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コーヒーにスプーン一杯のミステリーを

オリジナル小説ブログです。目指しているのは死体の転がっていないミステリー(たまに転がりますが)。掌編から長編まで、人の心を見つめながら物語を紡いでいます。カテゴリから入ると、小説を始めから読むことができます。巨石紀行や物語談義などの雑記もお楽しみください(^^)

 

【イラストに物語を】亡き少女に捧げるレクイエム(2)~インフェルノ編~ 

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(イラスト:limeさん。著作権はlimeさんにあります。無断転用・転載はお断りいたします)

「猿もおだてりゃ……」の典型みたいに、続編をつぶやいたら、皆様から絶大なるご支持を頂きましたので(なわけないか!)、ついつい書いちゃいました。笑劇場第2幕(もう3幕目はないよ!)インフェルノ編、しばしお楽しみください(*^_^*)
もうすでに、イラストとは何の関係もなくなっている……(>_<)
第1幕はこちら→【亡き少女に捧げるレクイエム】



「して、人形作家のガブリエルよ、なんでもそちの作った人形はリアルで美しすぎるというので、ちまたでは評判であったらしいな」
「へぇへぇ、閻魔大王殿。それはもう、私の人形のファンもずいぶんとおりまして、某国の政治家から、有名企業の社長さんから、ほんとに可愛がって頂きまして……」
 ガブリエルは手もみをしながら閻魔大王に答えた。閻魔大王はガブリエルの手元を見て太い眉を吊り上げるようにして眉間に皺を寄せた。
「ずいぶん儲けたようだな」
「いや~、それほどでも……」

 あのMatamoyaテレビの『日曜芸術館』の放映により、人形作家ガブリエルの名前は国内だけでなく国外にまで知られるようになり、ガブリエルのところには金になる仕事が次々と舞い込むようになった。
 亡くなった私の妻の人形を、私の娘の人形を、私の猫の人形を、昔の恋人の人形を……。
 こうしてガブリエルは仕事を選ぶようになり、これまでのようにこつこつと安い仕事をするのが面倒くさくなり、いつの間にか大金持ち相手の仕事しかしなくなった。
 仕事を一つ終えると、どんと懐に金が入ってきた。そうなると、生活は自堕落となり、文字通り飲む・打つ・買う日々が続き、金がなくなったら仕事をして、また飲む・打つ・買う……ついには若い女のところで腹上死してしまった。

「酒の飲み過ぎで店の中で暴れ回り、従業員や客に大怪我を負わせたこともあったそうだな。それに、結果的に儲けた金をギャンブルと女で使い果たし、家のものに迷惑をかけ、あげくに腹上死とは……」
「しかし、私の人形は世界中のみなの慰めとなっておりましたし」
「迷惑をかけた家族のことはどう思っておるのじゃ」
「いや、家族といっても、私の可愛い孫娘が死んじまった後は、ずいぶんと昔に別れた女房についていった息子とその家族が残ってるだけで、あいつらだって私の金のおかげでいい思いもしたってわけでして」

 ガブリエルは自分の仕事がいかに素晴らしく、そのおかげでみんなが良い思いをしたのだと、ひたすらに語り続けた。閻魔大王はあごひげを撫でながら聞いていたが、やがて、ばん、と木槌を打ち鳴らした。
「さっきから聞いておると、お前は自慢ばかりしておるが、人に迷惑をかけたことについては何ら反省の気持ちがないではないか!」
 閻魔大王の側には裁判官と裁判員が並んでおり、そのうち一人の裁判官は巨大なそろばんを弾いていた。生前に行った善行と悪行の数を数えいてるのだ。皆がそれをのぞき込んで頷き合い、「有罪」「有罪」「有罪」……の札を上げた。
 閻魔大王はその札を数え、咆哮のような声で審判を下した。
「ガブリエルは有罪。地獄で反省してまいれ」
「え~? なんで私が……」


 じいちゃん、死んじまったかぁ~。
 しかも女のところで腹上死だって。ほんと、笑っちゃうよ。
 どうなるんか気になるし、閑だし、ちょっとサイバン、見に行こうっと!

 軽い気持ちで天国から様子を覗きに来たガブリエルの孫娘・ハレルヤは、傍聴席で裁判の成り行きをじっと聞いていた。

 あ~あ、あれがうちのじいちゃんかぁ。かっこ悪いな~。見てらんないよ。
 ふ~ん、あれからけっこう悪いことしてたんだんぁ。
 でもまぁ、しょせん悪行ったってたいしたことないし、小物感溢れてるけどね。

 閻魔大王に答えているガブリエルの必死の保身が可笑しくて、最初は笑っていたのだが、一生懸命に自分自身を弁護しているガブリエルがちょっと哀れで泣けてきた。

 この程度じゃ、そうそう地獄行きまではないよね。今地獄って混み合ってるらしいし。
 でも、じいちゃんたら、ちょっと態度が悪いなぁ。
 反省してます、とかしおらしく言ったら心証もいいのに。
 ま、天国に来たら、ちくちく苛めちゃおうっと。
 なんせ、私のほうが天国じゃパイセンだしね!

 ところが、審判はまさかの有罪。ハレルヤも「地獄行き」の決定には驚いて、思わず飛び出してしまった。
「ちょっと待ったあ~」
 閻魔大王と裁判官・審判員が皆、何事と顔を向けた。
「やだなぁ、えんまっち。こんな小物のじいさんなんて地獄に落としたら、けつの穴ちっさいって、笑われちゃうよ~」
 と、ハレルヤがいつものタメ口を叩くと、ごほん、と裁判官の一人が咳払いをした。
「それにさ、エロくってバカなじいちゃんだけど、こう見えて結構いいところもあるんだよ。ま、あたしの人形、服脱げかけってのはちょっとアウトなんだけど。でもさ、えんまっちだって、あの人形、気に入ったって言ってたじゃん。特にほら、この肩のところとか、胸のタ・ニ・マとか。厳つい顔に似合わず、結構好き者なんだからっ!」

 言い繕っているうちに墓穴を掘るということはよくある話だが、今度は閻魔大王がむっとした顔をした。
 もっとも、ハレルヤはそんな空気は読まない。
「娘よ、もう有罪と決まったのだ。ここはお前の来るところではない。次の審議があるから、出て行きなさい。我々は忙しいのだ」
 裁判官がさっさと追い出そうとしたので、ハレルヤは慌てた。
「あのさ、この人、ほんと、ダメじじいなんだよ。一人でなんもできないし、いくらなんでも地獄は可哀想だと思うんだよね。だから、じいちゃんを地獄に落とすんなら、あたしも付いてく!」

「おい、ハレルヤ」
 後ろから、ガブリエルがこそこそとハレルヤの服を引っ張った。ハレルヤの可愛らしい胸の谷間がちらっと裁判官の目に入った。
 ハレルヤはガブリエルの腕を押しやった。
「じいちゃんったら、引っ張ったら脱げるじゃん。大丈夫だって。ここは『孫娘よ、お前の殊勝な心がけ、祖父を思う気持ちに心を打たれたぞ。お前に免じてガブリエルの地獄行きは免除してやろう』って話になるのが相場なんだから!」

 あ~、私って、結構いい女なのよね~。
 ハレルヤがそう思った途端、閻魔大王の声が裁判所内に響き渡った。
「孫娘・ハレルヤよ。お前の殊勝な心がけ、祖父を思う気持ちに打たれたぞ!」


「で、なんだってあたしもいっしょに地獄なのよ! それなら共に地獄に落ちてやるがいい! だって! あ~、なんべん思い出しても腹立つ~。ちょっと、アオおにっち、熱ずぎるったら! 冬は42度くらい、夏は39度くらいにしてって言ったでしょ!」
「アネキこそ、もうちょっと苦しそうにしてもらわないと、バレちまいますぜ」
「あ、そうか! いい湯だな~じゃダメだったんだ! あ~、熱い~、苦しい~!!」
 ハレルヤは苦しむ演技を適当に続けてから、釜茹での五右衛門風呂から地獄の官吏・青鬼に向き直った。

「でもさ、うちのじいちゃん、役に立ってるっしょ。あれでも、生きてるときから世界一の人形作ってたんだから」
「ほんとに、ガブリエル先生の鬼からくり人形は、ホンモノと区別が付きませんや。えんま野郎にも区別がつかんでしょうな。おかげで、俺らも仕事をさぼることができるし、それに俺たちだって好きで人間を苛めてたわけじゃありませんからね。針はイタそうだし、釜茹では熱そうだし、汚物とか煮え湯を飲ませるのって、俺らも臭いし熱いんすよ。いや、ほんと、アネキに、あんたらには矜恃ってもんがないの! っていわれたときに、あっしら、目が覚めましたぜ。人間を責めるのもそろそろ飽きてましたしね、このまま閻魔大王に使われ続けるのも、いい加減癪ってもんでして」
「だっしょ~。あたしと付き合ってたら、絶対楽しいんだってば!」

 ガブリエルはせっせと鬼たちのからくり人形を作り続けていた。閻魔大王が地獄を覗いたときに、ちゃんと働いていると見せかけることができるように。おかげで、鬼たちは地獄に落ちた人間たちを責めるという終わりのない苦役から解放されて、余暇を過ごすことができるようになった。それほどにガブリエルの人形は完璧だったのだ。
 彼がやがて、かのお茶の水博士として転生し、世界的にも有名なロボットを作り出すことになるとはまだ誰も知らない。

「実はさ~、結構、天国って退屈だったんだよね~。だって、ぶりっこもいい加減、肩こるしさ。ほんと、ここ来て、良かったよ! アオおにっちとかアカおにっちと遊んでる方が楽しいじゃん。地獄良いとこ、一度はおいで~ってさぁ」
 釜茹で風呂で歌うといい感じに響いた。
「あ~、あたしっていい声だな~。アイドルデビューしよっかな。ね、どう思う?」
「いいんじゃないっすか。じゃ、俺、ヲタ芸、練習しますよ」

 あれから、ガブリエルと共に地獄に落とされたハレルヤだったが、今や地獄は彼女にとって巨大なアミューズメントパークだった。
 適度な温度に調節された五右衛門風呂は、地球の恩恵をそのまま生かした天然温泉。針地獄の針や刀は全部角が丸められ、上を歩いたら足裏マッサージとなり、実に健康的だ。ノコギリで身体を切られるという責め苦の場合は、鬼たちのマジックショーの腕を磨くために素晴らしい実地訓練になった。煮え湯や汚物を飲まされる責め苦の場合は、むろん、最近腕を上げたキイロおにっちシェフの作った極上スープだ。巨大な石などで押しつぶされる責め苦の場合は、ちょうどいい具合に重さが調節されて、指圧効果をもたらすでこぼこも付け加えられた。

 閻魔大王や裁判官が時々上の方から見張っているので、苦しそうにしなければならないのだが、その演技が一番上手くできた者にはヘルアカデミー賞が贈られて、地獄一の美男美女とハーレム状態の楽しい時間を過ごせることになった。鬼たちとは本物の鬼ごっこをすることもできて、コミュニケーションスキルのアップにも繋がったし、1年に1度の大会の商品もなかなか豪華だった。

「やっぱ、辛い環境も自分の力で変えて、楽しく生きなくちゃね!」
「アネキ、もう死んでますぜ!」
「あ、忘れてた! そうそう、とっくに死んでた!」
 青鬼とハレルヤが天を見上げるようにして大笑いをしている時、遙か彼方、空の雲の彼方から、閻魔大王が地獄の様子をのぞき込む気配があった。
「あ、アネキ、ヤバい! 熱いふり!」
 すかさずハレルヤは大げさな演技をした。
「うわ~、熱いよぅ~、お母ちゃ~ん!」
「いいっすね~、ヘルアカデミー賞にノミネートされますぜ!」

 まもなく、このとんでもない娘を地獄に落としてしまったことを後悔する日が来るとは、閻魔大王も未だ気がついていないに違いない。


余談ですが、ハレルヤはマタモヤと韻を踏んだつもり(^_^;)
……お粗末様でした(>_<)

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【イラストに物語を】亡き少女に捧げるレクイエム 

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(イラスト:limeさん。著作権はlimeさんにあります。無断転用・転載はお断りいたします)

小説ブログ「DOOR」のlimeさんのお題・『またもや天使』にチャレンジしようと思ったのですが、皆さんがあまりにも素敵な掌編を書かれているのに、なぜかふざけたものしか思い浮かばなくて……考えても考えても笑いの方へ持っていきたくなってしまうので、これはもう、大阪人のDNAということで諦めました。
この脳内作品を文字にするかどうか悩んだのですが、limeさんにもお許しを頂いたので、さっそくoomi笑劇場へ……
あぁ、ほんとに、limeさん、ごめんなさい!!
(ぜったい怒られる……limeさんが怒らなくても、limeさんファンに怒られる……)
えっと、お口直しには、他のみなさまの素敵な掌編をお読みくださいね!(こそこそ)

・「続きを読む」以下もお楽しみください。


【亡き少女に捧げるレクイエム】


「おはようございます。Matamoyaテレビアナウンサーのミカエルです。本日の『日曜芸術館』は人気人形作家のガブリエル先生をお迎えして、先生の新しい作品を皆さんとご一緒に鑑賞したいと思います。先生、今回は蝋人形ですね。いつもの作風とは違いますが、聞くところによると、最近、愛するお孫さんを亡くされたとか」
 憔悴した姿を取り繕うこともなく、ガブリエルはうなずいた。
「彼女はまさに私の天使でした。あの子は外見が美しいだけではなかった。誰に対しても優しく、私のこともいつも心にかけていてくれました。そんな彼女をまるで生きている時のように蘇らせるのは蝋人形しかないと、そう思ったのです。私は深い悲しみを乗り越えるためにこの人形の製作に取りかかり、ようやく完成を見たのですが、見るごとに彼女の在りし日を思い出してしまって……」
 ガブリエルが言葉を詰まらせると、アナウンサーのミカエルも、そしてスタジオ中のスタッフや観覧席の視聴者も、涙を禁じ得なかった。
「皆さん、言葉は要りませんね。ご覧ください、この美しい少女を。人形とは思えない、お孫さんの魂の宿った姿を」
 少女の蝋人形は、まるで息をしているようだった。金の髪は虹色に光って見え、頬は微かに紅をまとい、唇は今にも言葉をこぼれさせそうだった。背景には、ガブリエルの作った人形を引き立てるように、緑の葉を繁らせた木のセット、そして天国で微笑む彼女を包む光のライトアップ。

 そこへどこからともなく、一羽の蝶が紛れ込んできて、ガブリエルの人形の側に近づいていった。天使となって天国に召された少女に生き写しの人形。その人形に、吸い寄せられるように近づいていく蝶。
 蝶がまるで何かを訴えるように羽をはためかせると、皆がその美しい光景に息をのんだ。
 やがて蝶は、ガブリエルがその人だと分かったかのように、まっすぐに彼の元へ近づいてきた。
「あぁ、蝶は魂を乗せているといいますもの。きっとお孫さんの魂が、先生に会いたくてこの世に舞い戻ってこられたのですわ」
 視聴者の一人の言葉に、スタジオは涙に包まれた。

 もしもここに、魂の声を聴く者があったなら、蝶に魂を乗せた少女の言葉を、彼女の死にうちひしがれて嘆くガブリエルに伝えることができただろうに……
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【勝手にコラボ企画】【迷探偵マコトの事件簿】(21) タケル、緑色のあの人になる 

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(イラスト:小説ブログ「DOOR」のlimeさん。著作権はlimeさんにあります。無断転用はお断りいたします。)
本当はいったんマコトの物語を括ろうと思って少し大人になる物語を書こうと思っていたのですが(もちろん、番外はいくらでも後から出すんだけれど)、ちょっと気が変わって。

気まぐれで時々やってみることにした【勝手にコラボ企画】
limeさんに許可を頂いたので、いや、正確には許可を頂く前に、さっそく新幹線の中で書いちゃいました。
(ただいま東京。帝国劇場のSHOCKに浸ってきました。夜の部はその日のうちに帰れないのが痛いけど、余韻に浸るにはよいかも。大空が美しい、それはきっとそうさ、僕らがいる大地があるから~♫ ヘビーローテーション中)

アマゾンプライムの宣伝で、赤ちゃんが大きなゴールデンリトリバーに泣き出してしまうのがありますよね。
両親に見守られながら、ライオンのぬいぐるみには怖がらずに手を伸ばす赤ちゃんと、その家族の暖かい光景を遠くからしょんぼりと見つめているリトリバー。
優しそうなお父さんが彼をちらっと見て、うん、と頷き、スマホをぽちっ。
お父さんが買ってくれたのは、ライオンのたてがみのかぶり物。リトリバーがそれをつけて赤ちゃんの元にやってくると、赤ちゃんはそっとリトリバーに手を伸ばす。

大概のCMの時間ではここまでなのですが、実はこの先があるんですよね。
そこでは、リトリバーがなんだか鏡に写った自分に納得していないような微妙な顔をしている。確かに、犬にしてみたら、俺、ライオンじゃないんだけど、ですよね。
そうすると、お父さんがリトリバーからかぶり物を取って、鏡の前に立ち、自分がこっそり着けているんです。

これはどう解釈するのかしら? 
かぶり物なんか着けちゃってすまないね、ってわんこに対して思ったのか。
あるいは、今度はお父さんが「ママがいい~」とかって赤ちゃんに泣かれちゃったのかしら?
でも、この長いバージョンの方が私は好きだなぁ。

このマコトバージョンは、そのCMからイメージを得て書いてみました(*^_^*)
勝手にコラボ企画、お相手は緑色のあの人(お名前だけですけれど……)
何のことか分からなくても大丈夫。
お楽しみくださいませね(*^_^*)

<登場人物>
マコト:茶トラのツンデレ仔猫。大きくなったらヒョウになるつもり。
タケル:ちょっぴりSだけど優しいマコトの飼い主。


【迷探偵マコトの事件簿】
(21)タケル、緑色のあの人になる



ぼくはさいきん、とっても気になることがあるんだ。
あのね、どうしてタケルにはおしっぽがないの?
それからね、どうしてお耳はそんなふうによこっちょについてるの?
あとね、お手てに、にくきゅうがないのはどうして?

タケルがねてるとき、ぼくはタケルのかみの毛のなかをさがしてみる。
でも、あたまのてっぺんの方には、お耳はないんだ。
おかしいなぁ?
こんどはお手てをなめてみる。
でもやっぱり、ぼくみたいな、ぷにぷにのにくきゅうはないんだ。
それからね、ときどき、おしりにかぷっとしてみる。
でも、やっぱりおしっぽは生えていないんだ。

にんげんとねこはちがうの?
……なんかつまんない。

しかたがないから、ぼくはおふとんにもぐりこんで、ゆめを見る。
タケルとぼくはならんで、にくきゅう文字のオテガミを書く。
タケルとぼくは、いっしょにおしっぽをぐるぐるする。
それからときどき、いっしょにおみみをぴ~んとのばしてとおくの音を聞く。
ぼくとタケル、おんなじだったらいいのに。


最近、寝ている時に、マコトが俺の手を嘗めてみたり、髪の毛の中を何か探すみたいにほじくったり、ついでに尻に齧り付いたりするんだ。一体どういう意味なんだろう。
せっかくこの間、ねこ検定に合格したのに、まだまだ猫は謎がいっぱいだ。
でもある時、ネットで本を注文しようとして、ふと思い立った。

俺は「ナイルぷらいむ」のホームページを開く。
検索ワードは「猫ぐっず」。
あった、これだ。

「みどりねこプロジェクト」が販売しているホームウェア。
大人用、子供用、猫用もあるのか。
うん、こいつはいい。
猫耳、肉球、もちろん尻尾もついた全身つなぎの着ぐるみ。
色は、黒、白、三毛、とら、それから、水色、緑、黄色、ピンク、藤色。
俺は大人用を選んで、身長を入力し、カラーは「とら」を選択する。
それから「OK」のボタンをポチッとした。


ぴんぽ~ん。
あ、タケル、しろねこさんからオテガミ来たよ。
タケルはげんかんに出て行って、はんこをぺたっと押す。
あれ? オテガミよりうんと大きいね。
わ~い、だんぼーるだ~。タケル、あとでぜったいちょうだいね。

がさごそ、ごそごそ。
タケルが包みをあける。ぼくはだんぼーるにロックオン。
タケルはなかみを出すと、ぼくにだんぼーるをくれた。
それから、ちょっと待ってろ、と言って出て行っちゃった。

ぼくはさっそくだんぼーるにだ~いぶ!
はしっこをかじかじ、たまにがぶっ!
それからおさえこんで、れんぞくねこき~っく!
わ~いい、だんぼーるだいすき!

そうしていると、すぐにタケルがもどってきた。
「どうだい、マコト」
あとにしてくれる? ぼく、いま、だんぼーるでいそがしいんだ。
「ちょっと見てくれよ」
もう、うるさいんだから!
って、え? え? えぇ~?
タケルがおっきい茶トラねこになってる!!

タケルもぼくも、お耳はあたまのてっぺん。
長いおしっぽもいっしょ。いっしょにぐるぐる回して、ふたりでしっぽおにごっこができるんだ。
それから、にくきゅうハイタッチ!
日曜あさは、ぼくとタケルはならんで半にゃらいだーを見る。

ねぇタケル、タケルはどうしてぼくのきもちが分かったの?

それから、ぼくたちはいっしょにネットショッピング。
なになに。
「みどりねこプロジェクト・いちおくそうねこかさくせん」?
あ、これがタケルがぽちっとして買ったねこの服だね。

わ~、これ、ねこ用のもあるんだね。
ねぇねぇ、タケル、こんどはぼくにも水色のねこ用の、かって!
でね、タケルはみどり。
それでね、いっしょにおさんぽにいくの!

「言っとくけど、マコト、さすがにこれで外に散歩には行かないからな」

(【勝手にコラボ企画】featuring with 緑色のお友達(from 小説ブログ「DOOR」) 了)


(あ、親ばかタケルにも一応理性は残ってたのね^^;)
「いちおくそうねこかさくせん」→一億総猫化作戦はやはりNNNの仕業でしょうか? てことは、緑猫企画の背後にはNNNが……
ちなみにNNNって「ねこ検定」の練習問題に出てるんですよ。どうなん、それ?

でも後から見たら、水色ネコも緑色のお友達も、手のところは出してた(ちゃんと5本指)^^;
これはきっと、よくある取り外し可、というのか、くっついてるけど、かぶせたり、手を出せたりするようになっているに違いない。
で、もしかして、これって、緑色さんの手縫いだったりして!(どんな内職?)

しかもタイトルは誇大広告だった。タケルは緑じゃなくて、とらの服、買ってた^^;
まぁ、動物にかぶり物や服は(寒さに弱くて散歩行くときに必要な子もいると思うけど)どうかと思う部分もありますが、どうせマコトは買ってもらってもお布団代わりだろうな。タケルは緑ネコの着替えができて満足かも。

……「ナイル(ぷらいむ)」は「アマゾン」に比べると何だか品薄なイメージですね。
命名、イマイチかぁ。もっとジャングルっぽいところ……?


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Category: 迷探偵マコトの事件簿(猫)

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【2017 scriviamo!参加作品】サバンナのバラード 

scriviamo.png
八少女夕さんのscriviamo!に今年も参加させていただくことにしました。毎年大人気のこの企画、今年はますます参加者も増えて、夕さんも大変だろうなぁ~と思っているうちに出遅れてしまいそうになっておりました。今日は一念発起して書き始め、一気に書き上げたのはいいのですが、さっきまた一度、前置きに書いた記事を飛ばしてしまって、真っ青です(@_@)
気を取り直して。

毎年、あれこれ悩むのも楽しいのですが、ここのところ、P街のあの一族にちょっかいを出したり(私じゃなくてトトが!ということにしようっと…【海の青・桜色の風】)、奥出雲の神様に祟られそうなことをしてみたり(【龍王の翡翠】)、夕さんを困らせているのか、怒られる手前のぎりぎりにチャレンジしているのかというような気もしなくはないのですが、今年はかなり大人しめです(多分)。

このネタはもともとクリスマス用に準備していたのですが、時間が無くて断念したもの。でも、この際、クリスマスはメインの設定ではなかったので外しました。
もちろんのこと、私はアフリカには足を踏み入れたことがありませんので、全くの想像です(@_@) 夕さんに「サバンナはそんなとこじゃないわよ」ってだめ出しをもらいそうですが、それを覚悟の上で、イメージを膨らませて書いてみました^^; 
夕さんのところからお借りしたのは、【ニューヨークシリーズ・郷愁の丘】から、既にニューヨークではなくケニアかイタリアに行っちゃっているかもしれない彼女と、彼女の恋人候補と思われるシマウマの先生と、ナイロビの旅行エージェント氏。今回はほんと、ほぼ名前だけなので、ご迷惑をおかけしていることはないと思われます。

こちらの方の主人公・奈海(なみ)は、初出。うちにもカメラマンがいるわ~と時々つぶやいていたのですが、本人の登場はなかなかチャンスがありませんでした。
ところで、彼女の名前は、彼女が奈良の出身で、海のない県で海洋写真家であった父親がつけました。彼女のお祖父さんのエピソードは写真家の星野道夫氏のものですが、購読中のナショナルジオグラフィックを見ても、本当にカメラマンってどこまで行くんだろう。そのおかげで素晴らしい世界を見ることができる、有り難いけれど、気をつけて行って頂きたいなあと思います。

このカテゴリが『ピアニスト・慎一シリーズ』に入っているわけは、読み始めたらすぐに分かるのですが、物語自体を読んでいただく際には何の基礎知識も必要なく、ただ女の絆物語、と思って読んでいただけたらと思います。
♫ た~てのいとはあなた~ よ~このいとはわたし~ の世界?
ただし、このシリーズの冠がついているからには、クラシック音楽は必須。今回の曲は、ショパンのバラード第1番。【死と乙女】でも使ったので、ちょっと悩んで、第4番と迷ったのですが、第1音がずんとくる方を選びました。
(BGMにされる方は、続きを読むを開けてくださいませね)
実は書き始めたときはノクターンの20番を想定していたのですが、なんだか『戦場のメリー・クリスマス』ですっかり悲痛なイメージに傾き過ぎちゃったような気がするので(でも確かに、これは人生のレクイエム。私の中では、緒方拳さん遺作・中井貴一さん主演『風のガーデン』なのですけれど)、今回は断念。いつか使おうっと。

少し長いのですが、途中で切るのも間抜けなので、そのままです。ご容赦ください。


【サバンナのバラード】


 車体の塗装があちこち剥げて錆がついている四輪駆動車の中から、ショパンのエチュードが聞こえてきた。
 奈海は、ファインダー越しに見ていた巨大な夕陽から目を上げて、振り返った。土埃のせいで赤茶に汚れていた白い四輪駆動車は、大地に沈みゆく太陽でオレンジ色に燃え上がっている。
 運転席では、帽子を深く被ったフランス人の医師が、背もたれを倒してゆったりとくつろいでいた。ナイロビで修理してもらったカーステレオは、彼の休息のために最も重要なアイテムだったようだ。

 三年前まで、世界各地の難民キャンプで寝る暇もないくらいに働いていたフランス人医師、ネイサン・マレは、先日四十になった。祝ったのは、奈海と、無口で愛想の悪い現地コーディネーター兼看護師、それに赤い砂埃と、ネイサンが以前所属していた医療援助団体から払い下げられた四駆のエンジン音だけだった。
 残念ながらその時、カーステレオは壊れていて、音楽の一つもかけることができなかったので、仕方なく奈海が日本語の歌を歌った。
 ハッピーバースディーじゃない歌にしてくれ、できれば聞いたことのない日本の歌をと言われたので、いつも落ち込んだときには聴いているんだと言ってDreams Come Trueの『何度でも』を歌った。歌詞の意味を説明したら、いい歌だと喜んでくれて、奈海が三十一になる来月には今度は僕が特別な歌を歌ってやると言ってくれた。

 ネイサンは、医療援助団体から委託という形にしてもらって、何が起こっても団体に責任は問わないという念書を書き、フリーで医療の手の届かない地域に足を運ぶようになってから、既に三年が経つ。団体の中にいる以上、ある程度の安全域に身を置かねばならず、彼の理想とするものに近づくことができなかったのかもしれない。この一年はナイロビを基点にして、ソマリア難民キャンプやその周辺を回っていて、まさに砂漠に水滴を垂らすような仕事を黙々と続けていた。
「こういうのを、無謀っていうんだろうなぁ」
 この一年、ネイサンについてアフリカの小さな村を回ってきた奈海には、そうは思えなかった。

 ネイサンはできる限りの情報網を駆使して現地事情を確認していたし、奈海が行動を共にするようになってからは、時々都市に戻ったり、知人や友人の別荘を訪ねて数日過ごすようなこともしてくれた。
 一方で、奈海のほうも、一通りの医療処置の知識を得ることができるようになったし、少しはネイサンの助けができるようになっていた。一緒に行動している看護師は、ソマリアから逃げ出したときに一人息子を亡くしていて、そのせいなのか、あるいはただ言葉の問題なのか、あまり口を開かなかったが、黙々と仕事をこなす人だった。彼女からも奈海は色々なことを学んだ。
 もちろん、奈海がいなければ、銃声が響くような危険地域、ソマリアの国境近くにだって行くのかもしれないが、自分がネイサンの抑止力になっているなら、それもいいと思えるようになっていた。奈海は今、自分が誰かの役に立てるかも知れないことを嬉しく思うようになり、そして、その機会と居場所を与えてくれた人には何が起こっても生きていて欲しいと、心から願っていた。

 夕焼けはまさに巨大、という言葉がぴったりだった。
 不思議なことに、この大地を踏むようになってから、都会で見聞きした飾られた言葉や映像が何一つ、人生においてそれほど必要なものではなくなっていた。ここでは言葉は単純で明快だった。巨大なものは巨大、赤いものは赤い、そして美しいものは美しい。そして写真の中の映像もまた、疑問を挟む余地がないほどに単純だった。
 今、太陽は地平線をくっきりと浮かび上がらせながら、その日の最後の祈りの時間を地上のあらゆる生命に赦していた。視界の両端を越えてなお、左右へ延びている地平線は、木々のわずかな凹凸までくっきりと浮かび上がらせて大地を黒く沈め、その上に壮大な空が乗っていた。色彩を表現することのできない中心から放たれた光の矢が雲に跳ね返り、オレンジの海を空に描いている。

 奈海は結局、押そうかどうか迷っていた指をシャッターから外し、祖父の形見のライカを胸元にまで下げた。どんなに撮っても、この自然には追いつけない。そう考えたら、これをファインダーの中に納めることが馬鹿げているように思えた。
 代わりに、髭面の四十男が眠っている姿をライカのファインダーに捉え、それから少し車から離れて構図を選んで、一枚撮った。彼女のフィルムにもSDカードにも、大自然のちょっとした景色とともに、この四十男と無口な看護師の横顔の記録が増えていっていた。
「や、また撮ったな。こんなむさ苦しいのを撮ってもフィルムが無駄だろう」
「そうでもないわ」
「またフィルムを探し回る羽目になるぞ」
「いいのよ。無くなったら、撮らないだけだから」
 ネイサンはやれやれというように、いつものように口髭をなでながら、呆れた笑いを浮かべた。

 まさかこれほどにフィルムもSDカードも消費するとは思わなかったので、ナイロビに立ち寄ったときにナイロビ中のフィルムを買い占めるくらいに探し回った。ネイサンはそれにずっと付き合ってくれていたのだ。
 奈海とて、自分がパリに住んでいるというだけで享受してきた数々の自由や利便について、何ら有難さも感じずに生活していたことを恥ずかしく思っていたのだが、写真に関するものだけは譲れなかった。

 それでも、ネイサンの友人だという旅行エージェントのリチャード・アシュレイは、いったいこの国ではどこからどこまでが旅行エージェントの仕事なのかと首を傾げるくらいに協力的だった。ナイロビで手に入れるべきものは、彼のおかげで滞りなく手に入れることができた。このオンボロの四駆の修理も含めて。
 それに、リチャードのおかげで、シマウマの研究者であるスコット博士と知り合うことができて、彼の別荘に誘ってもらえたし、そこで久しぶりに会話を楽しんだり、生命の危機や不安を感じずに暖かい布団で眠る夜を手に入れることができそうだった。

 リチャードは、僕はカメラマンという人種を愛しているんだと言っていたが、それはおそらく『太陽の子供たち』のカメラマン、ジョルジア・カペッリのことだろう。ジョルジアは写真集の解説欄に、リチャードの協力について繰り返し感謝の言葉を述べていた。
 彼女と自分は、同じように写真を仕事として生きているのに、ずいぶんと離れた場所にいるような気がしていた。彼女の写真展を見に行ったとき、ふと、ずっと疑問に感じていた何かが身体の奥深くではじけてしまったのだ。

 パリでファッションモデルたちのスチール写真を撮ることからスタートした奈海のカメラマンとしてのキャリアでは、これまで祖父や父の残したフィルムカメラを必要とする場面など一度もなかった。だから、形見だといって渡されていた箱を初めて開けたのは、パートナーと別れ、都会を離れることを決めた時だった。
 祖父は厳しい辺境の地で動物たちの写真を撮っていたカメラマンで、アラスカの山の中で熊に殺された。祖母も、父やその兄弟も、そんな祖父を尊敬していたが、同じように海洋写真家となっていつ帰ってくるともしれない父を待っていた母は、カメラマンという仕事を好いてはいなかったのだろう。父もまた、若くして海難事故に巻き込まれて帰らぬ人となっていた。それなのに、いつカメラマンになろうと決めたのか、自分でももう覚えていないが、これは血なのだと信じていた。

 ただ、その血が、結果的に、自身の仕事のことで苦しんでいる年下のパートナーを見捨てる遠因になってしまったことは辛かった。しかも、彼は二人の間に生まれた娘を手放したくないと主張したので、奈海は一人でアパートを出ることになり、しばらくは自分から言い出したこととはいえ、何から手をつければいいのか分からなかった。早くパリから逃げ出してしまいたいけれど、どうやって伝手を見つければいいのか知らなかったのだ。
「それなら一緒に来てみますか?」
 声をかけてくれたのは、ジョルジアの写真展で知り合ったネイサンだった。最初は一ヶ月くらいのつもりでここへやってきたのに、それから、いつの間にか一年という月日が流れている。
 
 こんな絶対的な自然の中でショパンなんて、と違和感を覚えながら、太陽が刻一刻と変えてゆく空の色彩を見つめる。修理してもらったとは言え、大地の砂を幾分か吸い込んだらしい音の悪いカーステレオから聞こえてくるショパンは、残響の秒数まで計算された都会のホールで聴くものとはまるで違っていた。
 違っているはずなのに、今、胸の奥に響いてくる振動は不思議な波長で奈海の身体を揺らし始めていた。そして、バラードのその曲のほんの第一小節が始まったときに、奈海はいつの間にか目の前の夕焼けの残照が滲んでいることに気がついた。

 それは確かに、懐かしい彼のピアノだった。
 奈海がその音を、聞き間違えるはずがなかった。
 後で、他の人からこの曲は第一主題が厄介なのだと聞いて、改めてCDでじっくりと聴いてみると確かに屈曲したバラバラのピースが散らばっているような印象を受けたが、彼の演奏にはそんなイメージはまるでなかった。それに、続く第二主題の美しい旋律がまっすぐに心に沁み込んでくるところから終盤までは、曲の盛り上がりと共に、聴いている自分の方も息を忘れるほどに心を惹かれ、そして、いつの間にか恋に落ちていたのだ。

 彼は、奈海がパリでアパートをシェアしていたイネス・ルジャンドルの弟の友人だった。
 イネスの家庭事情は単純ではなく、彼女は父親、すなわちベルリンの名士であるアルブレヒト・ニーチェには正式には認知されていなかった。母親はパリの踊り子で、娘を一人で育てていたが、イネスが十二の時に病気で亡くなってしまった。やむを得ずニーチェ家に使用人の扱いで引き取られたイネスは、文字通り天使のような外見で男たちを虜にし、女たちからは執拗ないじめを受けた。彼女の美しさを称える男たちにしても、彼女を一段階も二段階も下の階層の人間として蔑んでいることには変わりなかった。

 そんな中で異母弟のテオドールだけは、まさに姉を天使のように崇拝し愛してくれた。テオドールの初恋は、彼が類いまれなき音楽の才能に恵まれていることが判明した時点で、ウィーンへの留学という形で終わりを告げ、イネスは庇い慰めてくれる存在を失ってニーチェ家を出た。
 淑やかで華やかで優しい、天使のような顔と、絵から抜け出してきたヴィーナスのような身体の中に押し込められている鋼のような意志で、イネスはパリの町で生き抜いていた。

 彼女と初めて出会ったのは、フランスに語学留学していた奈海が、小さな雑貨屋でアルバイトをしているときだった。イネスはまだ無名のモデルで、時折雑誌に写真を載せてもらえる程度だったが、奈海は初めて目が合った瞬間から彼女の虜になった。
 ひょんなことから話をするようになり、いつの間にかルームシェアをする関係になり、やがて奈海の出自を知ったイネスが、彼女がいつも写真を撮っているスタジオに紹介してくれた。

 イネスは奈海にとっても天使だった。
 ちょうどその頃、スタジオに出入りしていた日本人の少女、ユイとも話をするようになった。少女とは言え、彼女は十五にして既に成熟した大人の女の身体を持っていた。明らかにハーフと分かる顔立ちだったが、エキゾチックで悪魔的な魅力を、唇からも目から身体のすべてから迸らせていた。それなのに、彼女はやはり「少女」なのだった。

 東洋の小悪魔・ユイと、真っ白な天使・イネス。この二人を前にしたときから、奈海はカメラのシャッターを押すのがこれほどに楽しいことなのかと思い、毎日のように二人の写真を撮るようになった。スタジオからプライベートまで、二人は奈海にとって完璧な被写体だった。やがて一枚の写真が雑誌に載ると、化粧品会社やジュエリー会社が、そのうちにファッションの最先鋒のブランド会社までが、こぞって彼女たちと契約したがった。奈海も同じように華やかな世界に巻き込まれ、一緒にパリの街を手に入れたような気持ちに酔いしれていた。住む場所も、着る服も、化粧の仕方も、全てが変わった。

「これは神の配剤かもしれないわ。私たちは運命で結ばれているのよ」
 ある日、イネスが天を仰ぐように言った。
「私の弟がウィーン交響楽団を指揮して、ユイのお兄さんがデビューするのよ。こんなことってある? もちろん、私たち三人は姉妹なのだから、ナミもこの運命に参加しなくちゃいけないわ」

 その若いピアニストのデビュー演奏会を聴きに行ったとき、舞台の上に現れた彼の身体が驚くほどに小さく見えて、思わず不安を感じたほどだった。いつも女性たちの中でも特に見栄えのあるモデルたちに囲まれていた奈海には、華やかな舞台の上で戸惑う子どものような彼の様子が滑稽にさえ見えたのだ。
 しかし、背負ったオーケストラの重圧が彼を潰してしまわないかと心配する奈海の思いをよそに、隣に座るイネスもユイも落ち着き払っていた。今思えば、彼女たちはあの演奏会の成功を確信していたのだ。

 彼が指先を鍵盤に下ろした瞬間から、その身体は突然別物に変わっていった。オーケストラの響きを、ピアノの壮麗なカデンツァが追いかけていく。曲調が壮大になればなるほど、一小節先に進むごとに聴くものを陶酔の世界に誘い込み、続く第二楽章ではこの上ない特別なロマンティシズムが居合わせる全てのものを酔わせる。そうしてオーケストラの波の上を自由に駆け回りながら、時に波を追いかけ、煽り、従え、逃れ、また戯れつつ、震えるようなエネルギーを身体から迸らせる姿は、音楽の神の光をその身体に纏っているように見えた。

 それなのに、曲が終わって立ち上がると、彼の音楽に酔いしれ押し流されて静まり返ったままの聴衆に、彼はまた不安そうな顔を向けた。それは本当に単純に出来映えを親に確認する子どものように、自分の演奏がどこか不味かったのではないかと心配している顔だった。
 もちろん、その静寂は一瞬のうちに爆発するような拍手喝采にとって替ったのだが、その幼い子どものような顔が、音楽においては自らがいつでもパトロンになろうと考える熱狂的なウィーンの音楽愛好家を刺激したことなど、彼は全く気がついていなかっただろう。

 イネスの弟、テオドール・ニーチェは若き楽聖として既に指揮者としてもピアニストとしても名を知られていたが、そのニーチェと、彼、相川慎一のデュオはその後しばらくウィーンの演奏会の華となった。ウィーンの人々は、若く情熱的で、しかも控えめで礼儀正しい才能に溢れたピアニストを、自分たちが育てた雛鳥のように愛し支えた。
 その彼が演奏会で乞われるのは、彼が最も得意としていたベートーヴェンだった。だからショパンを演奏会で聴くことは滅多になかった。奈海は音楽に詳しいというわけではなかったので、ピアノと言えばショパンだと思っていて、何気なくショパンは弾かないの、と聞いたのだった。彼は意表を突かれたような顔をして、そんなことはないけれど、誰も僕のショパンを必要としていないと思っていたから、と言った。
 彼が奈海のためだけに弾いてくれたのがこのバラードだった。

「このピアニストの演奏を一度だけ聴いたことがあったんだ。それも、コンサートじゃないんだよ。パリに帰ってコンサートホールに勤めている友人を訪ねた時にね、リハーサル室からノクターンの20番が聞えてきたんだ。足が震えてしまって、一歩も動けなくなった。最近来るようになった新しい調律師が、調律の合間に時々弾いているんだという。友人から、彼が元はウィーンで活躍していた、チケットが取れないほどのピアニストだったこと、指を痛めて若くして一線から脱落した後はもうコンサートもしていないらしくて、パリで音楽のアレンジをしたりピアノの調律を手伝ったりしているだけだって聞いてね、それからCDを探し回ったんだ」
 奈海は四駆に凭れたまま、ネイサンの横顔をそっと見た。ネイサンは、倒していた椅子から身体を起こして、四駆の窓枠に腕を預けて、すっかり沈みきった後も大地の空気を黄金に揺らめかせている太陽の名残をじっと見つめていた。
 奈海も地平線に視線を戻した。
 沈みゆく太陽は、奈海が心の中でずっと静めていた不安の波を揺らめかせた。

「彼の音楽は僕を全く裏切らなかったよ。彼はベートーヴェン弾きでね、『熱情』なんか何度聴いても震えて泣けてくるんだ。僕はあれ以上の『熱情』を他に聴いたことがないよ。ダイナミックでロマンティックで、あの若さで人生を語っているなんて。もちろん彼のチャイコフスキーやラフマニノフも素晴らしかったけれど、でも実は、僕は彼のショパンが結構好きなんだ。彼のベートーヴェンを聴いていると、波に飲み込まれそうな瞬間があるんだが、ショパンは違うんだ。少し感情を抑えて弾いている、情感が溢れすぎないように気遣っている、その間が心地よくてね。すうっと心に入ってきて、静かに僕の中で音を奏でている、自分にだけ語りかけてくれているような、そんな感じがする。もっとも、心地いいって安心していたら、結局ぐいぐいと巻き込まれて突き動かされてしまうのは、ショパンでも同じなんだけれどね。パリを離れるときに、一枚だけ何か持っていこう、と考えたら、思わずこれを手にしていた。この音楽が側にあったら、自分を見失わないで歩いて行けるような、そんな気がしたんだ」

 そう言ってから、ネイサンは突然何かに気がついたように、あぁ、と声を上げた。
「気分良く彼のショパンを聴きながらサバンナの夕陽が沈むのを見ている場合じゃない。この上また到着が遅くなると、スコット博士を心配させることになるから、先を急ごう。さぁ、乗って」
 カーステレオは今、『幻想即興曲』を奏でていた。音の悪さも気にならないくらいに、心は穏やかに満たされていた。
 助手席に乗り込むと、ネイサンの指がハンドルを撫でるようにリズムを追いかけていた。
「日本人だから、もしかして君も彼を知っているかな」
 アクセルを踏んでネイサンが尋ねた。ライトが、赤土が暗く沈んでいく中に吸い込まれていった。えぇ知ってるわ、と奈海は思った。思ったけれど、首を横に振った。横に振ったときに、涙があふれ出した。

 ここにも、彼のショパンを必要としている人がいる、そのことが嬉しくて有り難くて、そして、イネスの言葉を深く感じた。
 私たちは運命で結ばれているのよ。私たち三人は姉妹なのだから、ナミもこの運命に参加しなくちゃいけないわ。
 私は今も、彼のバラードをこんなにも愛している。そして、今私が運命を共にしたいと願い始めている人は、同じように彼のショパンを愛している。
「ナミ? どうしたんだ? 僕は何かまずいことを言ったのか?」
 ハンドルを操りながらネイサンが困ったような声で尋ねてきた。
「ううん。お腹が空いたのよ」
 隣でネイサンはまだ困っているようだった。ずいぶんと間を置いてから、うん、同感だ、という声が返ってきた。でも泣くほどなのかな、と思っているに違いなかった。


「もしもし。あぁ、まさか、あなたなの、ナミ」
「えぇ、突然ごめんなさい。今、大丈夫?」
「今、シンイチのアパートにいるのよ。あ、彼は出かけているわ。ナミ、少し話してても大丈夫なの? 電話代とか、何より電源とか」
「えぇ、今日はマリンディの知人の別荘なの。大丈夫、充電もできるし、途中で切れたりしないわ」
 しばらくごそごそと音がしていた。それからユイの声がよりはっきりと聞えるようになった。

「どうしてるのか、心配してたのよ。兄のことがあるからって、あなたが私やイネスとまで疎遠になるなんて、あり得ないと思っていたんだから。実はね、兄をここから追い出すことにしたの。それで、この部屋に私が住むことにしたのよ。だから引っ越しの準備とか色々あって、それでこっちにいるの」
「どういうこと?」
「チェコの潰れかけの小さな劇場が音楽監督を探しているのよ。ほとんど無給に近いけれど、伝統のある古い劇場なの。あなたも知っているとおり、彼にとってはピアノと同じくらいオペラは大事なんだから、ここでピアノにしがみついてぼろぼろになるくらいなら、別の世界に飛び込んでみなさいって、勝手に契約して来ちゃった」

 奈海にとっては驚くことばかりだった。何よりもユイの行動力にだ。彼女は母親を交通事故で亡くしてしてパリに来たというが、実はイタリアのある名家の当主の落胤だという噂があった。当の本人はそれについては全くノーコメントだったが、奈海が知っている彼女は、イネスと同じように、ひたすら自分の力だけを頼りに生きている、がむしゃらで精一杯で、そして外見の神秘的な冷たさとはまるで正反対の、いじらしさと熱さを秘めた眩しい女性だった。
「でもさすがにそこにレイナは連れて行けないし、私もパリからは離れられないし。それでレイナを私たちのアパートの方に引き取ろうとしたのよ。ところが、父親と母親のどっちに似たのかしれないけれど、この頑固娘、絶対ここを離れたくないっていうから、私の方がこっちに住むことになったの。もしかしてシンイチやあなたが帰ってきた時に、この部屋がなくなってたら迷子になるでしょ、ですって。五歳のチビ助の言うこと?」
「レイナ、そこにいるの?」
「えぇ、イチタロウの猫まんまを作ってるわ。替わる?」
 奈海は一呼吸置いて、目を閉じた。
「いいえ。今は」

 それ以上説明の言葉を付け加えることはできなかった。ユイもまた何も聞かなかったが、何を察したのか、この電話が切れる前に言うべきことは言わなくちゃというように話し始めた。
「ねぇ、ナミ、覚えていなかったら困るから、もう一度言っとく。私たちは運命の三姉妹なの。あなたの好きなあの曲みたいに、どんなに苦しくたって、10001回目はきっと来るって、いつか話したわよね。あなたはもしかして、こんな世界には自分は見合わないって思ったのかもしれないけれど、あなたが私たちの写真を撮ってくれなかったら、私たちは今ここにいない。他の誰かの写真じゃない、あなたの写真が認められたのは、あなたが私やイネスのことをちゃんと見つめてくれたからよ。あなたの写真が私たちの本当のところをちゃんと写していたからなの。地球のどこだっていいの、あなたの帰るところには私もイネスもいるんだから。そして私たち三銃士には守らなければならない姫君がいるんだから」

 お~い、とベランダの下からネイサンの呼ぶ声が聞えた。スコット博士に案内してもらって、シマウマを見に行く約束をしていたのだ。
 ふと、フィルムに焼き付けたはずの、サバンナの夕陽に赤く染まったネイサンの髭面を思った。
 そして、あの時、なぜ不意に寂しい思いが過ぎったのか、分かったような気がした。
 ここにやってきてから結ばれた絆は、切れてしまった過去の絆のあとを結び直したにすぎない、と思ってしまっていなかったか。フィルムは無駄なんかじゃない、この瞬間は二度と帰ってこないかも知れないのだ。そう思って不安になったからシャッターを切ったのだ。この糸も古くなったらまた切れてしまって、私にはその糸をしっかりと結びつけておく力など無いのだと、あの時、沈みゆく太陽に告げられているような気がした。

 シンイチの元を去ることを決めたとき、最初に相談したのはユイだった。シンイチとパートナーとして生活を共にし、子どもを持つに至った以上、ユイは奈海にとって義理の妹だったからだ。
 ピアニストとしてのレッドカーペットをそのまま歩き続けることのできなかったシンイチに同情はできても、荒れていく彼の生活や精神を支えるだけの力が奈海には欠けていた。それは、自分のカメラマンとしてのキャリアに自信が持てない事とも関係していた。
 華やかなモデルたちの姿をファインダーに納めながら、私が本当に撮りたいのはこんなのではないと思い続けていたのだ。だから、始めにイネスやユイの写真を認められたことで仕事を回してもらえるようになったキャリア、モデルを撮るカメラマンとしての仕事に、誇りを感じられなくなっていた。

 情熱を傾けていたことから見放された二人が一緒にいても、苦しいだけだった。
 シンイチはもっと苦しんでいた。さらに重厚な音を求められてトレーニングで重い鍵盤を叩いていた彼の小指の自由が利かなくなったとき、奈海は自分の無力を知った。その違いは奈海のような音楽の素人だけではなく、音楽の専門家の耳にだって聞き分けられない程度のものだと聞いた。むしろ、彼の音楽に深みを与えるものではないかという人もいた。だが、耳のいいシンイチ自身がその自分の音に耐えられなくなっていた。
 一体、百分の一秒以下のずれがなんなの!
 思わず叫んだ奈海を見たシンイチは、奈海が何も理解していないと気がついてしまった、そういう目をしていた。
 この人は私を必要とはしていない、ただひたすらに芸術の神に一人きりで対峙している、そして、やはりたった一人で、まだこの先に行こうとしている。音楽と向き合って、この人はなんて孤独なんだろう、そう感じてしまったのだ。
 そこに奈海の居場所はなかった。

 あの時、ユイは黙って奈海の決心を聞いて、それから微笑んだ。
「分かったわ。だったらナミにだけ、私の秘密を教えてあげる。私がどうして一生結婚しないって決めているか。私が世界で一番愛している男は、血の繋がった兄だからよ。私はあの人を生かすためなら、なんだってする。誤解しないでね。あなたに嫉妬してなんかいないわ。むしろあなたには感謝しているの。私たちと同じ運命の船に乗ってくれたこと、そしてレイナを産んでくれたこと。もしもあなたに何かがあったら、私もイネスも、あなたのところへ飛んでいくわ。それだけは確かなこと。私たちは同じ魂の船に乗って、戦っている。だからこそ、あなたの人生が、あなた自身のために先に延びていくことを、私たちは誰よりも願っているのよ」

 ゆ~い、いちたろーが~
 電話の向こうだというのに、姫君の声がずいぶんとはっきり聞こえた。
 こらっ、やさいもたべなきゃだめっ!
 馬鹿ね、イチタロウはパパのようには野菜は食べてくれないわよ。
 ユイが電話の向こうで、姫君に猫の生態について意見してから、奈海との会話に戻ってきた。
「まぁ、この姫君はもしかしたら、三銃士よりも逞しくなるかもしれないけどね。五歳にして、自分が父親の面倒を見なきゃならないと思ってるし、毎日彼にダメ出ししてるのよ。きっと多少のことには動じない女になるわ。なんと言っても、三銃士も姫君も、打たれ強いのが一番の取り柄ですもの。王子が来なかったら、自分でなんとかするだけよ。ねぇ、ほんとに、替わらなくていいの?」
 
 どこかの時点で私はあの華やかな世界に疲れてしまったんだ。
 ずっとそう思ってきた。そして、上手く繋いでおけなかった糸を思うと、自らの無力に足下から力が抜けていきそうになった。それを振り切るようにシャッターを切り続けてきたけれど、まさかそんな自分の気持ちを溶かしてくれたのが、切れてしまった糸だと思っていたシンイチのバラードだったなんて。そして、そのバラードを愛する人が、他にもいて、その人はこんなにも近くにいたのだ。
 あの燃える夕陽、絶対的な自然を前に彼のショパンを聴きながら、ネイサンがシンイチについて語った告白のような言葉を聞きながら、そして、今、電話の向こうに決して切れない運命に結ばれたユイやレイナの声を聴きながら、不意に一番大事なことが分かったような気がした。

 イネスも、ユイも、自分を信じて、ただ必死で生きているのだ。
 私が彼女たちの横顔を美しいと思ったのは、モデルとしての洗練された体つきや化粧の技術や華やかな衣装のせいじゃなかった。男たちや口さがない無責任な連中からどんな目で見られても、あの世界を生き抜いてやろうとしているイネスやユイの肌のうちから立ち上ってくる気品と気概。横顔からにじみ出る、どんな身分の偉い人間だって生きているだけでは持ちようもない信念と輝き。私が撮ってきたのは、そんな彼女たちの本当の美しさだった。
 私はこれまでの仕事にだって自信をもっていいのだ、あの運命に参加できたこと、今もまだ参加し続けていることを誇りに思っていいのだと、今ようやく過去を肯定することができたような気がした。

「ナミ?」
「今はまだ、何を言ったらいいのか分からないの」
 それでも、今はまだ。この先を歩いて行って、自分のことをちゃんと語る言葉を持つようになるまで、まだ娘とは話せないと思った。なぜなら、もう既にあの子は、私の娘というだけではないのだ。
 私たちの娘。だから私もまた、彼女と対等に語ることができる者であるべきだと思った。
 でも、彼には、この事だけは今こそ伝えて欲しい。
 今ならば少しだけ、シンイチの求めていた「その先」が分かるような気がしたからだ。

 古い絆も、決して切れてしまった訳ではなかった。そして、新しい絆は、その上に次々と結び固められていくに違いない。全ては自分がどう結び合わせていくかなのだ。
 ネイサンは言ってくれたじゃない。
 この音楽が側にあれば、自分を見失わないで歩いて行ける、と。
 ネイサンが愛してくれたあの音楽は、シンイチがあの苦しみの中で、ただの一音も無駄にしないと願いながら奏でてきた音なのだ。アフリカの大地にも負けない、苦しくても妥協を許せない、百分の一以下のその一点しかあり得ない、シンプルで絶対的な真実の瞬間なのだ。
「ユイ、ありがとう。あなたの声を聞くことができて良かった。それから、シンイチに伝えて欲しいの。あなたのバラードは、確かにこのサバンナにまで届いているわって」

 そう、だからやっぱり、私はこれからも「人」を撮りたいと思った。
 それが華やかなステージに立つモデルたちであっても、医療に手の届かないところにいる人たちに手を差し伸べようとしている無骨な医師であっても、子どもを混乱の中で亡くして行き場を失った看護師であっても、その人が確かに今ここで生きている横顔を、化粧の向こうにある心の核のようなものを、皺だらけの手の中に籠められた人生をかけた技を、太陽に焼かれながらまっすぐに顔を上げて地平線を見つめる祈りを、ずっと撮っていこうと思った。
 そしていつか、ミューズに魅入られた一人の音楽家の横顔を、繊細でいて節くれ立った力強い指先を、選ばれたものの苦悩と恍惚の狭間で戦い続ける魂の片鱗を、このファインダーでとらえる日がきたら、と願っていた。

「ナミ、シマウマが逃げて行ってしまうぞ」
「すぐ降りるわ。ごめんなさい」
 人間よりも動物の知り合いの方が多いというスコット博士と、医者だと名乗っても二度ほどは聞き返されるであろう冴えない風体のネイサン、相変わらず笑い顔ひとつ見せない看護師に向けて、奈海はベランダから手を振った。

(2017 scriviamo!参加作品【サバンナのバラード】 了)



テーマ曲は「浪花節だよ 女の人生は」って奴ですね(細川たかし『浪花節だよ人生は』)。青森の小原節の歌詞にも「津軽姉コの心意気」ってのがあります。
ちなみに「バラード」というのは、切ない恋心を歌うものではなく、単純に「物語」という意味なのですね。民謡にも「口説(き)」というのがありますが、これも男女の恋愛の色っぽい話じゃなくて「口説」=「物語」という意味。
だから、この話は単に「サバンナ物語」……(ちょっと身もふたもないタイトル)
でも物語の多くが恋愛を語っていることからも、「物語」に愛は必要なのです。うん。


ユイ(結依)は慎一の異父妹、お察しの通り父親はジョルジョ・ヴォルテラです。えっと、どうしてそんなことになってるかはまたいずれ。レイナは二代目真の母親、詩織のお祖母ちゃんです。この家系はことごとく女が強いらしいです。自ら三銃士とか言ってるし(*^_^*)
慎一のデビューはベートーヴェンの「皇帝」だったのです。もちろん、誰って、あの人のことを思っていたのでしょう……(あ、私がそう思って曲を選んだのか)。あの人の物語のタイトル自体が「Eroica」だったのですが、交響曲の方の「英雄」もまたどこかで登場するかも知れません。

ベートーヴェンの曲は、あの偏屈そうな写真とはまるきり違って、ものすごくロマンティックだと感じます。慎一がベートーヴェンを得意とするのには別の理由があるのですが、ショパンよりもリストよりも彼にベートーヴェンが似合うと思った理由は、あのダイナミズムとロマンティシズムの両者の調和。
このシリーズ、音楽の云々をなけなしの知識(というよりもほとんど無いに等しい知識)を振り絞って書いているので、実は結構しんどい……でも、無い袖でも、結構振れるもんだ、とかしょうも無いことで感心しているのでした(大したものは出て来ないけど、埃とか、糸くずとか……^^;)。
芸術って、偏狭で孤独な仕事ですよね。だからこそ、人を感動させるのかも知れません。
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Category: ♪慎一・短編

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【奇跡を売る店(2)】砂漠に咲く薔薇(2)~昭光寺にて(2)~ 

デザートローズ1
 長かったので2回に分けた『砂漠に咲く薔薇』第2話の後半です。

そう言えば、この話、夏の話だったなぁと今更ながらに思ったのですが、読むときは季節が違うからっていちいち引っかからないけれど、書くときはちょっと悩むなぁと思いました。だって、今は寒い! 背中がぞくぞくする。そんな感じで書いているときの体感温度が、何となく文章に出ないかと心配になってしまいました。

行ったことのない土地や今じゃない季節のことを書くとき、文章に出ないようで出ているかもしれない事の中に、匂い(臭い)と音があります。場所の見た目は写真からでも知ることはできるけれど、その場所の空気感を構成している音やにおいはそこに立ってみないと分からない。
ヴェネチアに行ったとき、写真だと町の姿は優雅で、まさにアドリア海の女王なのですけれど、実際にはアクアアルタの海の臭いが結構気になったのでした。水はお世辞にも綺麗とは言いがたいし。こういうのって、現地に立っていないと分からないこと。
そして、冬に夏の話を書くとき、夏の音ってどんなのだったかな、匂いってどんなのだったかな、必死で思い出しているのでした。蝉の声は陳腐だなぁ~(しょぼん)

登場人物(レギュラー陣)などのご紹介は以下の記事をご参照ください。
【雑記・小説】自作を語るのはまだ早い(2)~奇跡を売る店~


 海は少し真面目な顔をして、一度自分に確認するようにうなずいた。
「釈迦堂くんにお礼を言わなくちゃ、と思ってたんよ」
「なんで」
 思わぬ言葉に蓮は不意を突かれて、返事ができないまま海の顔を見ていた。海は蓮の反応の薄さに応えようと、う~ん、と言いながら言葉を探したようだった。

「何てのか、栞那ちゃんみたいに、小さいときから病院に通ってて、結構重い病気で毎月病院に通っているような子のことでも、私らってあんまり何も知らないんやって、改めて思ったから。何となく毎日それなりにやってくれてるんだろうって、勝手に思い込んで、勝手に安心してたんよね。日常って、ほんとはたくさん辛いこととかしんどいこととかあって、一ヶ月の中のほんの一瞬の時間じゃ何も分からないんだって、こんなことでもない限り気がつかないで通り過ぎちゃう。にこちゃんもそうだよね。釈迦堂くんがこうして毎日彼女のことを見てるってこと、実は凄いことなんだって」
 蓮はいささか間抜けな顔で海を見ていたのかもしれない。珍しく海が困ったような表情を浮かべた。
「私、なんか変なこと言ってる?」
「いや、そうやなくて」

 海が変わらず海のままでいてくれることが嬉しかった。自分がどうなっても、周りの人間が変わらないでいて欲しいというのは身勝手な願いではあるが、こうして関係が変わっても、時が流れていっても、海は昔のままだ。他の皆が通り過ぎるところでちゃんと立ち止まってくれる。そんな海だから、自分の心を上手く表現できない蓮のことも、気がついてくれていたのだ。
 二人が向かい合った座卓の上を、窓からの風が流れていく。いろんな事があって、若くてきっと輝いていた時には戻れないけれど、海の言うとおり、風の匂いは昔のままで懐かしい。木々の間を通り抜けながら細かな湿気を含んで、この西陣の町の片隅の小さな部屋に届く風。

「栞那ちゃん、家を出てたみたいなの。お母さん、あんまり言いたくない様子だったけど、ほとんど友だちのところにいたらしくて。外来受診の時は一緒に来てたから気がつかなかったけど、待ち合わせして病院に来てたんやって」
 確かに、ひと月に一度、きっちり病院に来て、検査上はそれなりに薬の効果も確認できていて、親もついてきていたら、当然同じ家から病院に来たと思って不思議ではない。長く親しんだからこそ、敢えて毎日の生活のことまで根掘り葉掘り聞き出すようなこともない。もちろん、相手が話したがっているならば別だ。

「友だち?」
 亡くなった女性のことを母親は知っていたのだろうか。
「どんな人かは知らないって」
「親はそれで放ってたんか」
 怒ったつもりではなかったが、言葉がきつかったからか、海はちょっとむっとした顔をした。

「放ってたわけではないんやろけど、親子やからこそ、言いたくないことまで言っちゃうこともあったんやないの。顔つき合わせたら喧嘩になるし、ついつい、そんなに嫌やったらもう帰ってこんでええ、とか言っちゃうこともあったみたい。もちろん、最初のうちは探したり連れ帰ったりしてたみたいやけど」
「でも、まだ未成年やろ」
「でももう十八やもの」
 親なら、どこまでも子どもの我が儘や葛藤に付き合ってやるべきだ、と理想論をかざしたいわけでもなかった。十八や二十歳という年齢までに子どもが自立できるように、方法を授けてやるのが親の仕事だと、教育論を語るつもりでもなかった。そもそも蓮にはそういう親子論を語るための土台がなかった。

「ごめん、俺には分からん」
 蓮がぼそっと言った言葉に、海がものすごい勢いで反応した。
「ごめん、そんなつもりやないの」
 小学校の時には二親ともいなかった蓮の気持ちは、多分海には分からないだろう。だが、そんな自分の感情の構成を、蓮自身が一番分かっていないのだ。少なくとも海はそんな蓮を分かろうとしてくれたし、もしかしたら彼女なりの方法で成功していたのかもしれない。
 海は、昔からそうであったように、蓮がこれ以上は触れて欲しくない部分に来ると、上手く話題を変えてくれた。

「そうだよね。うちらの患者って年齢相応の精神年齢ってわけには行かないんだよね。身体だけは大人になっていても、不自由なことだらけでどうしたって自立できないことも多いし。それに、最近って、携帯ですぐに連絡取れるから、子どもが家に帰ってなくても、居場所が分からなくても、いざとなったら何とかなるとか、繋がってるって勘違いするんだよね」
「彼女のとこ、母子家庭やったよな」
「うん。お母さん、働いてるしね。ずっと一緒にいるわけにも行かないし」

 蝉が一斉に鳴くのを辞めたかと思うと、また一匹の合図で合唱を始めた。風の中の湿気はずいぶんと少なくなったが、やるせないような気持ちで身体が熱く湿っぽくなった。
「お母さんも心配してないわけじゃないと思う。でも、毎日、不機嫌だったり暴れたりする娘と向き合ってるのもしんどかったのかもしれへん。あの子、中学の頃からほとんど学校に行けてなかったもん」

 栞那に会ってあの石を渡した時のことを思い出していた。あれは半年ばかり前の事だった。
 その時、もう少し何かを聞いてやれば良かったのか。だが、どんなふうに? 彼女は「別に。たまには、うちかって遊びたいもん」と言っていただけだった。
 本当にそうだろうか。何かのサインを見逃していたのか。本当は助けてと言っていたのだろうか。少なくとも石を渡したと言うことは、何かを予感したからではなかったのか。自分でもよく分からなかった。

「さっき、彼女に何かあったのか、やなくて、何かしたんかって聞いたやろ」
 海はうなずいた。
「お母さんに『栞那ちゃん、どうしてますか』って電話したら、話の中で『あの子、何かしたんですか』っていう感じのこと聞かれたから。家からちょっとしたもの盗んでいったりしてたみたいやし。まぁ、家のものやから、盗むって表現にはならへんかもしれんけど、その事を追求したら、あんたがこんな身体に産んだからや、って言ったって」
 蓮は何も言えなかった。

 半年前、谷原栞那が蓮に言った言葉は、一時も忘れてはいなかった。
 どうせ先生の身体やないやん。
 それは、いつかあの女性に言われた言葉と同じだった。
 どうせ先生の子どもじゃないでしょ。
 そうだ、と割り切ってやれば良かったのだ。中途半端に入り込んで何かができるわけでもなかったし、彼らが蓮に期待していたことはそんなことではなかったのだろうに、自分で空回りしてしまった。

 本当は、谷原栞那はよく分かっていたはずだ。病気を持って生まれてきたのは母親のせいではないということくらい。だが、母親は病気の子どもを産んでしまったのが自分のせいだという気持ちから逃れられないでいるのだろう。
「釈迦堂くん?」
 海が向かいから心配そうに見ていた。谷原栞那のことを話しているのは分かっていたが、どこかでいつも和子と和子の母親のことが重なっている。海には見抜かれているかもしれない。
「あぁ、ごめん」

「今度はそっちの番だよ」
 海の口癖だ。蓮があまり自分のことを話さないので、いつも海は自分のことを一通り話した後、次はそっちの番だよ、と言った。
その言葉で、蓮はいつも救われていた。
「アパートで若い女性が亡くなったんや。死因は外傷性くも膜下出血。アパートの契約書によると、名前は芝浦陽香、十九歳、身元保証人に当たってみたら、保証人ビジネスやったようや。その部屋に、どうやら谷原栞那が転がり込んでいたらしい」
 海はちょっとの間考えていた。

「でも、うちの病院に警察が来た気配はないし、栞那ちゃんのお母さんも警察がどうのって話はしてなかったけど」
「じゃあ、まだ警察は谷原栞那の名前を突き止めてないってことなんやろ」
「それで、釈迦堂くんはどう関係してるの?」
 蓮は和子ががらくたを入れている箪笥の引き出しから、小さな石を取り出した。
「これ?」
「デザートローズや」
「食べれるの? なわけないか」
「そっちのデザートやなくて、砂漠の薔薇。その亡くなっていた女性の部屋にこれと同じ石があったらしい。それで、『奇跡屋』に警察が来て、婆さんが『それは蓮が知ってる石や』なんて余計なことを言ったから、俺のところに警察が来たってわけや。最初はてっきり谷原栞那が亡くなったのかと思って慌ててもうて」

 海は五百円玉くらいの直径のデザートローズを摘まみ上げて、じっと見つめ、また座卓に戻した。
「ゴミだと思わなかったのは、警察にしたら上出来やない? ダイヤとかルビーならともかく」
「ダイヤやルビーやったら婆さんのところには来えへんやろ。それにこの石、ゴミと思うにはちょっと気になるんかもしれへん」
 まさに石の薔薇と言われて納得するような不思議な形の石だ。白っぽいものから赤系の砂色のものまで色彩は色々で、大きさも様々だ。もろくて加工されることもないので、石そのものの値打ちがあるというものでもないが、願いを叶える石だと言われている。

「確かに。で、この石と栞那ちゃんの関係は?」
「警察が俺に見せたんは、俺が谷原栞那に渡した石やったんや」
 そんなふうに言ったら、普通なら、どうして「その石」だと分かるのだと聞かれそうだが、海はもうそんな無駄な質問はしてこなかった。彼女は、『奇跡屋』の婆さんや蓮が、石の一つ一つの顔を見分けられることをもう十分知っている。
「いつの話?」
「半年前、彼女にばったり会って、ちょっと話をしたから」
 細かい内容について口をつぐんだら、海はさらりと流してくれた。

「そのこと、警察に言ったん?」
 蓮は首を横に振った。
「でも、その亡くなった子の携帯の通話記録とかアドレス帳とか調べたら、栞那ちゃんのこと、すぐに分かるんやないの?」
「いや、俺が呼ばれたときは、警察は谷原栞那のことは知らんかったと思うし、少なくとも病院へも警察は来てないんやろ」
 蓮が警察に行って話を聞かれた時、亡くなった女性の携帯の話などは出なかった。もちろん、重要参考人の関係者であると思われる蓮に捜査情報を漏らすことはないだろうから、事情を知ることはできない。
「ただ、釈迦堂くんはその石の持ち主と繋がってるとバレちゃってるわけやね。それで、警察は釈迦堂くんのところに関係者が現われるかもしれないって、見張ってるってことか」

 石を見せられたとき、思わず反応してしまったので、警察は蓮と「謎の同居人」には関係があると思っただろう。咄嗟のことで演技もできなかった。もちろん、その場では、「確かに奇跡屋に置いてあった石で、誰かに売ったけれど、売った相手は忘れた」と答えておいたのだが、例のごとく胡散臭そうな目で見られ、しっかり疑われたわけだ。
「何より、それって殺人ってことなん?」
「いや、そもそも警察が俺にそんなこと教えるわけないやろ。でも、不審死なんは間違いないし、警察は疑うのが仕事やし、その亡くなった女性の『同居人』には一応事情を聞かんとあかんのやろ」

「外傷性くも膜下出血なんでしょ。事故ってこともあるやん」
「それでも家の中で誰も見てないところで死んでたら不審死や。もちろん、殺人だと疑うような何か事情があるんかも知れへん」
「魁さんの元同僚とかにこっそり教えてもらわれへんの?」
 思わず言ってしまってから、それはないか、と海は一人で納得して、警察から聞き出すという提案を自ら却下した。そして、不安そうな声で聞いてくる。

「栞那ちゃんが釈迦堂くんに連絡してくると思う?」
 それは何とも言えなかった。
「次の外来、いつなんや?」
「二週間先」
 それは果てしない時間に思えた。谷原栞那が今どうしているのか、そもそもその女性が亡くなったことを知っているのか、何も分からないまま過ごすには長すぎる時間だった。

 半年前。
 オカマショーパブ『ヴィーナスの溜息』での仕事を終えて帰る途中、三条木屋町の辺りで谷原栞那とばったり出会った。
 蓮の記憶にあった中学生の栞那とは違って、派手な化粧をして、髪を染め、冬というのに短いスカートで素足にブーツを履いていた。値段は分からないが、毛皮のコートが彼女に不釣り合いで、子どものような胸元が覗く服も、蓮を戸惑わせた。
 だが、どう見ても真面目なお付き合いをしているとは思えない若い男二人と一緒で、酒も飲んでいる様子だったので、放っておけなかった。男たちとはいささか揉めたが、栞那を説得してとりあえず『奇跡屋』に連れて行った。

 どうせ、先生の身体やないやん。

 いつも何かに精一杯で、他の何かを受け入れてやるための余裕がなかった。ショーパブの仕事も、手を抜こうと思えば抜けるのに、適当に器用にやることができない。ママやソノコさん、シンシア、ミッキー、皆の身体のことも心配になる。伯父が失踪してしまった釈迦堂調査事務所の仕事もそうだ。滅多に依頼がなくても、伯父が帰ってくるまであの場所を守りたいと思っている。引き取った和子のことも、失踪した伯父の魁のことも、荒れた生活を送っているふりをしながら魁を探しているらしい従弟の舟のことも、大原の里で一人仏像を彫っている大和凌雲のことも、何もかもが気になって仕方がない。
 だが、舟が蓮を頼ってこないのは、蓮がいっぱいいっぱいになっていることを知っているからだ。和子が蓮に懐かないのも、蓮のすべてが和子に向けられているわけではないことを感じているからかもしれない。本当の親ではないからだ。
 あの時も、谷原栞那が何かに追い詰められていたのだとしても、それに気がついてやれるだけの余裕が自分にあったのかどうか。

「ここ、石屋さんなん? ダイヤとかルビーとかは置いてないん? これって幾らくらいするん?」 
「鉱物、つまり貴石だ。ものによっては百万以上するものものある」
「キセキが起こるん? それやったら百万くらい出す人もおるかもなぁ。泥棒、入らないん?」
「この店は魔女のような婆さんがやっていて、下手なことをしたら呪われるとみんな信じてるからな。奇跡が起こるかどうかは、持つ人間によるし、石との相性もある。ちなみに、ミラクルの奇跡じゃなくて、貴石。貴い石だ」
「パワーストーン、とか言うやつ? わぁ、これ、面白いの」
「それはデザートローズ。砂漠の薔薇、という名前の石だ」
「ふ~ん」
「気に入ったんなら、やろうか」
「呪われるんやろ?」
「だから、石との相性だよ。惹かれたなら相性が合うんだ」
「光ってないところが、うちと一緒や」
 光らない石。そして見た目通り、もろい石でもある。栞那はそれも感じ取ったのかもしれない。自分と石を重ねて何かを感じたのだ。

 海が帰った後、蓮はずっと部屋の畳の上に寝転がって天井を見ていた。立っていると低く感じる天井が、こうしてみると遙か彼方に思える。
 大通りから入り込んでいるために、蝉や風の音はともかく、ここは不安になるくらい静かだった。ふと時計を見ると、そろそろ出勤しなければならない時間だった。
 起き上がって、汗ばんだTシャツを脱いだとき、座卓の上に放り投げてあった携帯が震えた。大原に和子を連れて行ってくれている舟からだった。
 
< にこ、初さかなゲット!
 添付された写真には、川魚をこわごわと持っている和子が写っていた。舟と、もしかすると凌雲も一緒に、釣りにでも行ったのだろう。
 相変わらずの和子の硬い表情は、その写真が蓮に送られることを意識していたからなのか。シャッターが切られた後、和子が彼らに笑顔を向けている様子を想像して、蓮はなんとも言えない気持ちになった。



Category: (2)砂漠に咲く薔薇

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【奇跡を売る店(2)】砂漠に咲く薔薇(2)~昭光寺にて(1)~ 

デザートローズ1
先日、八少女夕さんが「あんまり間を開けると読んでくださる方も大変だから、できるだけ続けてアップしています」というようなことを書かれていましたが、その夕さんの爪の垢を煎じて飲みなさいと言われそうなくらい間が開いていて済みません。
でも前回部分はとても短くて、ちらっと流し読みしてくださっても、と言う程度の内容なので、許してやってください。

でもかいつまんで言うと。
18歳と19歳の少女が同居していた部屋で、少女の一人が亡くなっていた。死体を見たもう一人の少女は、その子の格好がみすぼらしくて可哀想だからと、お気に入りの服に着替えさせ部屋を出る。少しの間一緒に住んでいたし、友だちだけど、本当はその子のことを何も知らない、でももしかすると自分が彼女を殺してしまったかもしれないと思いながら。
失踪した伯父の調査事務所の留守番探偵・釈迦堂蓮は、夜はオカマショーパブ『ヴィーナスの溜息』でホール係をしている。その蓮のところに、警察が「この石のことを知らないか」と訪ねてきた。
彼らが持ってきたのは、まるで砂で作られた薔薇のような石、デザート・ローズ。それは蓮がある知り合いの少女に渡したものだった。


ミステリーの冒頭は下手な小細工をするくらいなら死体を転がせ、と言う鉄則に基づき?、一応転がしてみました。このブログのコンセプトは死体の転がらないミステリーなのに、どこで道を間違えたのか……
第2話は少し長いので、2回に切りました。しばらく、蓮の事情などをお楽しみください。

登場人物(レギュラー陣)などのご紹介は以下の記事をご参照ください。
【雑記・小説】自作を語るのはまだ早い(2)~奇跡を売る店~



< 明日、本堂から入ってきて欲しいんや。
< りょうかい。ちゃんと仏教婦人会っぽくして行くわ。
< ごめん、ややこしいこと頼んで。
< 別にええけど、「ややこしい」の中身、ちゃんと説明してよ。

 如月海は日曜日の朝、昭光寺にやって来た。
 百日紅、きれいやね、とやってくるなり海は言った。
 そうか、そんな庭の景色を楽しんでいる余裕も最近はなかったな、と思った。

 盆が終わって、慌ただしかった人の出入りも少しは落ち着いてきたが、今度はツクツクボウシが夏の終わりを告げるべく大騒ぎを始めていた。
 夏はいつも、檀家の老人の誰かの調子が悪いという噂を聞く季節だったが、今年の夏は少しばかり涼しかったからか、幸いなことに誰かが倒れたという話もあまり聞いていない。

 海を呼び出したのは蓮だった。警察は「重要参考人」が蓮に連絡をしてくるものと考えているらしく、蓮の周りを見張っているようだった。
 蓮の居場所は、奇跡屋(つまり釈迦堂探偵事務所)とショウパブ『ヴィーナスの溜息』、それに居候をさせてもらっている昭光寺の三か所しかない。つまり、警察にとって蓮を見張ることは極めて容易だということだ。蓮がどこか特別な場所に出かけると、すぐに相手に動きが見えてしまう。

 三ヵ所の中で警察が簡単に踏み込めない場所は、この昭光寺だけだった。ありがたいことに寺という場所は、不特定多数の人間が出入りしても不思議では無い。一方で、顔見知りではない人間が入り込んでくると、自然に警戒する機能も持ち合わせている。
 日曜日には毎週、朝のお勤めの後、仏教婦人会の勉強会(と称する井戸端会議)があった。集まる女性たちに混じって、海は母屋の玄関ではなく本堂の方から上がって、蓮の待つ応接室にやってきた。

 ここ数日、寺の周囲に、見慣れない車や人の気配がある。海にそのことを説明しておくべきかどうか迷ったが、結局は黙っていた。もっとも、海はすぐに気がついたようだ。
「なんか、ドラマみたいやね」
「え?」
「だって、胡散臭い感じの男が二人、運転席と助手席に並んで乗ってたら、まぁそういうことでしょ」
 そういえば付き合っている頃、高速道路でねずみ取りはすぐ分かる、追い抜くときは注意するんや、なんて話をしたことがあったかもしれない。

「あそこ、路駐禁止ちゃうん? 通報してやろかと思った」
「禁止やないけど、邪魔なんは確かやな」
「なんや、穏やかやないね」
 婦人会の世話役の峰岸さんがお茶とお下がりのお菓子を持ってきてくれた。峰岸さんは海のことを知っていたはずだが、何も言わなかった。だがきっと、井戸端会議の席に戻ったら、早速「元婚約者が来てはりましたんや。より戻さはったんやろか」と誰かに報告するのだろう。

「にこちゃん、今日は?」
「昨日から大原に遊びに行ってる」
「一人で?」
「いや、舟が一緒や」
「ふうん」
 海は納得したような、していないような返事を返してきた。

 何で釈迦堂くんは一緒に行かへんかったん、とは聞かないが、一緒に行ったらいいのに、とは思っているだろう。蓮は「仕事があるから」と答えるし、その本心は、舟と和子と凌雲が一緒に居る場所に居づらいのだということは、海も分かっているのだ。
 和子は相変わらず蓮には懐かないし、蓮の前ではいつもむすっとした顔のままだ。だが、舟に対しては、愛想までは良くはないにしても、連に対してよりもずっといい顔をしていると思う。舟は見かけも態度も不良のようだが、和子のことは可愛がっているからだ。

 それに、大原に棲む仏師の大和凌雲のことは、父親のように慕っている。それは、戸籍上の父親となっている蓮に対する態度とはまるで違っていた。
 舟だって同じだ。従兄の蓮に言えないことを、元家庭教師の凌雲には打ち明けているようだ。蓮も凌雲の教え子だったのだから、舟が凌雲に何を打ち明けているのか教えて欲しいと言っても不自然ではないのだが、なんとなく言い出せない。
 もっとも、凌雲は人の相談事を、他の誰かに漏らしたりはしないだろうし、蓮にしても舟の事情を知りたがっているとは凌雲に知られたくない。凌雲は蓮のそんな気持ちはお見通しだろうが。

 和子のことも、舟のことも、そして凌雲のことも、誰よりも蓮自身が一番気にかけていると思うのに、彼らが仲良く一緒に居る場所には居づらい。自分は彼らの誰からも頼りにされていないのだと勝手に感じて拗ねている、そう言われても否定はできない。
 子どもの頃に両親を失ったために、どうしても、誰かと食卓を囲むような関係に慣れないからかもしれない。

「にこちゃん、調子どうなん?」
 和子の外来は二ヶ月に一度ほどなので、前回の外来からは一ヶ月以上、海は和子の顔を見ていないことになる。
 和子には心臓の病気があり、体格が同年代の子どもに比べて小さいことと、通院や検査と薬の内服の必要があるものの、外見的にははっきりと病気だとは分からなかった。よく見れば唇は少し暗赤色で、爪は少し丸みを帯びていて、胸には手術の痕があって、体力的にも明らかに他の子どもと違っているが、自立して歩くこともできるし、多少なら走ったりもするし、保育園にも通っていると、普通の子どもだと勘違いされることもある。

「変わらへん」
 あまりにも短く素っ気ない返事に、ちょっと不満そうな気配が海から伝わってきたので、蓮は慌てて付け加えた。
「元気にしてる。冬場よりは調子よさそうや」
 海がそれ以上不満の言葉を寄越さなかったので、蓮はその話題を打ち切ってよいと判断した。

 婚約までしていた二人の間には、言葉にならない以上の理解があると、蓮は今でも信じていた。言葉足らずの蓮のことを察してくれる海は、数少ない蓮の理解者だった。たとえ婚約を破棄しなければならなかった原因を作った蓮を、今でも彼女が心の内では許していないのだとしても。
 もっとも、海は、その話題を持ち出すと怒るだろう。

 言っとくけど、私は捨てられた可哀想な女やないからね。まだまだ仕事したいのに、結婚しようとか思った方がどうかしてたわ。私、不器用なんよね。仕事と家庭と、両立とか無理やし、それに、釈迦堂くんとはこのくらいの関係がちょうどええと思わへん?

 一度、そんなことを言われたことがあった。海らしい気遣いだと思ったが、彼女が自分との関係をあえて断ち切ろうとしていないことは嬉しかった。もっとも、彼女が和子の主治医の一人である限り、切ろうにも切れないだろうし、蓮の方でも、どんな理由でも彼女と繋がっているということにどこかで頼っているのかもしれない。
 もっとも、「このくらいの関係」は、世間から見ると、それでも十分に友人の域を超えているだろう。

「それで、栞那ちゃんの、いや、谷原さんのお母さん、何て言ってたんや?」
 小児科医の悪い癖が今でも抜けない。患者である子どもたちを、成人に近い年齢になってもつい「○○ちゃん」と呼んでしまうのだ。
 海はふうとわざとらしく息をついた。
「そもそも警察が、あんなふうに釈迦堂くんのこと、見張ってるってどういうこと? 栞那ちゃんが何かしたん?」
「いや、彼女が何かしたというのか……というより、何かしたのが俺や舟だとは思わへんのか」

 海が「何かあった」ではなく「何かした」と聞いたことに、蓮は違和感を覚えていた。
 海には、谷原栞那が最近ちゃんと通院しているのかどうか教えて欲しいとメールを打っただけだ。個人情報をメールでやりとりするのは問題があるので、直接会いたいと海から電話が返ってきた。それで、ちょっと事情があるので、日曜日の仏教婦人会の時間に合わせて昭光寺に来て欲しいと伝えた。

「釈迦堂くんや舟くんやったら、待ったなしでとっくに連行されてるでしょ」
 それはその通りだ。舟は前科こそ無いが、警察のお世話になったことは何度かある。しかも、いつ誰に刺されてもおかしくないような生活をしている。蓮にしても、警察から見たら、所長が失踪している調査事務所の、怪しい留守番探偵だ。
 もっとも、伯父の釈迦堂魁はもともと人望のある刑事だったらしく、今でも時々「お世話になった」と名乗ってくる刑事がいる。蓮の知らないところでちょっとした問題が起きていても、誰かがお目こぼししてくれている可能性も否定できないのだが、そのあたりに首を突っ込んでややこしい事に巻き込まれたくはない。

 海はソファには腰掛けようとせずに、少し居心地が悪そうに壁の絵やサイドボードの上の置物を見回している。いかにも値段が張りそうな絵や彫刻、書画、大きな紫水晶などだ。
 とは言っても、昭光寺の住職はいささか気むずかしい頑固な老人で、先祖から受け継いだものを本物だろうが偽物だろうが大事にしているだけのようだ。やむなく寺を継いだという三男坊の副住職は、「蓮ちゃん、あれ、半分は偽もんか屑やで。京都ゆうとこは、二束三文のもんでも、それらしゅう見えるさかいな。こわいこわい」と屈託が無い。

 たとえ飾られている美術品が偽物でも、観光のために公開されているわけでは無いが、それなりに歴史があり、檀家も多い寺なので、やりくりに困っている様子は無い。蓮のような居候を置いてくれる余裕もある。
「なんか、落ち着かないね」
 蓮が話の切り出し方を迷ってい間に、海がぽつんと言った。

 寺の応接室はプライベートな場所ではない。十人ほどの客が余裕を持って座ることができる応接セット、床に敷かれた厚みのあるペルシャ絨毯も、海の居心地を悪くしているに違いない。
 分かっていたのだが「俺の部屋に」とは言い出しにくかった。
 元婚約者とはいえ、いや、元婚約者だからこそ、今更思い出のある場所で二人きりになるのはどうかと思ってしまう。

 まぁ、いいか。海が嫌だと言わなければ。それに今は「俺の部屋」ではなく、「俺たちの部屋」だ。もっとも、その部屋を海に見られることには躊躇いがなくはないのだが、確かにここではあまり突っ込んだ話もしにくい。
 場所を変えるという提案に、海は「そうしよう」と言っただけだった。

 蓮と和子が居候している離れには、以前、この寺の息子たちの部屋があった。
 今は家を出て行ってしまっている長男はバングラデシュで学校経営をしていて、同じく次男は南米でピラミッド研究に没頭している。年の離れた三男が寺を継いでいるが、今は母屋に移っている。小学生の時にこの寺の居候になった時から、蓮は、既に就職して家を出ていた長男の禮為(れいし)の部屋を使わせてもらっていた。

 離れには部屋が二間あるが、和子が一緒に住むようになっても、まともに使っているのは一部屋だけだった。もう一部屋には数の少ない連の服と、使わなくなった本が段ボールに詰め込まれて放ってあるだけだ。食事は母屋の方で食べるし、和子は蓮が帰ってくるまで、母屋で過ごしているか眠っている。そのまま母屋で寝かしておくこともあるが、どういうわけか母屋に放っておくと、翌朝ものすごく機嫌が悪いので、夜中に帰ってきてから蓮が離れに連れて行っている。

「ふ~ん」
 部屋に入った途端に、意味深に海が蓮を見た。
「なんや」
「釈迦堂くんの部屋に来るの、久しぶりやもん。でも、ちょっと安心した」
「なんで」
「だって、レイさんの本以外なんもなかったやん。でも、今や、ちゃんとお父さんしてるんやね」

 確かに、当時から、蓮の持ち物などほとんど無かったし、何かを所有することに関心も無かった。自分自身についての無関心は変わらないが、和子が一緒に住むようになって、殺風景だったこの部屋に、和子のものだけが増えていっている。
 とは言え、和子のための可愛らしい箪笥も、ハンガーに掛けられた女の子らしい服も、いくつかのお洒落な鞄も、ほとんどが仏教婦人会の人から譲り受けたものだ。しかも、和子は服が可愛いかどうかについてはあまり関心が無いらしく、どういう基準かは分からないが、数枚の同じ服ばかり着ている。少しぼろぼろになってきているのだが、着慣れていて安心できるのかもしれない。

 海は興味深そうに和子の勉強机を見ている。
 来年小学校に上がるので、寺の息子たちが使っていた古い勉強机を、住職が使いやすいように手直ししてくれた。まだ教科書も並んでいない机だが、和子は時々椅子にじっと座っている。後ろ姿からは表情は分からないが、小学校似通うことを楽しみにしているのだろう。
 それでも和子にとって、学校で普通にやっていくということは、決して低いハードルではない。

 秋からは教育委員会とも相談しなければならないこともある。支援学校に行くのか、普通学校の支援学級に行くのかと確認を受けたが、とりあえず普通学校でと返事をしたら、担任が一人で何十人もの子どもを見るので、何かあったときに対処できないと不安をぶつけられた。
 多少の身体的不自由と、対人関係の混乱による発達障害の疑いや、少しばかり健常の子どもについて行けないことがあっても、普通学校でやっていけないほどではないと蓮は思っていたが、学校現場はあまりにも多くの問題を抱えすぎていて、和子のような子どもを受け入れる余裕までないのかもしれない。

 その事は、主治医である海にもまだ相談はしていなかった。
 普通の子どもだと勘違いされることもあれば、一方でこうして特別な子ども扱いを受けて社会から疎外されかねない。
 ふと、そんな中で成長してもうすぐ大人になろうという谷原栞那のことを思った。学校も家庭も社会も、彼女を上手く受け入れてやることができなかったのかもしれないと思うと、和子の将来に対する不安を感じずにはいられない。

「にこは、相変わらず俺のことを父親とは思ってないやろけど」
「そうかなぁ」
 海は意味深にそう返事をすると、小さな低い座卓の前に正座した。そう言えば、座布団も置いていない。
「やっぱりこっちが落ち着くね」

 蓮がエアコンの電源を入れようとすると、海が、いいよ、うちのマンションより断然ましやもんと言った。窓を開けてあったので風は通っている。蓮は扇風機のスイッチを入れた。その音に、海が、懐かしいね、と言った。
 京都の夏を、エアコンという文明の利器なしに乗り切ることは近年では難しくなっている。境内は大きな木々のおかげで風が通ってくるので、クーラーなしで暮らしていたのだが、和子を引き取ってからは脱水ですぐに具合が悪くなるので、昭和な暮らしを諦めて、エアコンを取り付けてもらった。

 海が懐かしいと言ったのは、扇風機のことではなくて、この部屋で過ごした時間のことだったかもしれない。扇風機の風で海の短い髪がふわっと持ち上がって、蓮は久しぶりにどこかがきゅっと痛むような感覚を味わった。
 当時はどちらかと言えば、蓮が海のアパートの部屋に行く方が多かったのだが、この部屋ではよく一緒に机に並んで勉強した。海の部屋に行くと、どうしても海は料理を作ってくれようとするし、それに若い男女が一緒にいて求め合わないでいる方が難しかった。寺に居候している蓮の部屋では、洗濯物にもゴミにも気を遣うことになるから、真面目に勉強できるというので、ここが彼らの勉強部屋になっていた。

 中途半端にでも触れられないと思うと、余計に触れたくなるものだった。その少し窮屈な甘酸っぱい思い出が胸を締め付けるのだと思った。
 あの頃と海はあまり変わっていないように感じるが、きっと自分はずいぶんと遠くに来てしまっているのだろう。蓮はそう思って、何かをすっと断ち切った。
「それで、谷原栞那のことだけど」
 蓮は、海に向かい合って座った。向かい合うこの距離が、今はちょうどいいと思った。



Category: (2)砂漠に咲く薔薇

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【2017年酉年】あけましておめでとうございます~ねこはぴょん!~ 

酉年絵馬
 みなしゃま、あけましておめれとーございましゅ!
きゅ、きゅう……ね、タケル、なんだっけ? きゅうきゅうしゃ?
(正月から縁起でもない。「きゅうねんちゅう」)
そっか! きゅ、きゅうねんしゅーは、お世話なりやした!
(なんでいつも、そこだけ仁義風になるかなぁ。ま、いいか)
えっと、ほ、ほ、ほ~、ほけきょ!
(しかも最近、「ま、いっか!」だけじゃなくて「ごまかす」という技も身につけたな)
あのね、タケル、ほけきょってね、ミナミの島の子は上手じゃないんだって。それでね、キタの子は上手なんだって。ね、ミナミってナンバのこと?
(お前、どうしてそういう中途半端な知識で適当に話を結びつけるかな。後で説明するから、先にご挨拶。「ほんねんも」)
あ、ほんねんも、どうぞよろしゅうに!
(今度は京都の猫になってるな。しょうがないな)
ね、おせしりょうり、たべる~!
(「おせち料理」)
おちしりょーり!
(あっち行って食べなさい)
にゃ~い!
nekonabe.jpg
(お気に入りのガラス細工の猫。こちらは猫鍋)

 皆さん、タケルです。
新年のマコトのご挨拶も今年で3年目になりましたが、相変わらず中途半端で済みません。改めまして、旧年中は大変お世話になりました。引き続き、本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
マコトはちょっと別のことを覚えると、他のことはまた忘れてしまうので、本当に毎年進歩のないことで申し訳ございません。ところで、今年は猫用お節料理を作ってみました。かつ節味の伊達巻きに紅白のかまぼこ、ワカサギと湯通ししたササミ、鯛と鱈、サツマイモと大根とにんじんも猫用に調理しました。
(そりゃ親ばかってもんだよ)
どうやら管理人が多忙ですっかりご挨拶が遅れたようです。ぎりぎり松の内? 関西では15日までだという説もあるようなので、笑って許してやってください。
(あ、代わりに謝罪いただいて、ありがとうございます。ところで、こっそり「ねこ検定」受けてたでしょ。どうだったの?)
もちろん、一発合格ですよ。マコトは「ねこねこ検定」、また落っこちたみたいですけどね。こっそり覗いてみたら、こんな感じで。

【ねこねこ検定・問題】
AとBからそれぞれ一番適切と思うものを選んで結びつけなさい。ただし、一度選んだものは二度と選べません。
A:ねこ、うさぎ、かえる、とら
B:ぴょん、がお~、ぴょこ、にゃあ

「う~ん……え~っと~……わかった! ねこはぴょん!」(なんでや!)

という具合で、マコトの答えは「ねこ:ぴょん」「うさぎ:ぴょこ」「かえる:がお~」「とら:にゃあ」でしたからね。
(うさぎとかえるがちょっと難しいね。「かえるぴょこぴょこ、みぴょこぴょこ」だからか)
1回しか選べないことになってますから。でもまぁ、理不尽な問題でもあります。マコトは去年、ウシガエルを見たので、カエル=ドスのきいた声で鳴く、と思っているようだし、トラは見たことないけど猫科だとは知っているんですよね。
(そもそも「ねこはぴょん」が間違ってるから全部間違うんじゃ……)
でも、あながち間違いというわけでも……
(う~む。賢いのか、おバカなのか……ま、いいか! 「ねこはぴょん!」で)

 皆様、遅ればせながら、明けましておめでとうございます!
ジョージぬいぐるみ
(あ、間違えた! これは我が家のジョージコレクションだった。えっと、こっちだ)
酉年
(アイヌの木彫りの白鳥と、キラキラの鶏土鈴)
改めまして、大海です。ご挨拶がすっかり遅れてしまいましたが、旧年中はあれこれのイベントをかっ飛ばしてしまったりで、大変申し訳ありませんでした。今年こそは、と決意も新たにしております。が、寄る年波には勝てない部分もあるので、今年もお手柔らかにおつきあいくださいませ。
実は先ほどタケルが言っていた「ねこ検定」、本当に本が売っていたのですね。
ねこ検定
試験問題までついていました^^; いえ、こちらはもちろん人間用です。
ネットで練習問題の1問目が「猫を派遣する謎の組織のことを何と呼ぶか」だって! それ、検定にいる?

そして、マコトが言っていた「ほ~ほけきょ」の話は、どうやらマコトも朝から某ラジオ局の「おはようパーソナリティ、道上洋三です」を聞いていたらしく……ウグイスって南の島の方へ行くと鳴き方がむちゃくちゃ下手なんですって。それは餌がいっぱいあるので縄張り争いがきつくなくて、ちょっと誰かが侵入してきても「何すんねん! さっさと出て行かんかい!」とはならず、「あ、そこ、うちの縄張りなんですわ~」「そりゃすんまへん」で済むからだそうで。でも北の方は餌が少なくて縄張り争いも苛烈。雌をゲットするのも真剣勝負になるそうです。やっぱり気候って、人格ならぬ、鳥格も作り上げるのですね~
それを考えたら、マコトがちょっぴりおバカなままで許されるのは、タケルが過保護すぎるからに違いありません。真も多分同じですけれど。
正月和菓子
お正月の和菓子はやっぱり花びら餅。
tosinonikumann.jpg
ローソンのニワトリ肉まん(中身は鳥の照り焼き)もちょっとびっくりするけど^^;

今年はカレンダーが過酷で、仕事は水曜日終わり(12/28)の水曜日始まり(1/4)。そもそも学校の長期休みになるとものすごく忙しい我が職場、休みがあるようなないようなまま1年が終わって新年が始まって、いきなりのトップギアで3日間、今日はやっと休憩しています。仕事も去年の積み残しがいっぱいあるのですが、まだまだ頑張らなくてはなりません。
明日は三味線のお仕事です(博物館でコンサート)。

2016年は【海に落ちる雨】の全編をアップし終わった年でした。書き終えたのはもう何年も前なのですが、アップしながら「ほんとにこんなのアップしていいのかなぁ」とうだうだ悩みながらでした。今読み返しても、粗いというのか、手直ししなければならい部分がいっぱいあるのですが、あの書いたときに勢いは自分でも「取り憑かれた状態」だったなぁ、と思い出したりします。
勢いで次作をアップしちゃいたいような気持ちもちょっとあります(1節分はもう書き終えてあるので)。
昨年は短編も進まなかったので、そちらを終わらせてからと思っていたのですが、このままでは小説ブログではなくなってしまいそうなので、ちょっと検討しなくちゃ。
書く書く詐欺ですが、短編を終わらせることと、オリキャラオフ会をすることが目先の目標。

【石紀行】は行くだけ行って記事が追いついていないので、今年は頑張らなくては。忘れていないか心配になって写真を見てみたら、写真を見ると石の質感まで思い出す事ができました。どの石も早くアップしてくれ~と言っているような気がする……
今年の予定は、まず4月に出雲の石を見に行く予定がありますが、後は未定。勢いでどこかに行っちゃうかな。
旅の予定は、ここ2年行けていなかったGWの青森に行くことになっています。大会に出場の予定はないんだけれど、聴きに行って、みんなで温泉かな?

仕事も忙しくなりそうなので、どこまで頑張れるかですが、ぶっ倒れないようにしなくちゃ。何をするのも中途半端になりがちなので、今年はしっかり片付けていきたいと思っています。
皆様、今年もゆるゆるおつきあいくださいませ。

年賀状に使ったレオナルド・ダ・ヴィンチの名言
「どこか遠くへ行きなさい。仕事が小さく見えてきて、もっと全体がよく眺められるようになります。不調和やアンバランスがもっとよく見えてきます」
「人間はやり通す力があるかないかによってのみ、称賛または非難に値する」

(トップの写真は大阪の某神社の巨大絵馬。近隣の学校の美術部の生徒さんが描かれたものです)

Category: つぶやき

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