場百回、という言葉があるが、ウゾは一千回だって通うつもりだ。
 犯人捜しを始めてからウゾにも分かったことがある。鬼だったら、魔法のような特別な力を使って犯人なんてすぐに分かるかというと、全然そんなことはないということだ。
 シンジツに辿り着くためには、鬼だって、ニンゲンだって沢山頑張らなければならないのだ。

 現場に百回行っても新しいことはなかなか見つからないけれど、毎日毎日通っていると、その場所にだけある特別な何かを感じるようになっていく。
 ここにはサクラちゃんの匂いが残っている。そしてそれに重なるように、もうひとつ、微かな匂いがある。
 花の匂いなのか、それとも別の匂いなのか、複雑すぎてウゾにはよく分からない。

 森に向かう途中、ウゾはいつもナカラギの桜の並木道に立ち寄る。
 キョウト植物園の近く、カモガワ沿いに並ぶナカラギの桜たちは、春ならばいつもやさしくウゾに挨拶をしてくれる。でも冬のこの時期、桜たちは忙しく身を護っているので、ウゾに気が付く余裕がない。

 ニンゲンは、花たちは咲いている時が一番美しく、一番働いていると思っているかもしれないが、実際には花以外の時期の方がその中身は美しい時もあるし、もっともっと頑張っている時もある。彼らが一番忙しいのは花を開く少し前だ。
 今はまだ蕾は固い。代謝を低くして、じっと耐えるのもまた大変なのだ。ウゾはそれぞれの木の邪魔をしないようにゆっくりと様子をうかがいながら歩いていた。

「あれ?」
 その時。
 ウゾは目を閉じて鼻をヒクヒクさせた。まだ匂いを秘めているナカラギの桜たちの気配の中に、別の花の匂いを見つけたのだ。
 匂いは、川沿いに並ぶ桜の木々のずっと先の方からほんのわずかに香るだけだ。ともすれば冬の風に巻かれて、川に沈んでしまったり、山の彼方へ吹きあげられてしまう。ウゾでなければ気が付かなかっただろう。
 冬に咲く花は少ない。だから近付く前からウゾにはある程度予想がついていた。
 案の定、橋を渡って少し歩いた先に咲いていたのは、エリカの花だった。

 その花の前に、一人の女性が立っていた。
 女性というよりも、まだ少女だ。ニンゲンで言うなら十代の半ば、高校生くらいだろか。白い肌は透き通るようだったが、少し血管の浮いた頬は幾分か荒れていた。ゆるく三つ編みになった淡い茶色の髪が、右の肩に触れて震えていた。痩せた細い身体で、ふんわりとした白いワンピースのようなものを着ていなかったら、本当に消えてしまいそうなほど頼りない。

 少女はすっと細い手を伸ばして、エリカの花に触れた。その指先が微かに光る。
 ようやくヒガシヤマから顔を出した太陽の光が跳ね返ったのだと思ったが、ウゾが見た光は、まるで蛍のようにぽわんと光っては消えて、また弱い光を放っては消え入った。

 ウゾは、エリカの花の精かしらと思った。少女は幻のように美しかったからだ。花の精も色々な姿を見せるので、ウゾにもつかみどころがない。
 ほんの微かに、ウゾの知っている何かの匂いが鼻の側を通っていった。ウゾは、その匂いを追いかけるように、少女の細い腕へと視線を移動させた。
「あ」
 ウゾは思わず声をあげてしまった。

 少女の腕からは異質な細い管が伸びていた。それを目にしたとき、ウゾはしまった、と思った。
 その時にはもう少女と目が合ってしまっていた。
 ウゾは彼女に近づきすぎていた。まさか少女が鬼を見ることができるとは思っていなかったのだ。いや、花の精ならウゾを認めても不思議ではない。一方で、普通の人間なら鬼を見ることはない。

 やばい。こんなところでニンゲンに見咎められるなんて! 罰則どころの騒ぎじゃない。
 もう遅いのは分かっていたけれど、ウゾはくるりと踵を返して、脱兎のごとく逃げ出した。
「あ、待って!」
 後ろから少女の頼りない声が追いかけてきたが、とても立ち止まることなんてできなかった。



連作短編【百鬼夜行に遅刻しました】冬・エリカ(1)→つづく

短めになっちゃった。しかも思い切り「出だし」のみ。
あまり先にならないように更新したいと思います(*^_^*)
この冬で、サクラちゃんの死の事情が判明し、春ではウゾの秘密がついに明かされる! かな?

Category: 百鬼夜行に遅刻しました(小鬼)

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【迷探偵マコトの事件簿】(20) マコト、ねこねこ検定に挑戦する 

霑ェ・ォ郢晄ァュ縺慕ケ晁肩・シ迢冂onvert_20130824193448_convert_20140414070547
(イラスト:小説ブログ「DOOR」のlimeさん。著作権はlimeさんにあります。無断転用はお断りいたします。)
久しぶりのマコト、今回はちょっとお勉強をしてみることにしたようですが、おバカなのに根拠なき自信で、自分を過大評価しているようです。タケルが箱入りで育てているので、猫の本質が分かっていないようです。

<登場人物>
マコト:茶トラのツンデレ仔猫。大きくなったらヒョウになるつもり。
タケル:ちょっぴりSだけど優しいマコトの飼い主。

<用語解説>
にくきゅうたっちリモコン:ねこのために開発されたテレビ用のリモコン。肉球でタッチすることができるので、猫が自分でテレビを見ることができる。有名なヒーロー番組『半にゃライダー』に猫のファンが多いことから、開発された。
半にゃライダー:日曜朝のヒーロー番組。半人前(半猫前?)の仔猫が般若のお面を被ったら強くなって、相棒の飼い主と一緒に世界征服をたくらむ怪人をやっつける物語。現在シリーズ『5』を放映中。半にゃライダーが大道芸人の一座に誘われて、ヒーローであることよりも一匹の猫としての幸せを追及するべきかどうかで悩んでいる。マコトはこの番組の大ファン。君も応援してね!
かんぬしさん*:飼い主のことだと思われる。
NNN:ねこねこネットワークの略号。その活動の全てが明るみには出ていないが、時々迷える仔猫を上手く人間のところへ送り込んでくる。どうやら、ネットライブテレビの放映部門もあるようだ。

【迷探偵マコトの事件簿】
(20)マコト、ねこねこ検定に挑戦する


タケルはこのごろ、おべんきょうでいそがしいの。
ニンゲンっておべんきょうしなくちゃならないんだって。
本をいっぱいよんで、ときどき考えて、ノートにたくさん文字をかく。
おべんきょう中にかんぬしさん*にあそんでほしいからって、本の上にねころがったり、おひざの上によじのぼったり、ねこってふつう、そんなことをするものらしいけど、ぼくはしないよ。
ちゃんといい子でまってるもん。

でも、タケルがおべんきょうにむちゅうになって、ぼくのねこまんまを忘れたときは、しっぽだけ、タケルの見えるか見えないかのぎりぎりくらいででぱたぱたしてみる。
「あ、もうそんな時間か」
タケルがあわててぼくのねこまんまをつくってくれる。

時間をわすれちゃうくらい、おべんきょうっておもしろいのかなぁ。
ぼくはこっそりしらべてみる。
タケルが買ってくれた、にくきゅうでタッチリモコンがあたらしくなって、こんどはテレビもたっちぱねるになったんだよ。
ぼくは、たっちぱねるのねこのマークをぼちっとする。
『NNN ねこといっしょ~ねこによる ねこのための ねこのばんぐみ~』

「さぁ、みんな! きょうもいっしょにおべんきょうしようね! 番組のさいごに『ねこねこ検定』のもんだいを出すから、答えをにくきゅう文字で書いてそうしんしてね!」
ぼくだって、『半にゃライダー』ばっかり見てるんじゃないんだよ。
ちゃんとおべんきょうもするんだ。
「全国のなかまたち! おべんきょうはもくひょうを決めてやることが大事だよ! まずは、自分のじつりょくを知ろうね! じゃ、『ねこねこ検定』のもんだいをだすよ!」

じつりょくか!
ぼくは『ねこねこ検定』のもんだいにちょうせん。

もんだい①ねこのからだについて
つぎにあげるからだのぶぶんが、ねこにとってどうしてだいじなのか、りゆうを書きなさい。また、いちばん大事だと思うものに、まるをしなさい。
(1) ひげ、(2) はな、(3) にくきゅう、(4) しっぽ


なんだ! かんたんだね!
(1) ひげ→ぴょこぴょこうごかしてあそぶとおもしろいから!
(2) はな→はながなかったら、へんなかおになるから!
(3) にくきゅう→にくきゅう文字を書くから! あとね、りもこんぽちっとするから!
(4) しっぽ→しっぽおにごっこをするときにだいじだから!
いちばんだいじなのは……(3)のにくきゅう!

もんだい②ねこのことわざについて(ニンゲンがねこのことをどう思っているかについて)
つぎのことわざ・かんようくを使って、文をつくりなさい。
(1) ねこのひたい、(2) ねこにこばん


これしってるよ!
(1) ねこのひたいには、ぼくのマークがある!
(2) ねこにごはんをあげたら、とってもよろこぶ!

わ~いい。できたよ。とってもかんたんだった!
おべんきょう、がんばったらおなかすいちゃった。
タケル、ねこまんま、わすれてないかなぁ?

* * *

マコトがつけっぱなしにしたねこねこPCが通信を開始した。
『ヤマトまことさま。ねこねこ検定に挑戦していただき、ありがとうございます。残念ながら、あなたは今日の検定に不合格でした。もっとねこについてお勉強してくださいね。これからもがんばりましょう。番組では次の挑戦をお待ちしています。』

まことのひたい2

NNN、恐るべし。猫の番組まで放映して洗脳中??
こちらの番組は、猫のための『おかあさんといっしょ』みたいなものでしょうか。
あ、「ねこのひたい」についての解説。
茶トラ猫の額には「M」のマークがありますね。マコトはこれを「Makoto」の「M」で、ヒーローのマークみたいに思っています(*^_^*)
次回は、マコトが病気に? 思春期、いや、そろそろ巣立ちの時なのかもしれません。

Category: 迷探偵マコトの事件簿(猫)

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【Special Thanks! スカイさん】『百鬼夜行に遅刻しました』の素敵なイラストを頂きました! 

百鬼夜行に遅刻しました

ブログのお友達、『星たちの集うskyの星畑』のスカイさんがこんな素敵なイラスト描いてくださいました!!
【百鬼夜行に遅刻しました】は、これもまたブログのお友達、ウゾさんのブログ名『百鬼夜行に遅刻しました』からインスピレーションを得て生まれた物語。
頭の中に物語が生まれた瞬間から、主人公の子鬼はウゾくん。しかもウゾくんが頼りにしている「知っている猫」も、ウゾさんちの猫・もち姫さんの姿そのままに物語の中でしっかり存在していました。

ちょっと失礼かなぁと思ったので、別の名前を当てはめようとしたけれど、子鬼くんが「僕はウゾ!」といって譲らなかったので、ウゾさんにお願いしてお名前をお借りしました。タイトルもキャラ名もすべておんぶに抱っこですが、私の中ではとっても愛しい物語です。ウゾさん、快くお名前をお貸しくださってありがとうございます。
そしてまた、スカイさんからこんな素敵なプレゼント。まさにおんぶに抱っこの、果報者の物語です。あ、でも、実はこちらから押しかけ女房的、無理矢理果報をゲットしたような気もしなくもない……^^;

スカイさんの絵は、独特の雰囲気があって、イマジネーションを刺激されます。物語も詩的で、擬人化された自然界の様々なものが生き生きと、ときにしんみりと描かれているのです。絵と文章が両輪となってスカイさんワールドを生み出しているのですね。
そんなスカイさんのタイトルページの星の精を見たときに、私が頭の中で描いていたウゾくんワールドにリンクしてしまって、コメントでそのことを書いたら、なんと、こんな素敵なプレゼントを頂きました!!
言ってみるもんだな~~~(*^_^*)
スカイさん、ありがとうございます!!

物語自体は、ファンタジーの雰囲気で覆っていますが、生命の問題を色々な方面から描いています。
人が死んで成仏できないと鬼になるのですが、鬼たちだってやっぱり成仏はしたいもの。ジョウブツするためには百鬼夜行学校に通って、本番の百鬼夜行に108回参加する必要があるのですが、本番の百鬼夜行に参加するためには試験に合格しなくてはなりません。教習所で仮免許をもらうようなものですね。
ところが主人公のウゾくんは、どうしても早起き(鬼にとっては夜に起きるのが早起き)ができなくて、試験に遅刻ばかりしています。そんな子鬼のウゾくんが、花の精たちとの出会い、命について考えながら成長していきます。
果たしてウゾくんはジョウブツできるのか、そしてウゾくんはどうして遅刻ばかりしてしまうのか、謎を巡って物語はあと2話を残しております。

さて、スカイさんが描いてくださったキャラたち。
真ん中で走っている少年少女は主人公のウゾくんと、ヒロインのサクラちゃん。サクラちゃんはひき逃げで死んじゃった女の子の子鬼なのですが、しおらしくて可愛らしいヒロインかと思いきや、意外に切れたら怖い? しかもウゾくんと同じように遅刻の常習犯。イメージしたのは『ハリー・ポッター』のハーマイオニーです。
え? 恋人同士? まだまだ友達、かな。

ウゾくんとサクラちゃんの後ろにいる、赤ちゃん王蟲みたいなのはダンゴ。あ、単にダンゴムシ、なんですけれど。
ウゾくんはタダスの杜に棲んでいるのですが、彼の寝床にはダンゴたちがいっぱいいて、いちいち「チコク、チコク」と騒ぎ立てるのです。でもたま~に、結構的を射たことを言ってみたり? 大した語彙はないのですけれど。
丸まってるのもいて、スカイさんの遊び心がうれしい(*^_^*)

そして左端にいる大きな人物は、百鬼夜行学校の教官の中でも最も怖いタタラ。ウゾくんたちに厳しいのですが、実は結構頼りになる? 噂ではミドロガイケの龍の化身だとも言われていますが、龍は伝説の生き物。そもそも現世で命あるものではないので、生死に関わる存在ではないし、ウゾくんたちはまさか龍なわけないよね、と思っています。真実は??
スカイさんはお髭に龍っぽさを出してくださいました! こんな細かなところにもアイディアがあふれていますね。

タタラの前にいるのは、やっぱり教官の一人で「パーフェクトのっぺらぼう女史」の清子(清狐)女史。人間がジョウブツできなくてのっぺらぼうになっても、こんな完璧なのっぺらぼうにはならないのですが、狐とか動物の場合はパーフェクトなのっぺらぼうになるのですね。動物は邪念が少ないから? 
もともと人間ではないので、ちょっと突き放したようなことを言うこともありますが、不思議な雰囲気があります。あ、顔があったら、多分かなりの美貌でしょうね。スカイさんのイラストからそんな気配、みえますね!

そして反対の右端上、真っ白な猫がもち姫さん。
現実世界のもち姫さんは虹の橋を渡っていかれましたが、今もウゾさんを見守ってくれているように、こちらのもち姫さんもウゾくんをずっと見守っています。実はもち姫は「知っている猫」。猫は霊感が強いので「見える猫」はたくさんいるのですが、「知っている猫」は滅多にいません。でももち姫がウゾくんを見守っているのにはちゃんとわけがあるのです。
もち姫がちょっとチェシャ猫みたいなのが楽しい。

他の3人?は各ストーリーの登場人物。
夏の朝顔の精はアオイさん。ちょっと上から目線な美貌の女史。朝顔を愛でた男たちを見守っています。その一人が、軍服姿のグンソウ。百鬼夜行学校の門番です。苦しい過去を抱えていて、ジョウブツしないことを決めた人。朝顔にひとときだけ、癒やされているのかもしれません。
秋の菊の精は菊慈童。ウゾくんに永遠の命の空しさを語ります。
そして、今物語は冬。花はエリカです。

スカイさんが作者以上に物語の世界を深く読み込んでくださって、こんなに素敵なキャラたちを描いてくださって、本当に感謝&感動です。絵を描かない私にとって、物語の中のキャラたちはもくもくっとした影みたいなもので、顔は明瞭ではなかったりするのですが、こうして描いていただくとイメージが明確化します。
「そうそう、そうなのよ。そう言おうと思っていたんです」みたいな後出しでちゃっかり乗っかっちゃうんですが、それだけ描いてくださる絵が素敵ってことなんですよね。絵を描くのは大変なこと。物語を一生懸命読んでくださったんだなぁと感謝いっぱいです。

頂いたイラストを見て、逆に私がこのお話のファンになりました。あ、書いたのは私だったか。
でもこのお話、自分で書いたと言うよりも、まさにブログの世界の中で、刺激されて生まれてきたもの、って気がします。
やっぱり思った通り、スカイさんの絵はこの世界にぴったりだった!

スカイさん、本当にありがとうございます!!
スカイさんのイラストで興味を持ってくださる方が増えるとうれしいなぁ。
よろしけれはキョウトに棲む鬼たちの世界、少し覗いてみませんか?
『百鬼夜行に遅刻しました』

Category: 百鬼夜行に遅刻しました(小鬼)

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【勝手にコラボ企画】【迷探偵マコトの事件簿】(21) タケル、緑色のあの人になる 

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(イラスト:小説ブログ「DOOR」のlimeさん。著作権はlimeさんにあります。無断転用はお断りいたします。)
本当はいったんマコトの物語を括ろうと思って少し大人になる物語を書こうと思っていたのですが(もちろん、番外はいくらでも後から出すんだけれど)、ちょっと気が変わって。

気まぐれで時々やってみることにした【勝手にコラボ企画】
limeさんに許可を頂いたので、いや、正確には許可を頂く前に、さっそく新幹線の中で書いちゃいました。
(ただいま東京。帝国劇場のSHOCKに浸ってきました。夜の部はその日のうちに帰れないのが痛いけど、余韻に浸るにはよいかも。大空が美しい、それはきっとそうさ、僕らがいる大地があるから~♫ ヘビーローテーション中)

アマゾンプライムの宣伝で、赤ちゃんが大きなゴールデンリトリバーに泣き出してしまうのがありますよね。
両親に見守られながら、ライオンのぬいぐるみには怖がらずに手を伸ばす赤ちゃんと、その家族の暖かい光景を遠くからしょんぼりと見つめているリトリバー。
優しそうなお父さんが彼をちらっと見て、うん、と頷き、スマホをぽちっ。
お父さんが買ってくれたのは、ライオンのたてがみのかぶり物。リトリバーがそれをつけて赤ちゃんの元にやってくると、赤ちゃんはそっとリトリバーに手を伸ばす。

大概のCMの時間ではここまでなのですが、実はこの先があるんですよね。
そこでは、リトリバーがなんだか鏡に写った自分に納得していないような微妙な顔をしている。確かに、犬にしてみたら、俺、ライオンじゃないんだけど、ですよね。
そうすると、お父さんがリトリバーからかぶり物を取って、鏡の前に立ち、自分がこっそり着けているんです。

これはどう解釈するのかしら? 
かぶり物なんか着けちゃってすまないね、ってわんこに対して思ったのか。
あるいは、今度はお父さんが「ママがいい~」とかって赤ちゃんに泣かれちゃったのかしら?
でも、この長いバージョンの方が私は好きだなぁ。

このマコトバージョンは、そのCMからイメージを得て書いてみました(*^_^*)
勝手にコラボ企画、お相手は緑色のあの人(お名前だけですけれど……)
何のことか分からなくても大丈夫。
お楽しみくださいませね(*^_^*)

<登場人物>
マコト:茶トラのツンデレ仔猫。大きくなったらヒョウになるつもり。
タケル:ちょっぴりSだけど優しいマコトの飼い主。


【迷探偵マコトの事件簿】
(21)タケル、緑色のあの人になる



ぼくはさいきん、とっても気になることがあるんだ。
あのね、どうしてタケルにはおしっぽがないの?
それからね、どうしてお耳はそんなふうによこっちょについてるの?
あとね、お手てに、にくきゅうがないのはどうして?

タケルがねてるとき、ぼくはタケルのかみの毛のなかをさがしてみる。
でも、あたまのてっぺんの方には、お耳はないんだ。
おかしいなぁ?
こんどはお手てをなめてみる。
でもやっぱり、ぼくみたいな、ぷにぷにのにくきゅうはないんだ。
それからね、ときどき、おしりにかぷっとしてみる。
でも、やっぱりおしっぽは生えていないんだ。

にんげんとねこはちがうの?
……なんかつまんない。

しかたがないから、ぼくはおふとんにもぐりこんで、ゆめを見る。
タケルとぼくはならんで、にくきゅう文字のオテガミを書く。
タケルとぼくは、いっしょにおしっぽをぐるぐるする。
それからときどき、いっしょにおみみをぴ~んとのばしてとおくの音を聞く。
ぼくとタケル、おんなじだったらいいのに。


最近、寝ている時に、マコトが俺の手を嘗めてみたり、髪の毛の中を何か探すみたいにほじくったり、ついでに尻に齧り付いたりするんだ。一体どういう意味なんだろう。
せっかくこの間、ねこ検定に合格したのに、まだまだ猫は謎がいっぱいだ。
でもある時、ネットで本を注文しようとして、ふと思い立った。

俺は「ナイルぷらいむ」のホームページを開く。
検索ワードは「猫ぐっず」。
あった、これだ。

「みどりねこプロジェクト」が販売しているホームウェア。
大人用、子供用、猫用もあるのか。
うん、こいつはいい。
猫耳、肉球、もちろん尻尾もついた全身つなぎの着ぐるみ。
色は、黒、白、三毛、とら、それから、水色、緑、黄色、ピンク、藤色。
俺は大人用を選んで、身長を入力し、カラーは「とら」を選択する。
それから「OK」のボタンをポチッとした。


ぴんぽ~ん。
あ、タケル、しろねこさんからオテガミ来たよ。
タケルはげんかんに出て行って、はんこをぺたっと押す。
あれ? オテガミよりうんと大きいね。
わ~い、だんぼーるだ~。タケル、あとでぜったいちょうだいね。

がさごそ、ごそごそ。
タケルが包みをあける。ぼくはだんぼーるにロックオン。
タケルはなかみを出すと、ぼくにだんぼーるをくれた。
それから、ちょっと待ってろ、と言って出て行っちゃった。

ぼくはさっそくだんぼーるにだ~いぶ!
はしっこをかじかじ、たまにがぶっ!
それからおさえこんで、れんぞくねこき~っく!
わ~いい、だんぼーるだいすき!

そうしていると、すぐにタケルがもどってきた。
「どうだい、マコト」
あとにしてくれる? ぼく、いま、だんぼーるでいそがしいんだ。
「ちょっと見てくれよ」
もう、うるさいんだから!
って、え? え? えぇ~?
タケルがおっきい茶トラねこになってる!!

タケルもぼくも、お耳はあたまのてっぺん。
長いおしっぽもいっしょ。いっしょにぐるぐる回して、ふたりでしっぽおにごっこができるんだ。
それから、にくきゅうハイタッチ!
日曜あさは、ぼくとタケルはならんで半にゃらいだーを見る。

ねぇタケル、タケルはどうしてぼくのきもちが分かったの?

それから、ぼくたちはいっしょにネットショッピング。
なになに。
「みどりねこプロジェクト・いちおくそうねこかさくせん」?
あ、これがタケルがぽちっとして買ったねこの服だね。

わ~、これ、ねこ用のもあるんだね。
ねぇねぇ、タケル、こんどはぼくにも水色のねこ用の、かって!
でね、タケルはみどり。
それでね、いっしょにおさんぽにいくの!

「言っとくけど、マコト、さすがにこれで外に散歩には行かないからな」

(【勝手にコラボ企画】featuring with 緑色のお友達(from 小説ブログ「DOOR」) 了)


(あ、親ばかタケルにも一応理性は残ってたのね^^;)
「いちおくそうねこかさくせん」→一億総猫化作戦はやはりNNNの仕業でしょうか? てことは、緑猫企画の背後にはNNNが……
ちなみにNNNって「ねこ検定」の練習問題に出てるんですよ。どうなん、それ?

でも後から見たら、水色ネコも緑色のお友達も、手のところは出してた(ちゃんと5本指)^^;
これはきっと、よくある取り外し可、というのか、くっついてるけど、かぶせたり、手を出せたりするようになっているに違いない。
で、もしかして、これって、緑色さんの手縫いだったりして!(どんな内職?)

しかもタイトルは誇大広告だった。タケルは緑じゃなくて、とらの服、買ってた^^;
まぁ、動物にかぶり物や服は(寒さに弱くて散歩行くときに必要な子もいると思うけど)どうかと思う部分もありますが、どうせマコトは買ってもらってもお布団代わりだろうな。タケルは緑ネコの着替えができて満足かも。

……「ナイル(ぷらいむ)」は「アマゾン」に比べると何だか品薄なイメージですね。
命名、イマイチかぁ。もっとジャングルっぽいところ……?


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Category: 迷探偵マコトの事件簿(猫)

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